移住者の人権
深刻な人手不足への対応のため、外国人労働者の受け入れ拡大に向けて2018年12月に入国管理法が改正され、2019年4月1日から新たな在留資格「特定技能」が新設された。
「特定技能」は、一定の知識や経験を要する「1号」(14業種、通算5年まで)と熟練した技能が必要な「2号」(2業種、在留期間の更新可)の2種類。「1号」の在留資格を得るには業種ごとの技能試験と日本語試験の合格が必要だが(介護分野は「介護日本語評価試験」も課される)、これまで原則として高い専門性を必要とする分野に限定されていた就労の門戸を広げる「政策転換」が行われたのである。政府は、2023年までの5年間で約34万人を上限として受け入れる方針を打ち出したのである。
なかでも、介護分野は最も期待が高い。2019年度は5,000人、5年間で最大60,000人の受け入れが見込まれている。今回の新制度の導入を受けて、介護現場で外国人が働く制度は大別すると5種類となった。介護サービスを受ける利用者からみれば一様に外国人介護士なのだが、就労の背景は多様である。それらの枠組みおよび課題を整理する(p11の4つの枠組みに関する表を参照)。
先陣を切ったのは、EPA(経済連携協定)に基づく介護福祉士の候補者の受け入れである。日本との協定(条約)に基づき、相手国から候補者が来日し、介護施設で3年以上の就労を積み、国家試験を受験する。原則4年(最長5年)以内に合格すれば介護福祉士として働き続けることができ、不合格の場合は帰国しなければならないとういう制度だ。2008年にインドネシアからの受け入れが始まり、2009年にフィリピン、2014年にベトナムからと続いている。2018年度までに合計約4,265人が来日しており、国家試験は延べ1,724人が受験し、985人が合格している。
日本語による国家試験の合格というハードルの高さから、当初は受け入れ人数が低迷した。政府は、日本語研修や国家試験対策への支援強化など制度の改善策を次々に打ち出した。その結果、試験の合格率が向上するとともに、人数も増加してきている。
フィリピンとのあいだのEPA交渉が大筋合意に至った頃から在日フィリピン人女性を主対象に「ホームヘルパー2級」(現、初任者研修)の講習が全国各地で開催されるようになった。それを契機に「日本人の配偶者等」「永住者」「定住者」など職種に制限なく就労可能な在留資格をもつ在日外国人が徐々に増えていった。その数は着実に増加しているとみられるが、人数を把握するための公式統計は存在しない。
2017年9月以降、留学生が日本国内の2年以上の課程を有する介護福祉士養成学校などを修了し介護福祉士の資格を取得すると在留資格「介護」が付与され、介護施設で働き続けることが可能となった。留学生は通常、日本語学校で1~2年間学んだうえで、介護福祉士養成学校というコースをたどる。その間、介護施設でアルバイトに従事する。
2017年11月1日の技能実習法の施行を機に、技能実習制度に介護職種が追加された。優良とされる団体・企業などの場合、最長5年間の雇用が可能となった。
介護はコミュニケーションを前提とする対人サービスであることから、技能実習制度では初めて来日時の日本語能力要件が設けられ、「基本的な日本語を理解することができる」水準である日本語能力試験「N4」程度と設定された。実習2年目に移行する時は日常の「日本語をある程度理解」できる「N3」程度が求められ、達しなければ帰国しなければならないこととされた。
1年経過した2018年10月末現在、介護実習生としてインドネシア、中国などから472人が来日した。当初の高い期待とは裏腹に受け入れのペースが遅い。政府は2019年4月から、「N3」に不合格でも実習2年目に移行でき、合計3年間は働けるようになった。
従来から、労働者不足にあえぐ介護現場の担い手として外国人介護労働者を受け入れてきたにもかかわらず、EPAは外国との経済連携の強化、在留資格「介護」は専門人材の受け入れ、技能実習は途上国への技能移転といった様々な建前が掲げられてきた。そこに人手不足への対応という本音が吐露され、特定技能1号の「介護」が接ぎ木されたのである。技能実習に3年従事すれば、特定技能に無試験で移行できるとされる。これまでの建前=カモフラージュが剥がれたのである。
ともあれ、利用者が安心して介護サービスを受けるためには、介護従事者のスキルやコミュニケーション能力の高さに加えて、介護労働者が安心して働くことのできる条件を整備することが重要である。
そうしたなか、課題は多い。EPAは、二国間の条約に基づき政府が管轄する事業であり、受け入れ施設に多くの要件を課していることから、労働者はおおむね良好な就労環境にあるはずであった。ところが、この10年間に数々の労働問題が生じている。「賃金・残業代の未払い」「パワハラ」「マタハラ」「雇用契約中の解雇」「強制帰国」など数々の相談がNGOに寄せられている。民間主導で展開される技能実習制度や特定技能においては問題はさらに深刻である。技能実習生は送り出し会社に支払う手数料の借金を返済するところから、そして留学生は高額な学費の支払いという重荷を背負いながら日本での生活を始めるのである。はたして、「持続可能な受け入れ」を確保することができるのだろうか。介護労働者の権利保護をより一層図る必要がある。
2019年4月1日現在
|
経済連携協定(EPA) | 在留資格「介護」 | 技能実習制度 | 特定技能1号「介護」 |
開始時期 | 2008年 | 2017年9月1日 | 2017年11月1日 | 2019年4月1日 |
制度の目的 | 二国間の経済活動の連携強化 | 専門的・技術的分野の外国人受け入れ | 技能移転(国際貢献) | 一定の専門性・技能を有する外国人の受け入れ(労働者不足対応) |
送出国 | インドネシア(2008年)、フィリピン(2009年)、ベトナム(2014年) | 制限なし | 技能実習生を送り出す国(約9カ国) | 技能実習生を送り出す国など |
送出機関 | 送出国の政府機関 | 送出国の日本語学校、留学代行業者 | 送出会社(海外就労斡旋会社) | 送出会社(海外就労斡旋会社) |
就労までの養成機関、受け入れ調整・支援機関 | 国際厚生事業団(JICWELS) |
・日本語学校(1~2年) ・介護福祉士養成施設(2~3 年) (厚労省の体制整備事業の実施団体として公益社団法人日本介護福祉士養成施設協会) |
・団体監理型:監理団体 ・企業単独型:各施設 ・制度の運営支援:国際研修協力機構(JITCO) ・制度の適正な実施と技能実習生の保護:技能実習機構 |
登録支援機関 (厚労省の介護人材支援事業の実施団体として国際厚生事業団) |
受け入れ上限 | 各国から2年間で合計600人 | なし | なし | 5年間で最大60,000人 |
在留資格 |
特定活動「介護福祉士候補者」 同「介護福祉士」 |
資格取得前:留学 資格取得後:介護 |
技能実習 |
特定技能1号 (介護は2号の対象分野ではない) |
来日・就労に必要な資格 | 看護学校修了者、または政府による介護士認定者 | ― | 介護施設、居宅での介護従事者または、看護学校修了者、あるいは政府による介護士認定者 | 介護技能評価試験、または介護分野の第2号技能実習修了者 |
日本語能力 | 現地と日本で通算1年以上の日本語研修(ベトナムは日本語能力試験N3合格者のみ来日、他はN5) | 送出国の日本語学校での学習歴6カ月以上 | 入国時:日本語能力試験N4程度 | 日本語基礎テストまたは日本語能力試験(N4)に合格、および介護日本語評価試験に合格 |
就労可能年数 |
候補者は原則4年(最長5年) 合格者は在留期間の延長可 |
資格取得者は、在留期間を延長可 | 1号(1年)+2号(2年)+3号(2年)=5年を上限 | 通算5年を上限 |
国家試験 | 介護福祉士試験に合格が条件。不合格の場合は帰国。 | 2021年度までの介護福祉士養成校修了者は卒業後5年間、介護福祉士に従事すると試験免除。 | - | - |
職場移動 | 資格取得後は可能 | 可能 | 不可 | 制度上は可能 |
家族同伴 | 資格取得者は可能 | 資格取得者は可能 | 不可 | 不可 |
(作成・藤本伸樹)