アジア・太平洋の窓
地域コミュニティはCOVID-19の拡大を阻止する鍵である。人々がどのようにコミュニケーションをとるのか、何を知っているのかなど、人々のCOVID-19に関する理解の必要性やギャップを理解して初めて、人道支援組織は地域コミュニティが主導するウィルス感染拡大緩和に向けた対応を実現することができる。
複数の国際機関が協力して結成した「リスク・コミュニケーションおよびコミュニティ・エンゲージメントワーキング・グループ」の一員として、国際赤十字赤新月社連盟(IFRC)、各国の赤十字赤新月社の協会、国連人道問題調整事務所(OCHA)、ユニセフ、世界保健機関(WHO)は、2020年5月29日から7月20日まで、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、パキスタンにおいて、2週間の収集期間を設けてCOVID-19に関する認識調査をした。
4カ国で合計4,993人(男性52.4%、女性47.28%、無回答0.67%)が参加した。参加者のうち一番多い年代は18才から29才で、次に多いのが30才から39才であった。
参加者の教育水準は4カ国ではそれぞれ異なり、パキスタンが正規教育を受けていない(7.9%)、または初等教育しか受けていない(24.4%)割合が一番大きい。他方、インドネシアでは、学校に行かなかった、または小学校しか行かなかったと回答したのは1.1%のみであり、82.2%は中等教育を修了していると回答した。この大きな格差はインドネシアでのサンプルの規模が他の国よりもかなり小さく、オンラインでしか調査できなかったことによる可能性が高い。
調査の設問の一つは、「ある特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると思いますか」というスティグマに関するものだった。
4カ国とも回答者の約3人に1人は、特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると完全に信じていた(特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると思うかどうかという問いに対して「そう思う」と回答したのはインドネシア35%、マレーシア50%、ミャンマー28%、パキスタン17%)。特定の集団に「責任がある」と考えた人と特定の集団に「やや責任がある」と考えた人を合わせると、その数は2人に1人に増える(インドネシア55%、マレーシア69%、ミャンマー32%、およびパキスタン30%)。特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任がある、という考えはマレーシアで最も広がっており(回答者の2人に1人)、パキスタンが最も少ない(回答者の5人に1人)。
ミャンマーにおいて、最も責任があると考えられた集団は、中国から来た人々と外国からの帰国者であった。このことはおそらくウィルスが、ミャンマーとの行き来が容易で長い国境を持つ中国でもともと発生したことと、OCHAによると、この調査が行われた当時、同国では「国内感染は限定的であり、大多数の感染事例は帰国者から確認されている」ことによると考えられる。ミャンマーにおいて、50才以上の教育を受けていない男性回答者が、特定の集団がウィルス感染拡大に責任があるとより考える傾向があった。
マレーシアでは回答者の69%が、特定の集団がCOVID-19の感染拡大に責任があると考え、そのうち50歳以上の回答者は50歳未満よりも9%、中等教育以下しか受けていない回答者は、高等教育を受けている回答者よりも4%、特定の集団に責任があると考える人が多い。さらに、同国の都市部の回答者は農村部の人よりも3%多くそう考える。
マレーシアにおいて、責任があると回答者があげた集団のなかでは、「外国人」が多かった。特に中国人、帰国者、外国人観光客、「不法在留外国人」、移住労働者、そして外国人一般があげられた。これに小差で、COVID-19陽性者と政府の規制に従わない人が続く。これはマレーシアが感染拡大に際して、外国人観光客および移住者(特に非正規移住者)に対してとった、入国を制限する規制強化および収容・送還の拡大を含む行動と一致しており、パンデミックが始まって以降、一般的な外国人に関する肯定的な世論が低下していることを裏付けている。
インドネシアでは、回答者の半分強(55%)が、特定の集団がCOVID-19感染を広めていると信じている。多数の人が、マスクをつけない、不要な外出をする、感染のリスクが高い地域と行き来するなど政府の規制に従うことを拒否する人のせいで感染が拡大すると信じている。また、感染拡大は政府が感染の規模を予想せず、ロックダウンや厳格な規制を有効に行わなかったためであると考える人々が少数ではあるが存在することは注目すべきである。パキスタンでは、ほとんどの回答者は、渡航や隔離に関する不十分な規制および政府がイランとの国境に設置した隔離施設がCOVID-19の感染拡大の原因と考えている。次に、パキスタンに帰国した自国民や外国人、最後に中国から来た人がCOVID-19の感染拡大の責任があるとみなされた。
4カ国すべてにおいて、教育水準が、特定の集団がCOVID-19について責任があると考えるかどうかに対してわずかながら影響した。高等教育を受けた人は、特定の集団に責任があると考えることがわずかながら少なかった。
4カ国全てにおいてCOVID-19に関する情報のニーズと地域コミュニティへの働きかけには共通の傾向がある。全体的に、回答者は主に厚生省・保健省、SNSやテレビなどを通してCOVID-19の情報を得ると述べている。例えば、ミャンマーの若い女性は「COVID-19の感染拡大のなか、(家のテレビは)MRTV(政府系チャンネル)を常につけている。家族は一日中テレビの周りに集まっている」と述べた。
「いつも、MOHS(保健スポーツ省)のロゴはついているか、と調べる」とミャンマーの若い男性は述べた。「ロゴがある時のみ、その指示を信じる。他のものは全部製品を宣伝しているだけだ。」
このことは、ミャンマーにおいてCOVID-19に関する情報伝達は、FacebookやWhatsAppのような人気のSNSと同時に、インターネットにアクセスできる人に限定されないように、政府省庁のウェブサイトやテレビ、ラジオ局や印刷物を通して行われなければならないことを示唆する。
インドネシアでは、回答者は主にウェブサイトやオンラインのニュース、SNSやグーグルなどの検索エンジンを通して情報を得ていると説明した。しかし、この結果は、インドネシアのデータが全てオンライン調査を通して収集されたという事実に関係している可能性が高い。回答者は常時インターネットにアクセスして「デジタル慣れ」している可能性が高かった。
使用される主要な情報手段はいくつかあるが、4カ国を通じてCOVID-19に関して最も信頼される情報源は、テレビ(61.13%)であり、マレーシアとミャンマーでは、ラジオと新聞紙がこれに続く。この2カ国と違い、パキスタンでは回答者はテレビに次いで、検索エンジン、ウェブサイト、またはオンライン・ニュースをより信頼すると述べた。一方、インドネシアの回答者は主にWHO、コミュニティ・ヘルス・ワーカー、ユニセフ、保健省および赤十字のボランティアをテレビよりも信頼すると述べた。
興味深いことに、インドネシアおよびマレーシアではSNS、ウェブサイト、オンライン・ニュースや検索エンジンがよく使われるが、WHO、ラジオ、コミュニティ・ヘルス・ワーカー、ユニセフや赤十字のボランティアといった使われることが少ない情報源ほど信頼されていない。つまり、有効な情報の伝達のためには、例えば、テレビまたはSNSを通して保健省、またはWHOの代表が伝えるというように、高い信頼を得ている情報源およびよく使われる手段を通して人々を引き込む必要がある。
4カ国を通して回答者は、予防措置、症状およびウィルスの感染に関する情報を入手したと述べた。こうした情報は地域コミュニティの男性と女性にほぼ平等に発信されている。
(岡田 仁子 訳)
※ 本稿は2020年9月17日、リスク・コミュニケーションおよびコミュニティ・エンゲージメント・ワーキング・グループの報告“COVID-19: Community Insights from the Asia Pacific Region - Indonesia, Malaysia, Myanmar, and Pakistan”(September 2020)の抜粋で、ヒューライツ大阪英語ニュースレター“FOCUS”vol.101に掲載した記事の翻訳である。全文(英語)はReliefweb(下記URL)を参照。
https://reliefweb.int/report/indonesia/covid-19-community-insights-asia-pacific-region-indonesia-malaysia-myanmar-and