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国際人権ひろば No.155(2021年01月発行号)

人権の潮流

子どもアドボカシーセンターOSAKAの設立

吉池 毅志(よしいけ たかし)
NPO子どもアドボカシーセンターOSAKA 理事、大阪人間科学大学 准教授

「子どもの声」を届ける、子どもの「マイク」に

 子どもの権利条約を批准している国の社会で、子どもの声が届かず、子どもが傷つき命を落とす「負の連鎖」が後を絶たない。助けを求めた声さえ受け取られなかった悲しい現実の報道は、子どもたちの手書きの文字によって、私たち大人一人ひとりの胸に刻まれている。

 子どもの声が「届かない」ことによる痛ましい出来事を二度と繰り返さないために、小さな声や少ない声を聴き取り、伝える、アドボカシーの取り組みが欧米で誕生し、すでに実践が重ねられている。それは中立な支援ではなく、完全に子どもの側に立つ活動で、「アドボケイトは子どものマイク」と言われ、声を聴き、大きくして伝えるという役割を果たしている。このような活動を日本でも実践し、広め、定着させることを目的として、「NPO子どもアドボカシーセンターOSAKA」がコロナ禍の中で設立された。

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設立総会 2020年3月15日

設立にいたるまでの経過

 「NPO子どもアドボカシーセンターOSAKA」は、公益社団法人子ども情報研究センター(以下、子情研)が長年重ねてきた子どもの人権を守る活動を母体とし、子どもの幸せを求める数多くの人々の願いや協力による研究・実践が重ねられるなかで誕生した。

 遡れば、1997年にカナダ・オンタリオ州子ども家庭アドボカシー事務所長のジュディ・フィンレイさんを招聘しての講演会が開催されたことが起点となる。1999年には、「第1回子どもアドボキット養成講座」が開催されている。

 2010年にイギリス児童福祉政策視察研修を実施し、翌年にはイギリスのアドボカシー研究者のジェーン・ダンプルさん、実践者のヒラリー・ホーランさんを招いた講座を開催し、日本での実践を模索してきた。

 2013年、堀正嗣さんと子情研による『子どもアドボカシー実践講座』を出版し、「子どもアドボカシー研究プロジェクト」(座長・堀正嗣)を立ち上げて、施設における調査研究等を実施した(~2015年)。

 翌2016年には、「地域子どもアドボケイト養成講座」を実施し、2017年に「子どもアドボカシー研究プロジェクト」を「独立アドボカシー研究プロジェクト」(座長・堀正嗣)と改称する。この研究では、児童養護施設、福祉型障害児施設等、3カ所での訪問アドボカシーの試行実践に初めて着手している。そして、

「都道府県児童福祉審議会を活用した子どもの権利擁護の仕組み検討委員会」(厚生労働省公募研究・座長:堀正嗣)が設置され、これまでの研究活動で出会った「子どもの声」に基づいた協議がなされてきた。

 2017年からは、実践の伴うアクションリサーチに着手し、翌年から障害児施設での訪問アドボカシー試行実践を、児童養護施設においては児童自立支援計画への子どもの意見表明支援を開始している。

 このような長い道のりを経て、2020年、子情研独立アドボカシー研究プロジェクト構成員有志で「子どもアドボカシーセンターOSAKA」を設立した。その原動力は、やはり「子どもの声」である。入所施設へ毎週のように定期訪問を重ねる中で、私たちは子どもたちの顔を見つめて声を直に聴く。子どもから聴いた声の一つひとつがアドボケイト一人ひとりの心を動かし、「研究だけで終わらせない」という思いが、独立型アドボカシーセンターを誕生させた。

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子どもによるアドボケイトの評価

設立趣意書(全文)

 2019年は子どもの権利条約が国連で採択されて30年にあたる記念すべき年でした。この条約の一般原則の一つは「子どもの意見の尊重」であり、子どもを権利行使の主体とする子ども観への転換も求める画期的なものでした。

 日本では2016年にようやく児童福祉法が改正され、第2条第1項に子どもの意見が尊重されなければならないことが明記されました。にもかかわらず、まだまだ子どもの思いは伝えたいところに届いていない現状があります。子どものSOSがだれにも届かないまま、命が奪われていく虐待事件も後を絶ちません。障害児や外国にルーツを持つ子ども、性的少数者、被差別部落の子どもたち、施設で暮らす子どもたちなど、不利な立場の子どもたちが差別やいじめ、権利侵害にさらされています。児童相談所や施設・学校等において、子どもの意見や気持ちが聴かれ考慮されることがないまま、援助や教育が行われている現実もあります。

 このような状況の中で、わたしたちは子どもの権利を守るために、「子どもの相談」や「子どもの保育」、「施設訪問」などを通して、子どもの声を聴き、子どもとともに課題に取り組むことを大切にしてきました。そして、そこで感じた子どもの力や、わたしたちもエンパメントされる感覚を発信し続けてきました。今、子どもの意見表明を支援する実効性のあるアドボカシーシステムを制度化するとともに、それを担うアドボカシーセンター設立とアドボケイトの養成を早急に行う必要があると考えます。

 今回、法人として申請するに至ったのは、公益社団法人子ども情報研究センターの部門として実践してきた活動や事業をさらに地域に定着させ、継続的に推進していくことと、社会全体へ活動を広げていくために他地域の行政や関連団体との連携を深めていくこと、また子どもアドボカシーに特化した独立性と専門性のある団体が必要であること等から、社会的にも認められた公的な組織を新たに設立することが最良の策であると考えたからです。さらに、当団体の活動が営利目的ではなく、多くの市民の方々に参画していただくことが不可欠であり、特定非営利活動法人格を取得するのが最適であると考えました。

 NPO子どもアドボカシーセンターOSAKA設立により、アドボケイトによる訪問アドボカシー及び個別アドボカシーを行い、実践方法を開発していきます。子どもが権利侵害を受けたとき、声を聴いてもらえないときはすべての子どもが相談し、アドボケイトの支援をうけることができる社会をめざします。法人化することによって、組織を発展、確立することができ、展開することができるようになり、地域社会に広く貢献できると考えます。

子どもの声が聴かれる社会へ 小さな一歩

 冒頭で述べた問題を解決するには、子どもの様々な場面に対する幾重もの手立てが必要である。それぞれが停滞せず、一歩ずつ進むしか道はないだろう。大阪では、施設の子どもと共に一歩が踏み出されている。

 Aさんは、街のあちこちにある某有名ドーナツショップにアドボケイトと一緒に外出した。「生まれて初めて来た!」と言って、ショーウインドウに並ぶたくさんのドーナツを長い時間見つめ、なかなか選べない様子。やっと選んだドーナッツを食べながら普段の生活についてなど、他愛のないおしゃべりを続ける中で、「自分ひとりの部屋がなくて同じ部屋の子に自分の持ち物を触られる。それがいやや…」と胸の内を明かしてくれた。その思いをじっくり聴いていき、アドボケイトから職員にその思いを伝えることになった。その結果、個室は無理だけれど、「専用の鍵付きロッカーを用意する」ということになった。Aさんは意見を言えたことで自信を持ち、個室の夢は実現しなかったけれど、安心して過ごせる条件が一つ叶えられた。

 閉鎖された日常の空間からアドボケイトと共に一歩外に出て、施設の外で新たな経験を得る。それが、自身の権利との出会いとなり、子ども自身の奥底から「声」が湧き上がってくることを、アドボケイトは実感している。子どもの側に徹する「マイク」として、「子どもの声」から始まる「正の連鎖」を広げたい。

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自分で選ぶ機会がエンパワメントになる

 

参照:
NPO法人子どもアドボカシーセンターOSAKA
https://childadvocacy2020.jimdofree.com/