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国際人権ひろば No.154(2020年11月発行号)

特集:ジェンダー平等はどこまで達成?~北京女性会議25年に寄せて

女性の人権はどう変わったか ~女性の政治参画を中心に

森屋 裕子(もりや ゆうこ)
フィフティ・ネット代表

北京女性会議から25年

 1995年9月、第4回世界女性会議(北京女性会議)が開催された。併行して開かれたNGOフォーラムを含めて、約190か国から約5万人の女性たちが北京に集結。日本からも約5千人が参加し、女性の人権にかかわる国際会議としては「20世紀最後で最大の会議」になった。

 この会議で採択されたのが、「北京宣言」並びに「行動綱領」である。このうち「行動綱領」は、「女性のエンパワメントに関するアジェンダ(予定表)である」(第1章「使命の声明」)とされ、そこには、ジェンダー平等を実現するために各国で実行されるべき基本的な優先的政策目標が、女性の「人権」「貧困」「暴力」「健康」などの12分野にわたって、重大問題領域として掲げられた。その長さは、6章361パラグラフに及び、現在でも「女性の人権にとっての最も包括的で進歩的な文書」であるとされている。

 それから25年。2020年の本年は、「北京+25」の記念すべき年にあたる。

 国連では、現在進行中の第75回国連総会において、「第4回世界女性会議25周年記念ハイレベル会合」が開催され、「北京+25」のレビューが実施されることになっている。(2020年9月現在)それに先立ち、日本政府は、包括的国内レビューとして、「第4回世界会議並びに北京宣言及び行動綱領採択25周年記念における包括的政府報告書」を発表した。1

 この25年間、世界も日本も大きく動く中、ジェンダー平等をめぐる日本の状況はどうなのか。本稿では、筆者の活動分野である「日本の女性の政治参画」に焦点をあてて言及したい。

遅々として進まない「女性の政治参画」

 「行動綱領」は、「権力及び意思決定における女性」の節で、「政治的意思決定における平等は、それがなければ、政府の政策決定に真に平等の次元を統合できる見込みは極めて薄いものになる梃子の働きをしている」とのべている。(「行動綱領」第Ⅳ章戦略目標及び行動)それにもかかわらず、日本では、最高意思決定機関に女性が、現在でも、極端に少ない。

 日本の女性議員比率は、衆議院で9.9%であり(2020年6月現在)、国際機関である列国議会同盟が公表している女性議員比率の国際ランキングによると、世界193か国中166位という低さである。

 地方議会においても低く、特別区議会では29.9%であるものの、都道府県議会では11.4%、市議会では15.9%、町村議会では11.1%であり、女性ゼロ議会(女性が一人もいない議会)が、 市議会で3.9%、町村議会では30.2%存在する。

 筆者は、25年前、ある地方都市の市議会で女性ゼロ議会に遭遇し、議場にも理事者側にも女性が全く存在しない光景に呆然として、ジェンダー視点をもった女性を議会へ送り出すための「女性を議会へバックアップスクール」をメンバーとともに開設した経験をもつが、2020年現在になっても、全国926の町村議会の約3割で同じような光景が繰り広げられていることになる。

 そして、安倍内閣の後を継いで菅内閣が発足し、新閣僚が発表された。しかし、女性の入閣は2名にとどまり、女性が1,2名、アリバイづくりのように存在する状況は変わらなかった。

 以上を国際的にみると、ジェンダー平等が急速に進展している国際社会の中にあって、日本はめだって停滞しているとのべざるをえない。

 それをよく表すのが、毎年世界経済フォーラムが公表するジェンダー・ギャップ(男女格差)指数である。2018年度の指数は世界149か国中110位、2019年度のそれは153か国中121位であり、もともと低かったものが、さらにここにきて大幅に後退した。政治分野での格差の改善が進まないのが足をひっぱったからである。

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「女性を議会へバックアップスクール」街頭演説演習風景

効果が薄い「候補者均等法」

 こうした中、2019年に議員立法により「政治分野における男女共同参画推進法」(「候補者均等法」)が全会一致で成立した。第1条(目的)で「男女が共同して参画する民主政治の発展に寄与することを目的とする」と掲げ、第2条(基本原則)では、政党に対し、候補者を擁立する際には男女の数がなるべく「均等」となることを求めており、「女性と政治」分野に切り込む初めての法律として、期待された。

 しかし、法施行後最初の国政選挙であった第25回参議院選挙(2019年7月)では、女性候補者は28.1%で候補者全体のうち3割にも満たない。最大議席を有する自民党と公明党の比率の低さが目立っている。結果として、女性当選者は前回と同じ28人にとどまり、法律の効果は極めて限定的であった。

 「候補者均等法」は、前述した「政府報告書」の中で、北京後の男女共同参画政策の成果として目玉的に扱われている法律である。しかし、政党に女性候補者擁立の努力義務を求めているだけであり、強制力に欠けている。北京から25年たってもこれほど停滞し、諸外国に水をあけられている現状を鑑みると、候補者や当選者が「どちらの性も40%を下回らない」などと法律や政党綱領を設けるといった、クオータ制(候補者割り当て制)を含めた、もっと踏み込んだ方策をとるべきである。

 あらかじめ目標値をつくったり、割り当て制をとったりすることに関しては、投票の自由に反するとか、却って男女平等の理念にもとるという主張もある。しかし、女性議員が議会に新たな視点を持ち込み、政治文化を変えるためには、量的な変化はまず必要であり、それによって質的な変化も生じることになる。

女性議員の存在は、民主主義のバロメーター

 「女性を議会へバックアップスクール」を経て議員になっていく女性たちのほぼ全員が、PTA活動、自治会活動、生協活動などの市民としての活動経験や家事、子育て、介護、多様な仕事などで得た問題意識を政策に活かそうと議会に足を踏み入れる。そして、議会という既存の男性中心社会の在り様に悩みながらも、従来の政治に欠けていた視点を政策に持ち込むべく活動し、多くの成果をあげている。女性議員の存在は、多様性と民主主義の確保のバロメーターのひとつなのである。

問われるのは「本気度」

 女性の過少代表を改め、多様性を尊重した政策を実現していくために根本的に求められるのは、政治の「本気度」である。

 「202030」と呼ばれた「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%になるように」という政府の目標は、2003年に男女共同参画推進本部が定め、2005年には閣議決定されて第二次男女共同参画基本計画に掲載されたものであるが、目標年である2020年の第5次男女共同参画基本計画の策定過程で、あっさりと、「2020年代の可能な限り早期に」と先送りされつつある。目標値をつくり、閣議決定までしても簡単に覆されることは「本気度の問題」といわざるをえない。

 問題の根底には、強固な性別役割分担意識と女性の人権を軽んじる文化が根強く存在する。第4回世界女性会議で、当時のクリントン米国国務長官は「女性の権利は人権である」と高らかにスピーチしたが、それはまだ実現していない。北京から25年、実際の姿でそれを体現する「本気度」が問われている。

 

1:http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_csw/beijing25-k.html

2:総務省調べ、2020年6月現在

3:https://www.facebook.com/nandeyanenbackupschool/

4:ジェンダー・ギャップ指数(男女格差指数)は、世界経済フォーラムが各国内の経済分野、教育分野、政治分野及び保健分野のデータから算出した男女間の格差を数値化してランク付けしたもの。詳しくは辻村みよ子「日本の現状とポジティブ・アクションの必要性」(『女性の参画が政治を変える』p15)他。

5:社民党(71.4%)、共産党(55.0%)、立憲民主党(45.2%)、国民民主党(35.7%)、日本維新の会(7%)、れいわ新選組(25.0%)、自民党(14.6%)、公明党(8.3%)。総務省速報結果から三浦まり氏算出 三浦まり「候補者均等法が切り拓く未来」『女性の参画が政治を変える』p35。

6:「第5次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(素案)」p13