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国際人権ひろば No.154(2020年11月発行号)

肌で感じるアジア・太平洋

地域観光の活性化が済州観光の未来であるポストコロナに備える「済州GOOD TRAVEL」のミッション

許純榮(ホ スニョン)
済州GOOD TRAVEL 代表

 済州島(チェジュド)は私の故郷である。1970年代-私が10代の頃、すでに済州は有名観光地であった。春と秋には新婚旅行と修学旅行団が押し寄せていた。漢拏山(ハルラサン)、海、オルム(寄生火山)、洞窟など世界自然遺産として広く知られている自然の他に、かわいらしい石垣、オルレ路(※済州発祥のウォーキングコース)、昔の様子が残る小さな村、村ごとに神話がある神堂(※祠)、ユネスコ人類文化遺産である海女など済州の魅力はぞくぞく出てくる。結婚後10年余りは済州を離れたが、仕事で再び戻って10年余り。ここでくらしていると、済州が本当に貴重な島であることが新たに見えてくる。

「公正旅行」をめざす社会的企業として

 「公正旅行」(Fair Travel)として村の旅をデザインする「済州GOOD TRAVEL」は、2016年5月にスタートした。公正旅行とは、ただ見てまわる旅行ではなく、現地の人々のくらしや文化を尊重し、できる限り環境を損なわないようにし、同時に地域社会と住民の助けとなる旅行文化をいう。また韓国では、社会的企業育成法が制定されているが、済州賢い旅行は、法律にもとづく社会的企業として2018年に認証され、人件費や事業費の一部を自治体から助成されている。

 旅行業を始める際に確認したのは、数ある旅行会社の中の一つであることを越えようというものだった。既存の旅行会社との違いを示すために、済州らしさが残る村の旅、人間に出会う旅というコンセプトを作った。個々の旅行者を対象にした体験型旅行を企画した。またそれらを組み合わせ、企業や政府機関対象の研修やオーダーメイドのワークショップなど特別な旅を経験できる企画も開発した。村の旅の企画を進めながら、私たちが気になっていたのは、「住民主体の観光活性化が可能なのか?」という問いであった。住民主体の観光というのは「外部資本による観光開発ではない、住民と行政、地域の旅行会社が主体となった観光」といえる。

住民主体の人気プログラムの紹介

 そう考えて作った旅行者の目の高さに合わせた「村の旅」のプログラムをいくつか紹介する。

 漢拏山の麓で一番平たいといわれるピョンデ村。有機農業でエゴマを作っているプ(※姓の一つ)おじさんが案内する「済州の農民、プ・ソッキのホントの済州」旅行は4年間続いている。村の代表として、開発よりも村の昔の姿を再現することにたくさんの愛情を注いだプおじさんは、代表を退いてからも村を訪れる人々と会い、済州とこの村を知ってもらうことに情熱を燃やしている。村に来た移住者を包み込み、トントゥラク(「村の菜園」という意)協同組合を設立し、「にんじんとエゴマ」という食堂を運営し、有機にんじんジュースやエゴマカレーなど本当の地元の味を伝えている。

 静かに噂を呼んでいる「キムニョン・ソド里の村の旅」は故郷のキムニョンを離れ、また戻ってきた若者キム・ウヨンさんが案内する半日の旅である。世界一長い万丈窟(マンジャンクル)などいろんな溶岩の洞窟の上にあるキンニョン村。くねくね曲がった畑の塀と海辺へ続く村の道を歩きながら、四季を通じて湧き水があふれるチョンクルムル、長らく村の飲み水になってきた湧き水のケウッセンムル、引き潮の時だけ現れる美しい舳先など村の宝のような景色と話を心に抱く時間である。

 火山島である済州の魅力を帯びた渓谷と森、海を背景にした「ハレェ里の川のトレッキングと村の旅」は、トレイルランニング、森でのロープ遊びなど青少年向けの自然の中でのんびり楽しむスポーツ、20~30代の若者向けのアクティビティを体験できる。

 移住してきた若者3人が案内する「意外なモスル浦」は、済州の西側、港があるモスル浦(ポ)の村の道と歴史の遺跡をゆったりまわるコースである。「意外に」おもしろいモスル浦の話、今の自分たちと関わる済州の人の暮らしと文化に深く出会える。

 「逆からの牛島(ウド)の旅」は、観光客と住民、旅行先のすべてが幸せになる公正旅行の哲学が一番よく込められた旅行商品である。大部分の旅行者が、朝に船でやってきて午後3~4時には発つ旅程であるのに対し、「逆からの牛島の旅」は、午後に島に入り、静寂の海をそぞろ歩く。島の住民のカン・ユンヒさんの案内で、ソビンペクサ(※島の西側にある白砂の海岸)での日没鑑賞、飛揚島(ピヤンド)(※近くの島)の星空ツアーの後、一晩を過ごす。ウド峰(ボン)に登って明け方の日の出を鑑賞、午前は、島の小さな本屋を訪問し、鶏小屋の卵を取る体験などをして、旅行客が押し寄せる正午前には島を離れる。

 この他、済州の美しい自然の中に染みこんでいる苦痛の歴史を知り、平和を語る「4・3紀行」(※植民地解放後の米軍政下で1948年4月3日に島民蜂起により大規模な住民虐殺事件が起きた)、村の中の小さな本屋を巡って、本の背景や作家に出会う「済州の本屋のオルレ・バスツアー」など多彩な村の旅を実施しているところである。

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村の旅「済州の農民プ・ソッキのホントの済州」プログラム

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旅のプログラムとしてワークショップの実施

公正旅行の担い手を育てる

 公正旅行作りとともに始めた公正旅行の専門家養成研修には毎年50人以上の済州の住民が参加し、2019年までに修了者は300人を超えた。「公正旅行の企画者コース」は体系的な理論と実習をもとに研修生自身が村の旅行を企画し、パイロット・プログラムを実施し、商品にしていく人気プログラムである。こうした研修は、公正旅行のすそ野の広がりに寄与するのみならず、各自が働く場で、住民を「公正」というキーワードでつなぎ、新しい旅が生まれる度に積極的に意見を出して話題にする頼もしい協力者を育てる。

企業として持続可能な方向性は?

 この間の経験から「持続可能な済州GOOD TRAVELの方向性」について、4点にまとめてみた。まず持続性を生かし、旅行商品に反映すること。宿とアクティビティと食事もその村のものを探しだす。2番目は収益性。地域の生産物とつなげて、付加価値を高め、観光の収益が地域内に循環するよう設計する。村の宿と食材、アクティビティと案内料にかかる旅行費用の約3割が村の収入に還ってくるようにする。アクティビティは他所とは違う個性を出し、グレードを高め、この村でのみ体験できるものを商品にしなければならない。3番目に主体性を挙げることができる。住民が主導して参加し文化を洗練させ交流しようとする気持ちになるようにする。これは住民の生活の質を向上することになり、村を訪ねる旅行者を歓待する雰囲気ができる。最後は革新性を挙げることができる。他の分野と同じく、新型コロナ以前と以降の観光は確実に違ってくる。安全を最優先にして個人や友人、家族単位の小さなグループで動く、個別の観光客のための革新的な旅が最大の課題である。気候変動もまた観光商品の開発時に、考慮すべきミッションである。亜熱帯気候に変わりつつある済州は急にスコールのような激しい雨が降り注いだり、天気が変わりやすいことが続いている。旅行会社として、こうした気象の異変に対応するプランも用意する必要がある。

 新型コロナ禍の状況下で被害が最も大きい分野は観光だろう。外国に行く空の便がほぼ断たれてしまい、国内移動もまた自由ではない。ウィズコロナによって変化する観光の核となるキーワードは、モバイル(スマホやタブレットなど)、小規模、デジタル、非接触、コロナうつ、国内観光、近距離観光、小都市、農村観光、ニューノーマル、清潔などである。団体旅行客を10人未満に減らして、しっかりコロナ対策を行い、安全を最優先にした旅行プログラムを構想している。困難な状況ではあるが、危機の中にチャンスがあるという言葉を信じている。済州らしい旅、本当の地元の「味」を伝える済州GOOD TRAVELのミッション遂行は今からはじまる。

(翻訳 朴君愛)