人として♥人とともに
日本に暮らす私たちは、あふれるモノに囲まれて生活するようになりました。そして、モノは、以前とは比べものにならないほど低価格で手に入るようになりました。SDGsの目標12「持続可能な生産と消費の形態を確保する」が問いかけているのは、こうした「豊かさ」が何に支えられているのか、それは公正で持続可能な生産と消費なのかという点です。
以前では考えられない価格でモノが手に入るようになったことを象徴するのが「100円ショップ」です。「100円ショップ」では、生産者はコストに関係なく、100円で販売する前提で商品を納入させられます。生産にかかるコストに利益を上乗せして商品価格が決まると学校では教えられた記憶がありますが、それとは異なる原則が支配しています。このような場合、最も影響を受けやすいのは人件費です。
衣料品も安くなりました。衣料品についているタグを見れば、そのほとんどは日本以外のどこかで生産されていることがわかります。私たちの生活は、世界の様々な場所でモノの生産に携わる人たちによって支えられています。
モノが製品となって私たちに届くまでの、原材料の確保から加工そして販売の過程全体をサプライチェーンと言います。生産コストを下げるために人件費が抑えられる「途上国」に生産拠点を移すことを考える多国籍企業に対し、労働組合をつくらせないなどの人権侵害的な条件を提示して工場を誘致する輸出加工区の問題は以前から知られていました。そうした工場での労働者の多くは若い独身の女性です。従順であることが好まれ、そして結婚や妊娠は解雇の対象になります。トイレに行く時間の厳格な管理や、「先進国」では禁止されている化学物質の使用による健康被害も報告されています。2013年にバングラデシュのダッカで起きたラナプラザの倒壊事故では、危険が指摘されていた建物での操業を中止しなかったことによって、誰もが名前を聞いたことがある「先進国」の衣料品メーカー向けの衣料を生産していた多くの女性が命を落としました。
2011年に国連が発表した「ビジネスと人権指導原則」は、こうした人権侵害的な労働に支えられた生産と消費に目を向け是正するために重要な原則です。日本政府は、2020年10月に同指導原則の国別行動計画を発表しました。政府と企業は原則を実施し、サプライチェーンにおける人権侵害的な生産を是正する必要があります。
目標12には、以下の8つの具体的なターゲットがあります。
サプライチェーンにおける人権課題には、紛争と希少鉱物が関係する事例もあります。スマホのマナーモードとして利用されるバイブレーション機能には希少鉱物であるタングステンが使われますが、タングステンの多くは、コンゴ民主共和国を始めとするアフリカ中部で採掘されます。1990年代以降、2度の内戦が発生したコンゴ民主共和国では、武装勢力がタングステンの生産地を支配下におき鉱物取引を独占して資金源としたために、鉱物資源が「紛争鉱物」と呼ばれるようになりました。紛争鉱物を使用したスマホに対し欧米の消費者が不買運動を展開し、関連企業はコンゴ民主共和国からの鉱物資源輸入を停止しました。しかし、この事実上のボイコットによって鉱物価格は下落し、紛争とは無関係な鉱山も影響を受けることになりました。最大の被害者は、鉱物資源の採掘で生計を立てていた労働者です。
こうした事態を受けて、紛争とは関係のない鉱物で製品をつくる試みが、オランダで立ち上がった社会的企業「フェアフォン」です。紛争フリー鉱物で製品をつくり、そのことにより生産者と地域を支え、その製品を選ぶことにより、スマホを通じて生産者と消費者の公正な関係が模索されることになります。
グローバル化が進展した社会では、サプライチェーンの長い過程を経て、製品が私たちの手に届きます。サプライチェーンの先の先にある生産の現場を知ること、人権侵害的なサプライチェーンを経た製品でないかどうか、製品を「つかう」私たちが消費者としての感度を高めることが大切です。
参考資料:「スマホの真実(DVD)」(PARC、2016年)