人として♥人とともに
1995年に開催された第4回世界女性会議(北京会議)後の25年間を検証する「北京+25」については、『国際人権ひろば』2020年1月号の、このコラムでもご紹介したところです。北京+25の核になるイベントは、メキシコシティとパリで開催される「ジェンダー平等世代フォーラム(Generation Equality Forum、以下GEF)」ですが、パンデミックのために延期され、2021年前半に開催される予定です。
GEFは、国連女性機関(UN Women)が招集し、メキシコ政府とフランス政府がホスト国を務めます。政府、市民社会、国際機関、プライベートセクターが共に参加するマルチ・ステークホルダー・パートナーシップと表現される、近年、国連が好んで採用する枠組で実施されます。市民社会に焦点を当てたフォーラムと位置づけられていて、政府間会合を軸に開催された北京会議とは全く異なる形での開催になります。マルチ・ステークホルダー・パートナーシップは、「多様な関係者を巻き込んだ連携と協力」と表現すれば聞こえはいいのですが、責任の所在が見えにくくなるという欠点に気をつける必要があります。
インターネットを活用して世界の人々を同時につないで意見を交わすことも計画されていますが、国際電気通信連合(ITU)の統計によれば、2019年時点で世界の46.4%の人々はインターネットへのアクセスがありません1。加えて、オンライン会合での使用言語が英語になるとすると、実質的に議論に参加できる女性は非常に限られることが懸念されます。
GEFを通じて立ち上がるのがAction Coalition(行動連合)であり、以下の6テーマに沿って設置されることが発表されました。
Action Coalitionの目的は、2021年から2026年の5年間に、ジェンダー平等と女性・少女の人権の実現に向けた具体的で野心的な目標を設定し、目に見える成果を生むために行動することです。そのために、上述の6分野でリーダーシップを発揮するグループとして、全77の加盟国、国際機関、国連機関、財団、NGOが発表されています(2020年9月末時点)。加盟国からは20カ国の政府が名前を連ねていますが、気になるのは、欧州10カ国、北米1カ国、中南米4カ国、アフリカ5カ国という構成であり、アジア太平洋地域から参加している国がないことです。リーダーシップグループは、今後も拡充が予定されていますので、日本を含め、是非、アジア太平洋地域の政府も積極的に関わって欲しいと思います2。
また、6分野に入らなかった「女性と平和・安全保障」の分野で活動するNGOがUN Womenやホスト国から成る作業部会に働きかけ、GEFでは「女性・平和・安全保障と人道行動のためのコンパクト(Compact for Women, Peace and Security and Humanitarian Action)」が発表されることになっています。
国連機関や市民社会組織によってオンライン会議が開催され、GEFに向けた議論が既に始まっていますが、日本で常に感じさせられるのは、言葉の壁に加えて時差の壁です。国連本部があるニューヨークでの会議は、日本時間では深夜から早朝になることが多く、文字通り「距離」を感じさせられています。
GEFそしてAction Coalitionでは、「ジェンダー平等でつくるコロナ後」が最も重要な議題になると予想されます。パンデミックにより、これまで積み上げてきたジェンダー平等の成果が一気に覆されてしまうことが懸念されています。国際NGOであるセーブ・ザ・チルドレンが2020年10月1日に発表した報告書では、新型コロナウイルス感染症による経済状況の悪化により、2020年には、コロナ以前の予想より50万人も多い少女が幼児婚のリスクにさらされるとしています。幼児婚は、身体への負担が大きく妊産婦死亡につながるリスクが高い10代での妊娠、そして教育機会の喪失につながるという点で、少女・女性のエンパワメントに深刻な影響を及ぼします。
ジェンダー平等に根ざした、より公正で包摂的で持続可能なコロナ後、そして2030年のSDGs達成への確かな道筋をつくれるかどうか、GEFそしてAction Coalitionの成果と行動が決定的に重要です。
1:https://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/stat/default.aspx(2020年9月3日閲覧)
2:リーダーシップグループを含むAction Coalitionについては以下のサイトを参照。https://forum.generationequality.org/action-coalitions(2020年9月30日閲覧)