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2019年9月30日から10月2日にかけて韓国で開催された「世界人権都市フォーラム」に参加しました。世界人権都市フォーラムは、光州事件で日本でもよく知られている韓国全羅南道の光州で、2011年以来、毎年開催されているフォーラムです。今年のフォーラムは、光州市、韓国国家人権委員会、光州教育庁、韓国国際協力団(KOICA)が共催し、後援には韓国の教育部、法務部、外交部、韓国ユネスコ国内委員会、ユネスコ・アジア太平洋国際理解教育センター(APCEIU)、韓国観光公社が名前を連ねました。アジア太平洋地域の様々なネットワーク団体が企画に加わり、参加者は、国連人権高等弁務官事務所、国連HABITAT、各国の市長や市の行政官、市議会議員、国家人権委員会、研究者、市民団体、そして光州市民と多岐にわたっていました。私は、ADA(Asia Development Alliance)という韓国に本部がある国際ネットワーク団体の招待で、1日と2日の両日にわたり、「2030アジェンダ(持続可能な開発目標:SDGs)に関する国際ワークショップ」に参加しました。
フォーラムの目的は、1980年の光州事件と1998年に市民レベルの憲章として採択されたアジア人権憲章の精神を受け継ぎ、2011年の第1回世界人権都市フォーラムで採択された光州人権都市宣言に示されている人権都市を実現することです。2019年のフォーラムの目的は、以下の3点でした。
「2030アジェンダに関する国際ワークショップ」では、「アジアにおける人権とSDGsの地域での実践に関する専門家パネル」で報告しました。人権の保障、そして人権侵害の回復に責任を有するのは国家ですが、同時に、エレノア・ルーズベルトが述べたように、普遍的人権が始まるのは「どんな地図でも見つけられないような身近で小さな場所」です。しかし、残念ながら、国家がそれらの「身近で小さな場所」に丁寧に注意を向けるのは簡単ではありません。この意味で、「身近で小さな場所」により近いユニットである都市あるいは地方自治体には、国家の法律、政策、施策を具体的に実施し、そして各自治体の現状と課題に即し、人権の実現に向けて効果的かつ柔軟に対応できる特別な役割があると言えるでしょう。国家というマクロのレベルと、「身近で小さな場所」であるミクロのレベルの中間に位置するメソ(中間)レベルとしての重要な責務が自治体にはあると思います。
そうした認識から、報告では、2016年に施行された日本の差別解消三法(注が理念法にとどまっていて、人権侵害の禁止や取り締まりに有効な力を発揮できない状況にあるなか、深刻なヘイトスピーチを経験してきた川崎市や大阪市が、刑事罰を科す、あるいは加害者の氏名を公表する内容を含む条例の制定に踏み出していることを話しました。そして、こうした取り組みが、外国人労働者等、日常生活で常に接しているのに、人権侵害が不可視化されている人たちの人権の回復にも影響を与える可能性があるのではないかと述べました。女性にとっての「安全な都市」の実現についても、ジェンダーに基づく女性に対する暴力が発生する都市のレベルで「女性にとっての安全な場所」への視点が磨かれることにより、具体的で効果的な施策が立てられるのではないかと思います。国家の法律の不備を、都市を含む自治体レベルでの条例と実践で補うと同時に、そうした自治体レベルでの施策が国家の立法や政策に影響を与えることができないでしょうか。これらは、すべて、「誰ひとり取り残さない」というSDGsの理念を地域で具体的に実践することでもあります。
都市での様々な取り組みに関する報告もおこなわれたのですが、理念、政策、制度の説明にとどまっていて、地域に暮らす人たちの顔が見える報告が少なかったように感じられたのは残念でした。都市が、国家と、日々の暮らしが営まれる「身近で小さな場所」をつなぐメソレベルの重要なユニットとして機能し、人権の実現に向けた機動力のある存在になるために、できることはたくさんあるとも感じたフォーラムでした。
注:ヘイトスピーチ解消法、部落差別解消推進法、障害者差別解消法。