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国際人権ひろば No.147(2019年09月発行号)

人として♥人とともに

縮小する市民社会スペース ~人権と民主主義の危機~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 ヒューライツ大阪は、大阪で開催された2019 G20サミットに際し、市民の視点と立場で課題や提言を発信するC20(Civil20)に関わりました。世界の市民社会ネットワークと協力して政策提言書を作成し、4月にはC20サミットを開催しました。同様のグループはG7にもあります。このような、市民社会やNGO/NPOが集う場で、近年、懸念されているのが、「市民社会スペースの縮小」という問題です。C20の政策提言書2019は、冒頭のコミュニケで以下のように述べています。

 現在、市民が民主的な方法で行動するための空間が狭まっており、否定的な効果を生んでいます。若者たちの抗議行動を禁止したり、犯罪化することで、社会は全体として脆弱になっています。G20のすべての指導者たちは、G20各国をはじめとする世界各国、また多国間機構において、市民社会の活動環境を向上させ、人々の声を政策に反映する市民社会の取り組みを保障するべきです。いつにもまして、意思決定における参加と透明性の確保が、G20の優先課題とされなければなりません。

 市民参加の分野で活発に活動しており、今回のC20にも関わったNGOとして、南アフリカに本部がある国際NGO、シヴィカス(CIVICUS)があります。「市民参加のための世界連合(World Alliance for Citizen Participation)」という副称をもつシヴィカスは、定期的に、世界各国における市民的自由についての調査報告書を発表しています。今回は、2018年11月に公表された「攻撃される人々:基本的自由への脅威に関する世界調査(People Power Under Attack: A global analysis of threats to fundamental freedoms)」という報告書を参考に、市民的自由に関する世界の状況を考えてみたいと思います。

 シヴィカスは、世界のNGOや調査団体と協力し、「結社」「平和的集会」「表現」の3つの自由に関するデータを集め、196カ国における市民社会スペースや市民的自由を、「制限がない」「縮小している」「妨害が存在する」「抑圧されている」「閉ざされている」の5段階にランク付けして公表しています。2018年11月の報告書では、世界の6割にあたる111カ国で、市民社会の活動に対する深刻な攻撃がおこなわれているとしています。

 報告書は、「結社」「平和的集会」「表現」の3つの自由のうち、最も制限や抑圧の対象になっているのは表現の自由であるとしていて、なかでも頻発しているのがジャーナリストへの攻撃、そして検閲であるとしています。ジャーナリストへの攻撃にはソーシャルメディア上での誹謗中傷、訴権乱用が疑われる訴訟提起、抗議行動取材中の暴行等が挙げられます。また、批判を封じ抗議行動を抑え込むために検閲がおこなわれており、具体的な例として、政府によるニュース報道サイトへのアクセス妨害やテレビ局の閉鎖、出版物の販売差し止め・回収が挙げられています。

 アジア太平洋地域における市民的自由については、報告書は、依然として課題が多いとしています。アジアで、5段階の最上位である、市民的自由に関し「制限がない」との評価を得たのは台湾のみです。それに続く「縮小している」と評価されたのが日本と韓国です。アジア太平洋地域における最大の問題は検閲による市民的自由の制限であるとしています。デモの参加者に対し、生命の危険がある武器を用い過剰な弾圧がおこなわれていることも懸念されています。

 いくつかの国における状況にも言及しており、中国では先進技術を活用した検閲がおこなわれ、ミャンマーでは軍事政権下の人権侵害が戻ってきていて人権擁護者が弾圧されているとしています。ベトナムでは、政府批判を抑え込み一党支配を維持するために、何百人もの活動家が拘束されているとしています。

 太平洋諸国については、ナウルにおけるメディアへの締め付け強化が懸念されています。パプア・ニューギニアでは、ジャーナリストが嫌がらせや攻撃の対象となり、開発プロジェクトや収奪的な産業開発に反対する活動家が脅迫を受けたり逮捕されたりしています。

 アジアで改善がみられている国として名前が挙げられているのはマレーシアです。マレーシアは、2018年5月の選挙で61年ぶりに政権が交代しました。民主的改革を謳う新政権は、前政権下で国家への反逆や暴動教唆の罪に問われた活動家を釈放し、人種差別撤廃条約を批准するとの方針を明らかにしています。

 シヴィカスの報告書(注で、市民的自由や市民社会スペースに関し「制限がない」と分類された国は44カ国にとどまっていて、人口で考えると、世界の全人口の4%にすぎません。一部の政治家による特定の記者に対する態度や表現の自由に関する意見を考えても、市民的自由や市民社会スペースの保障は日本に暮らす私たちにとっても他人事ではありません。民主主義と人権の実現にとってなくてはならない市民的自由や市民社会スペースに関する世界の状況を知ることは、私たちの社会における市民的自由の現状と課題を改めて考える機会を提供してくれます。

注:シヴィカスの報告書は以下からダウンロードが可能。
https://www.civicus.org/documents/PeoplePowerUnderAttack.Report.27November.pdf