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国際人権ひろば No.153(2020年09月発行号)

特集:新型コロナウイルス感染症と人権

新型コロナウイルス感染症と人権-国連関係機関の取り組み

平野 裕二(ひらの ゆうじ)
子どもの人権連代表委員

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的蔓延は、これまでの社会のあり方を大きく変容させつつある。そのような状況にあって、「誰一人取り残さない」というSDGs(持続可能な開発目標)の理念を達成するために人権をどのように促進・保護していくかは、国際社会にとっても各国にとっても重要な課題である。以下、この点に関わる国連関係機関の取り組みを概観する。

国連人権高等弁務官「新型コロナ対策では人権を対応の最前線・中心に」

 COVID-19対策における人権の重要性についていち早く声をあげたのは、当然とも言えようが、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官である。医師でもあるバチェレ弁務官は、国連人権理事会で2月27日に行った報告で差別との闘いや隔離措置の際の人権保障の必要性を指摘した後、3月6日には「コロナウイルス:人権が対応の最前線および中心に位置づけられなければならない」と題する声明を発表し、▼ロックダウンや隔離などの拡散防止措置は、人権基準に厳格にのっとり、必要な限度で、かつ評価されたリスクに比例するやり方で実施されなければならないこと、▼すでに経済的に厳しい状況に置かれている人々への影響に対応する体制を整えておかなければならないことなどを強調した。

 さらに、一部の国で制限措置の段階的緩和が始まりつつあった5月14日には、「健康と人権を犠牲にして政治または経済主導の対応を進めれば、生命という犠牲を払うとともに、短期的にも長期的にもいっそうの害が生じることになるでしょう」として性急な出口戦略に警鐘を鳴らし、保健上の基準の遵守、労働者の保護などへの配慮を各国に促している。

国連人権理事会の特別手続・人権条約機関の動き

 国連人権理事会が任命する特別報告者・独立専門家など(特別手続と呼ばれる)も、3月16日付で「国家は人権抑圧のために緊急措置を濫用するべきではない」という声明を連名で発表して以降、それぞれが担当する分野でCOVID-19に関わるプレスリリースや指針を次々と発表してきた。その数は、2020年7月22日現在でプレスリリース90件(個別の国の対応に関するものを含む)、指針等のツール(手引き)12件にのぼる。今後、国連人権理事会にも関連の報告書が提出される予定である(一部はすでに提出されている)。

 主要人権9条約に基づいて設置されている条約機関(拷問等禁止条約の選択議定書に基づいて設置されている拷問防止小委員会を含めて10機関)も、3月24日付で各委員会の委員長による共同声明を発表した後、3月下旬から4月にかけてそれぞれ声明や指針を発表した(本稿執筆時点で人種差別撤廃委員会と強制失踪委員会を除く)。これらの文書は、COVID-19との関連で締約国が履行しなければならない条約上の義務内容を条約機関の立場から明らかにしたものであり、重要である。COVID-19のためにいずれの委員会も会期の中止・延期やオンライン開催を余儀なくされてきたが、今後再開される締約国報告書の審査でも、これらの見解を踏まえた議論が行われることになろう。

 なお、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は「COVID-19ガイダンス」を作成し、「保健ケアへのアクセス」「緊急措置」をはじめとする23分野(当初13分野)についての指針をとりまとめてウェブサイトで公開している。より詳細な分野別ガイダンスも「市民的空間」「女性」など11分野について作成されており、これらも参照することが必要である。ガイダンスを掲載したページに国連人権理事会の特別手続や人権条約機関の動向もまとめられている。

 国連人権理事会は、5月30日に採択した議長声明(日本も賛同)で、このガイダンスと国連事務総長報告書『COVID-19と人権』(後述)に評価の意とともに留意し、「パンデミックとの闘いにおいてすべての人権が尊重され、保護されかつ充足されること、および、COVID-19パンデミックへの各国の対応において人権に関する義務およびコミットメントが全面的に遵守されることを確保する」ことを各国に要請した。

国連事務総長「私たちは運命共同体である」

 アントニオ・グテーレス国連事務総長が果たしてきた役割も重要である。事務総長は、COVID-19のさまざまな社会的・経済的影響に関する一連のポリシーブリーフ(政策概要)その他の報告書をとりまとめるとともに、そのつどビデオメッセージを発表するなどして、COVID-19パンデミック下でとりわけ権利を侵害されやすい状況に置かれている人々に配慮した対応を一貫して促してきている。

 3月31日に発表された報告書『共有された責任、国際的連帯:COVID-19の社会経済的影響への対応』では、「誰ひとりとして取り残さないために国家的連帯がきわめて重要である」と題された節で、▼財政刺激策をとり、もっとも脆弱な立場に置かれた人々を支えること、▼人権を保護し、インクルージョンに焦点を当てること、▼中小企業およびディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を支えるなどの必要性が指摘された。これを踏まえて4月末にまとめられた「COVID-19に対する直近の社会経済的対応に関する国連枠組み」には、COVID-19が人権面に及ぼす影響をモニタリングするための10の主要指標も付属文書として掲げられている。

 さらに、4月23日には『COVID-19と人権:私たちは運命共同体である(We are all in this together)』を発表し、COVID-19対策における人権の中心的重要性を再確認した。そこには、▼「人々の命と生活を守ることが最優先である。生計維持手段を守ることがその手助けになる」(社会的・経済的影響への対処)、▼「ウイルスは差別しない。しかし、その影響は差別的な形で表れる」(誰一人取り残されないようにするための包摂的対応)、▼「脅威はウイルスであって人々ではない」(緊急措置・治安措置は一時性・比例性・合目的性を有していなければならない)、▼「復興の暁には以前よりもよい状態でなければならない」(危機によって明らかになった問題点の、人権の視点に立った是正)など6つのキー・メッセージが打ち出されている。

 これらの点については、UNAIDS(国連AIDS合同計画)が3月20日に発表したガイダンス「COVID-19時代の人権:HIVから得られたコミュニティ主導の実効的対応のための教訓」も非常に重要な文書である。保健・医療面での対応に関して中心的な役割を果たしているWHO(世界保健機関)も、「COVID-19への対応の要としての人権への取り組み」(4月21日)などの文書をとりまとめている。ヒューマン・ライツ・ウォッチをはじめとする国際NGO、EU基本権庁などの地域人権機構の報告や提言も十分に参照する必要がある。

 国連事務総長はこのほか、女性に対する暴力(4月5日)、COVID-19関連のヘイトスピーチ(5月8日)などさまざまな問題についてもメッセージを発信してきた。ヘイトスピーチに関しては国連のガイダンスノートもとりまとめられており、またユニセフ(国連児童基金)・WHO・国際赤十字赤新月社連盟の「COVID-19に関する社会的スティグマの防止と対応のガイド」などの資料も発表されている。

 ユニセフ、UN Women(国連女性機関)、ILO(国際労働機関)をはじめとする国連専門機関もそれぞれの管轄事項に応じて活発な取り組みを行っているが、紙幅の関係で触れることができない。筆者のホームページにOHCHRのガイダンス(前述)の日本語訳および関連資料のリストを掲載しているので、以下のURLを参照されたい。

 

・国連人権高等弁務官事務所:COVID-19ガイダンス
  https://w.atwiki.jp/childrights/pages/326.html

・新型コロナウイルス感染症と人権 参考資料
  https://w.atwiki.jp/childrights/pages/330.html