特集② SDGs(持続可能な開発目標)を実践する
「KANSAI-SDGs市民アジェンダ」(以下「K-SDGs」)は関西NGO協議会の設立30周年レセプション(2018年3月)で、あるNGOのよびかけによって始まった取り組みで、“市民社会”から「持続可能な開発目標(SDGs)」について発信していきたいという思いが原動力である。SDGsが解きほぐそうとしている課題に対して、市民一人ひとりが考え、声を出し、それを共有し、SDGsの根本的な意義に気づき自分ごととしていこうという動きである。
北海道の“NPO法人さっぽろ自由学校「遊」”は、1年間のワークショップのまとめを2017年3月に『SDGs北海道の地域目標をつくろう』という冊子にしていた。「貧困と格差」「労働と雇用/消費と生産」「ジェンダー/マイノリティ」「北海道と先住民族」「エネルギー」「気候変動/海洋資源」「生物多様性」「質の高い教育/ESD」「国際協力と平和」のテーマで話し合いをして、SDGsをベースに独自の地域目標や行動計画を作っていくというものである。そこには、「貧困をなくしたい」「人権を尊重したい」「環境を守りたい」「平和な世界を作りたい」といった当たり前の市民感覚を世界共通の価値や目標として裏付けてくれるのがSDGsなのであり、「我々の世界を変革する」というタイトルのアジェンダの主語は私たち一人ひとりの市民であるという確信がある。
これに学ばない手はないとの思いから、関西NGO協議会は「遊」事務局長の小泉雅弘さんを招いて2018年7月7日に肥後橋官報ビルで「K-SDGs」のキックオフを40名の参加を得て行った。札幌での経緯や経験に加えて、新しい冊子『SDGs北海道の地域目標をつくろう2 SDGs×先住民族』(2018年3月発行)の紹介もあり、「誰一人取り残さない」というSDGsの姿勢を自分ごととし、社会的包摂の視点で地域の課題を絞り込む強い意志が伝えられた。
「K-SDGs」の取り組みのための分科会(ワークショップ)は以下のように行われた。
第1回 |
「人権・ジェンダー」 9月11日、大阪聖パウロ教会研修室、 参加者=36名、発題=三輪 敦子 |
第2回 |
「災害」 10月27日、大阪YMCA、 参加者=40名、発題=吉椿 雅道 |
第3回 |
「多文化共生」 12月8日、大阪YMCA、 参加者=45名、発題=田尻 忠邦 |
第4回 |
「教育」 1月26日、肥後橋官報ビル、 参加者=40名、発題=新田 和宏 |
第5回 |
「持続可能な働き方・ビジネス・人権」 2月9日、肥後橋官報ビル、 参加者=40名、発題=岡島 克樹・松岡 秀紀 |
第6回 |
「環境」 4月5日、肥後橋官報ビル、 参加者=16名、発題=杦本 育生 |
分科会では発題を受けて参加者が話し合いをして、最後に「私の描く2030」を書いてもらった。
また、2018年で第5回を迎えた「ワン・ワールド・フェスティバル for Youth」(12月24日、大阪YMCA)におけるプログラムとして「高校生/大学生アジェンダ策定プロジェクトキックオフ」のワークショップが行われ、50名の参加があった。
第2回分科会「災害」のようす。
向かって右から2人目が筆者の岩崎裕保
2015年9月に、国連で「我々の世界を変革する:持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)のための2030アジェンダ」が採択されて、日本では2016年5月に首相を本部長として「SDGs推進本部会合」が開かれ、同年12月には「SDGs実施指針」が決定された。経団連はSDGsを取り入れて、「企業行動憲章」を2017年11月に改訂した。万博誘致にもSDGsは使われ、経済活性に資するという議論がしきりに行われるようになった。
SDGs実施指針では「普遍性」「包摂性」「参画型」「統合性」「透明性と説明責任」の5つの原則で課題に取り組み、推進体制では行政の計画や方針をSDGsの観点から行っていくことや、広範なステークホルダーとの連携を図ることなどを表明している。その上で、「ビジョンの実現を目指すうえで、脆弱な立場にある人々との協働、国際的・地域的ネットワークを活かした問題提起や政策提言において、NPO・NGOが果たす役割は極めて大きい」と明記している。実施指針では、ステークホルダーとして、NPO・NGO以外に「民間企業」「消費者」「地方自治体」「科学者コミュニティ」「労働組合」が挙げられている。
SDGsは「誰一人取り残さない」と誓い、持続可能な開発の3つの側面、すなわち環境、社会、経済を調和させることが重要だと指摘しているが、それはたとえばジェンダー平等の達成はほど遠く、環境と社会と経済のバランスは極めて悪いといった誰も否定できない事実が厳存するからである。だからこそ国連での話し合いを経てSDGsの17のゴールと169のターゲットが合意された意義は計り知れないほど大きく、政府も経済界もこれを無視することはできなくなっている。
JICA関西が旗振りをして「関西SDGsプラットフォーム」が2017年12月に発足した。NGOも運営に関わってほしいとの要請もあり、市民社会の声を反映させるために、プラットフォームの運営委員会に関西NGO協議会副代表が入っている。プラットフォームがSDGsに則った運営がなされているか、万博などの取り組みが経済、環境、社会(とりわけ人権)を包括的に捉えたものとなるかウオッチしていくといった役割を果たすことで参加する組織とのパートナーシップを実践し、SDGsの達成を目指す。
「私の描く2030」で、出されたものをいくつかひろってみる。
「議員を男女半々に」「クオータ制の実現」「ソーシャル・マイノリティについて学ぶ機会の保障」「定時退社が基本」「家事と育児と介護を男女平等に」「待機児童を0に」「同一労働・同一賃金を女性・外国人にも保障」「ベイシックインカムの試行」「いろいろな人といっしょに働ける社会」「普通という言葉を使わない」「町内会の集まりに外国人が来る社会」「災害に備えて平時のつながりを」「最後のひとりまで」「違いを楽しむ」「教員の学び直しの機会を」「多様性・対話・平和の教育、グローバルシチズンシップ教育を」「再生エネルギー100%に近づける」「使い捨て容器0の町」「消費から変えていく暮らしぶりを次世代に繋ぐ」といったように、人びとの暮しに向き合い、そこにある課題解決に努めていくことが私たち市民の願いであることがよく分かる―まさに課題は私たちの足もとにあって、それに取り組んでいくことがSDGsの実現である。さまざまな立場の人びとが集い意見を出し合っていくことで、2030年にはこうありたいという目標を明確にしていくことができつつある。
G20サミットの直前6月25・26日に「大阪市民サミット」が行われ、「K-SDGs」は「地域社会・SDGs」分科会を担当した。約90名の参加者があり、1年間の活動の報告とともに、沖縄、岡山、富山そして札幌のパネリストからそれぞれの地域で行われている取り組みを聞き、SDGs達成にむけて市民社会が意思決定に参画することの重要性を分かち合い、フロアからは格差や貧困の問題やマイノリティの課題に取り組む意義が提起された。
G20に向けて市民社会から提言をするC20(Civil20)が4月21~23日に東京であり、関西NGO協議会は「K-SDGs」について報告する機会を得た。報告後、中国、ニュージーランド、モンゴルからの参加者が「自分たちの地域でもローカルアジェンダ策定に取り組みたい」と声をかけてくれた。それぞれが住む地域で、市民である意識を大切にする人がいれば、すぐにはじめられるシンプルな構造が共感を得たのであろう。
C20と「大阪市民サミット」というステージを経た今、「K-SDGs」の取り組みは「市民性」「地域性」という特徴が明確になったことで、他の地域とも課題と成果を共有しながら次の段階に進もうとしている。SDGsを自分ごととしてとらえ行動に移す姿勢が培われてきていること、そして、市民アジェンダの声を政策決定の場に届けることが大切であるという意識が醸成しはじめている。
「K-SDGs」では、いましばらく話し合いの場を積み重ね、また消費者や労働組合そして学校などとの連携をしつつ、市民の声を反映させたアジェンダ作りに取り組んでいく。みなさまのご参加をお願いしたい。
<参照サイト>
KANSAI-SDGs市民アジェンダをつくる(関西NGO協議会)
http://kansaingo.net/kansai-sdgs/category/citizen_agenda/