特集:ジェンダー平等はどこまで達成?~北京女性会議25年に寄せて
新型コロナウイルスの感染拡大は、社会の中で弱い立場に置かれている人々を浮き彫りにした。在宅勤務できない仕事をしている人、非正規雇用の人、基礎疾患のある人、メンタルヘルスに問題を抱える人。そこには多くの女性とLGBTQ等(p.9右段の表参照)の性的マイノリティがいる。
私たちは、2020年6月から7月にかけて、ウェブ上でアンケート調査を行った。(速報:https://digitalpr.jp/r/41124、以下、調査という場合はこの調査を指す)
LGBTQのメンタルヘルスや経済的困窮は、かつてないほど深刻で、ショックを受けた。この一年で、預金残高が1万円以下になったというLGB他が22.3%、Tが31.3%。通信費、水道光熱費、家賃、社会保険料等を滞納したという人もいる。うつ病を抱えていると回答した人は、LGB他で13.8%、Tで20.0%(うつ病の日本人の生涯有病率は6%前後)。「家族等との関係が悪化した」と答えたLGBTQも多く、理解がない家族とのステイホームによるストレスが想像される。
近年、企業や自治体のLGBTQ施策がニュースになっており、状況が改善されてきたと感じる人もいるだろう。しかし、取り組みを行っている企業は中小企業を入れて10.9%(2020厚生労働省 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書)に過ぎず、自治体のパートナーシップ制度は、効果が限定的(自治体によって内容が異なり、公立病院や公営住宅で家族として扱われる等)で、まだ人口の約30%しかカバーしていない(2020年6月時点)。
日本のLGBTQをめぐる法的状況は、以下の通りである。
・同性同士は結婚できない(海外で結婚しても国内では認められない)
・職場や学校での包括的な差別禁止法がない
・戸籍の性別変更には、生殖機能をなくす手術等を含む厳しい要件がある
結婚に関しては、29の国・地域(2020年6月時点)で婚姻の平等(同性婚)が実現しているが、東アジアでは台湾のみである。結婚ができないということは、妊娠や子育てへの公的支援がない(例えば、女性同士のカップルで子育てをする場合、産んだ方がシングルマザーという扱いになる)、パートナーやその親族の病気・障がい・死亡等の場合に社会保障がないということであり、住宅の共同名義での購入も難しく、相続もできない。社会全体の高齢化に伴いLGBTQの高齢化も進んでおり、一刻も早い法整備が必要だ。
OECDの報告書(2020)によれば、LGBTQに関する法制度の整備はOECD 35カ国中34位だった。この25年の間に、日本は、ジェンダー平等でも、LGBTQに関する法整備でも、世界から取り残されている。ちなみに、ジェンダー平等が進んでいる国では、LGBTQの権利獲得も進んでいることが多い。例えば、フィンランドのサンナ・マリン首相は、34歳という若さで首相になった女性ということでニュースになったが、彼女は女性カップルに育てられたことを公表している。
男女共同参画、女性活躍推進について話す時、その「女性」の中に、レズビアン、バイセクシュアル女性、トランスジェンダー女性は含まれているだろうか。私自身はレズビアンであるが、女性のための場で、居心地悪い思いをすることは何度もあった。女性施策全体を、異性愛、かつ、シスジェンダーの女性のみを想定した施策になっていないか、見直す必要がある。
お茶の水女子大や奈良女子大で、トランスジェンダー女性の入学を受け入れることがニュースになったが、インターネット上ではこれに反発する差別的な投稿が見られる。トイレ、更衣室、浴場、DVシェルターなど、女性専用とされていた空間にトランスジェンダー女性が立ち入ることへの恐怖を煽る内容が目立つ。私たちの調査では、トランスジェンダー女性は、むしろ職場や公共空間で深刻な差別やハラスメントを受けがちである。髪が長いことが服務規定違反だと解雇されたり、人目が気になって公共トイレを使えなかったりする。トイレが使えないと、落ち着いて勉強や仕事をすることは不可能に近い。メンタルヘルスもLGBTQの中でも特に悪い。
セクハラや性暴力は、もちろん許されることではない。しかし、それはトランスジェンダー女性を一律に加害者とみなして、女性専用空間から排除することでリスクが減るものではない。トランスジェンダー女性を「女性」とみなさないことは、人としての尊厳を深く傷つけることだ、と理解してほしい。
改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)により、大手企業では6月から性的指向や性自認に関する侮辱やアウティング(本人の同意のないSOGIに関する情報の暴露)もパワハラの一環として事業主に措置義務が課されたところだが、いまだに様々な形態のハラスメントがある。
その背景として、性に関するマイクロアグレッション(日常的な、何気ない見下し)があることが見過ごされがちである(グラフ参照)。マイクロアグレッションへの感度は、アイデンティティに関わる分、LGBTQの方がより敏感な傾向がある。LGBTQの声を聞くことができれば、これをなくしていけるはずだ。
また、自治体のパートナーシップ制度は、同性カップル以外も使えるところが増えている。これは、婚姻は望まないが、パートナーとしての関係性を証する何かが欲しいという異性カップルの選択肢になり得る。
一方で、LGBTQは国の法律がないこともあり、まだ社会資源に乏しい。そこで、ジェンダー平等のための公共資源を、LGBTQも使える資源として活用することを提案したい。例えば、男女共同参画センターをダイバーシティ・センターとして機能させる、そこにLGBTQ専任のソーシャルワーカーを常駐させる、ということも可能ではないか。
私は、ジェンダー平等の実現なしに、LGBTQの抱える困難は解決しないと考えている。そして、LGBTQの困難を多くの人と共に解決していく過程で、ジェンダー平等がより「みんな」のためのものになる、とも信じている。
レズビアン(L) | 自分を女性と自認し、女性を好きになる人 |
ゲイ(G) | 自分を男性と自認し、男性を好きになる人 |
バイセクシュアル(B) | 女性を好きになることも、男性を好きになることもある人 |
トランスジェンダー(T) | 出生時に割り当てられた性別とは異なるアイデンティティを持つ人 |
クィア(Q) | 典型的でない性のあり方を持つ人、社会規範自体を問い直す意味も込めて使われる |
ヘテロセクシュアル (異性愛者) |
自分を男女のどちらかと自認し、異性を好きになる人 |
シスジェンダー | 出生時に割り当てられた性別と同じアイデンティティを持つ人 |
性的指向 | 好きになる相手の性別 |
性自認 | 性別に関するアイデンティティ |
ジェンダー表現 | 服装、仕草、言葉遣いなどで、自分をどんなジェンダーとして表現するか |
SOGI、SOGIE ソジ、ソジー |
Sexual Orientation(性的指向)、 Gender Identity(性自認)、 Gender Expression(ジェンダー表現)の頭文字。 |
nijiVOICE2020調査速報より
虹色ダイバーシティ、国際基督教大学ジェンダー研究センター
<参考> URL:https://nijiirodiversity.jp/
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