人として♥人とともに
今回の新型コロナウイルス感染症は、私たちにいろいろなことに気づかせてくれましたが、感染症の予防には手洗いが何より重要ということもその一つではないでしょうか。うがいよりもマスクよりも、まず手洗いの徹底。手を洗うことが、感染症予防にこれほど重要とは、私自身も気がついていませんでした。
SDGsには「目標6:安全な水とトイレを世界中に」があります。蛇口をひねれば水があふれるように出てくる日本にいると想像するのは難しいかもしれませんが、世界には毎日の生活に必要な水を十分に手に入れられない人たちがたくさんいます。国連の「持続可能な開発目標報告2020」によれば、現在、世界の22億人は、安全な飲料水を手にしていません。
成人の身体の約60%、子どもの身体の約70%は水分からできていて、この水分が失われ脱水症状に陥ると私たちは生きていくことができません。「途上国」では、子どもが命を落とす主要な原因の一つは下痢ですが、下痢で怖いのも脱水症状です。ですので、安全な水が手に入らない状況はダイレクトに生存を脅かすことになります。人間の生存に水は必要不可欠であり、その意味で水の確保は大切な人権です。
人口増加や環境の変化のために、水の確保がだんだん難しくなっていることも深刻な問題です。水くみは世界の多くの場所で女性と子どもの仕事です。ネパールの農村部に行くと、大きな水瓶を頭の上に載せて山道を歩く女性と子どもに出会いますが、これまでより長い距離を歩かないと水源にたどりつけない地域が増えていて、そのことが女性の過重な労働につながっています。子どもの教育機会に影響を与えることも懸念されています。
目標6には、以下の6つの具体的ターゲットがあります。
これらのターゲットの達成度について、「持続可能な開発目標報告2020」は以下のように進捗状況を報告しています。
国連は、2000年代に入り、水の確保が人権であることを繰り返し表明してきましたが、その背景には水を商品と考える国際的な動きがあることに注意する必要があります。「民でできることは民で」という世界的な流れのなかで、様々な国で水事業が私営化されましたが、「先進国」でも「途上国」でも、その結果は芳しいものではありませんでした。水道料金が支払えず、不衛生な水に頼らざるを得ない人が増えた南アフリカでは、コレラの大流行が発生しました。水の「私営化先進国」であったイギリスもフランスも「再公営化」に舵を切っています。公共財の供給を、利潤の追求に価値を置く私企業にまかせることの危険性が明らかになっています。
SDGsの目標6は、実は、こうした課題への視点は十分ではありません。目標6の「実施手段」に関するターゲットには、「水の管理向上における地域コミュニティの参加」が含まれていますが、それを阻む要因になっている水行政の近年の動向と課題には触れていません。多国間の協議と合意の場である国連という組織の弱点ということもできるのですが、であればなおのこと、人権として水の確保をすべての人に保障することの重要性を、市民社会が丁寧に訴えていくことが重要です。
SDGsについては、これまで不十分ながらも実現してきた成果が、今回のパンデミックで一気に失われ、以前より後退した状態に陥ることが懸念されています。大きな打撃を被っている産業や業種がある一方で、史上最高益を上げている業種もあります。パンデミックを克服するプロセスでは、水は人権という原則がSDGsとともに理解され、目標6の「実施手段」に関するもう一つのターゲット、すなわち、すべての人が安全な飲料水と衛生的な環境を手にするための資金を確保することが、これまでにも増して重要です。