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国際人権ひろば No.155(2021年01月発行号)

特集:「ビジネスと人権」のいま

「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」を通じて目指すもの

髙井 信也(たかい のぶや)
弁護士

「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」の設立

 2020年11月16日、国際協力機構(JICA)と一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)が共同で事務局となり、「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(以下、「プラットフォーム」)が設立された。

 会員としては、味の素株式会社、イオン株式会社、株式会社アシックス、帝人株式会社、トヨタ自動車株式会社、三起商行株式会社など日本において外国人労働者を受け入れる企業や業界団体のほか、研究者、弁護士らが参加している。

 プラットフォームの趣旨は、「SDGsの目標年限である2030年に向けて、国際水準を満たす『プラットフォーム行動原則』に賛同・実践する企業や団体の皆様ともに、雇用主や受入れ団体が法令順守をはじめとした外国人労働者の責任を持った安定的な受入れを行うことにより外国人労働者の労働・生活環境を改善し、それによって豊かで持続的な社会が生まれ、「世界の労働者から信頼され選ばれる・日本」となることを目指します」とされており、以下の「行動原則」を掲げている。

 私たち、本プラットフォームの会員は、省庁、自治体、関係機関や市民社会、有識者並びに国際機関を含むすべてのステークホルダーと協力し、「私たちが目指す社会」の実現に向け、次のように行動します。

  1. 私たちは、外国人労働者の受入れに当たり、関係法令を遵守します。
  2. 私たちは、外国人労働者の人権を尊重し労働環境・生活環境を把握し、課題の解決に努めます。
  3. 私たちは、働く場と生活の場の両方で、外国人労働者との相互理解を深め、信頼関係を醸成します。
  4. 私たちは、日本及び国際社会の発展と安定に貢献するため、外国人労働者の能力開発に尽力します。
  5. 私たちは、プラットフォームの取り組みを日本国内及び世界に発信していきます

 なお、上記の行動は、私たちの企業・団体自身の取り組みのみならず、サプライチェーンや関係する企業・団体にも積極的に働きかけることとします。

プラットフォーム設立の背景 ~外国人技能実習生に対する人権侵害

 プラットフォーム設立の背景には、日本の外国人労働者に対する強制労働、差別、ハラスメント等について国際的な批判が強まっていることがある。特に外国人技能実習生に対する人権侵害は依然として深刻である。

 外国人技能実習生は、1989年の出入国管理法の改正により在留資格「研修」が設けられた後、1993年に技能実習の制度(在留資格は「特定活動」)が設けられ、1997年には、その滞在期間が2年とされ(「研修」での滞在期間と併せて最長3年間)、この形で2010年6月末まで続いてきた。

 2010年7月以降は、在留資格「技能実習」が創設されて技能実習制度に一本化され、来日1年目から労働関係法規が適用されることになった。

 2017年11月からは、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下、「技能実習法」)が施行され、滞在期間が最長5年に延長されている。

 このように外国人技能実習制度は既に30年近い歴史を持つ制度となったが、そもそもは途上国への技術移転による国際貢献を「目的」として創設されたものであり、その「目的」は技能実習法施行後も変わっていない。しかし、制度目的は当初から形骸化しており、実習実施者(=勤務先)の多くが技能実習生を安価な労働力として受け入れている。

 現在、技能実習生は、主にベトナム・中国・フィリピン・インドネシアなどから来日している。厚生労働省によれば、2019年10月末の日本の外国人労働者は166万人と過去最高となっており、技能実習生はこのうち23.1%の38万人に上る(法務省によると、2019年末には41万972人まで増加)。

 しかし、技能実習生らは、本国で送出し機関(≒本国のブローカー)に年収の数倍にも及ぶ手数料を借金して支払ったうえで、途中帰国等すると事前に預けた保証金を没収され、さらに違約金を支払う契約をしていることが多く、また日本でも、在留資格上、実習実施者(=勤務先)が固定されているので、原則として転職してより良い条件の職場に移ることもできない。

 そのため、長時間労働を強いられても、多額の寮費を控除されても、残業時給が300円のみであっても、セクシャルハラスメントに遭っても、転職も帰国もできずに我慢している技能実習生が多数存する。また、我慢できずに未払い賃金等の請求をすると空港に無理やり連れて行かれ帰国させられる「強制帰国」事案も頻発している。有給休暇の取得を希望したり妊娠したとの理由で強制帰国された事件も報道されている。2017年11月の技能実習法施行後も、残念ながら上記のような相談が後を絶たない。

 そのため、米国務省は2020年6月、毎年発表している人身取引報告書において、技能実習制度の問題への政府の取り組みが不十分だと指摘し、日本についての評価を4段階のうち最も良い第1階層から第2階層へと3年ぶりに格下げしている。

 また、厚生労働省が2020年10月9日に公表した「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況」(2019年)によれば、全国の労働局や労働基準監督署が、技能実習生が在籍する事業場に対して行った監督指導において、指導した事業場のうち71.9%の6,769カ所で労働基準関係法令違反が認められたという。

 さらに、コロナ禍において、実習実施者の不況・倒産等により、多くの技能実習生が働くことも帰国することもできないまま困窮下におかれている状況が多数報道されるに至っている。

プラットフォームを通じて目指すもの

 このような外国人労働者への人権侵害に対する国際的な批判に対し、日本において外国人労働者を受け入れる企業としても、外国人労働者が自社やサプライチェーン(供給網)で劣悪な環境に置かれていないか調査する動きが強まってきている。特に外国人技能実習制度には前述の通り海外からの批判も集まっており、ビジネス上の人権侵害に対する目が厳しくなるなか、技能実習生に対する人権侵害を放置することは企業の評価の低下に直結する事態となっている。グローバル企業であれば尚更である。

 かかる背景を前提に、企業側としても、「世界の労働者から信頼され選ばれる」環境整備を目指すプラットフォームの設立・参加の動きが加速したものと思われる。他方で、プラットフォームには、私や指宿昭一弁護士など、これまで外国人技能実習生を含む外国人労働者側の立場から、その権利擁護のための活動を続けてきた会員も参加している。

 プラットフォームは、外国人労働者にスマホのアプリなどにより日本で快適に働くための情報を提供するほか、アプリを通じて得られた被害申告等の実態調査を踏まえて、国内外の行政機関などに解決策を提案すると説明している。

 我々としては、多数の外国人労働者の「生の声」を集める仕組みを実現して、外国人労働者の労働実態を踏まえた提言を行い、これを通じて、外国人技能実習制度を始めとする現在の外国人労働者受入れ制度の問題点を明らかにし、外国人労働者の権利が保障される受入れ制度が実現するよう取り組みたいと考えている。

 プラットフォームでの活動を通じて、外国人労働者に対する中間搾取や奴隷的な労働を政労使の協力で止めていくこと、ひいては、構造的に人権侵害が起きやすい技能実習制度は廃止し、ブローカーを排除したうえで職場移転の自由を認める等、外国人労働者の権利が保障される受入れ制度の実現を目指していきたい。

 

参照:責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム https://jp-mirai.org/

※2020年11月16日の設立フォーラムでの講演やパネルディスカッションの動画も掲載(2020年12月16日閲覧)