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国際人権ひろば No.158(2021年07月発行号)

人権の潮流

女性の権利を国際基準に -女性差別撤廃条約選択議定書の批准を今こそ

石田 絹子(いしだ きぬこ)
ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)共同代表、住友男女賃金差別裁判元原告

選択議定書への熱い思い

 1994年、住友化学、住友電工、住友金属の女性たちは同期同学歴の男女の賃金格差0の是正を求めて婦人少年室(当時)に訴えた。男女雇用機会均等法の調停制度を使ったものだった。しかし、コースが違う場合は均等法の対象外であること、企業の合意がなければ調停は開かれないことなど、均等法の不備で調停は不調に終わり、原告たちは裁判を決意した。1995年、女性差別撤廃条約に願いを込めた提訴だった。この裁判をサポートするために結成されたのがワーキング・ウィメンズ・ネットワーク(WWN)である。裁判の中で男女賃金格差が月額24万円に及ぶことも明らかになったが、2000年に出された住友電工の地裁判決は「男女格差は憲法14条の趣旨には反するが、公序良俗には反しない」という前代未聞のものであった。「日本がだめなら国連がある」と2001年、原告たちはジュネーブに飛び、国連でロビー活動をした。

 1999年に国連では女性差別撤廃条約の実効性を強化するために、付属文書である選択議定書を採択した。選択議定書には国内であらゆる手立てを尽くしても救済されない場合、個人が直接、女性差別撤廃委員会(CEDAW)に訴えることができる個人通報制度と重大な権利侵害がある場合に調査する調査制度がある。原告たちはこの判決が国際基準に照らしてどうなのかを知りたいと、大きな希望を持っていた。CEDAW委員のショップ・シリングさんに「私たちも選択議定書が使えますか」と聞くと、「もちろん。でも批准しないと使えません。批准するよう運動してください」と言われた。そこから「選択議定書の批准」が原告とWWNの目標の一つになった。

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2003年、ニューヨークでCEDAW委員の
ショップ・シリングさんと住友裁判原告(当時)

共同行動「女性差別撤廃条約実現アクション」結成

 女性差別撤廃条約選択議定書は現在、条約批准国189ヵ国中、114ヵ国が批准している。日本政府は採択の審議に参加し、決議にも加わったにも拘わらず、20年以上経過した今も批准していない。理由として当初、「司法権の独立を侵害する」などを挙げていたが昨今は「注目すべき制度であるが、真剣に検討を進める」を繰り返している。女性差別撤廃委員会からも2003年、2009年、2016年、3度も批准をするよう勧告され、国内でも早期批准を求める国会請願が参議院で15年間に20回も採択されている。

 この膠着状態を打開し、早期批准をすすめるために2019年、「女性差別撤廃条約実現アクション(OPCEDAWアクション)」が結成された。ヒューライツ大阪もWWNも参加し、「女性の権利を国際基準に」をスローガンに、現在58団体が参加している。早期批准を求める署名、国会議員との院内集会、オンライン署名、地方議会に選択議定書批准を求める意見書採択の働きかけなどに取り組んでいる。

 女性差別撤廃条約実現アクションの会議は東京で定例開催されていたが、コロナ禍のなかでリモート開催になり、大阪のWWNからも複数で会議に参加するなか、課題や進捗がリアルに把握でき、地方議会への意見書採択の取り組みを具体化できると思うに至った。

まず自分の住む町から

 2020年2月、まず私の住んでいる箕面市に意見書採択を働きかけようと市議会HPで議員を検索し女性議員7人に順次会って、選択議定書批准の意義を説明した。資料にOPCEDAWアクション作成のリーフレット、意見書採択した全国地方議会一覧表、採択された意見書を箕面市用にアレンジした意見書案を提案した。話すなかで女性差別撤廃条約がまだまだ知られていないことから勉強会開催を市に申請した。企画が受諾されたあとは議会事務局にある議員ポストに案内を投函して議員に参加を呼び掛けた。議会で意見書を採択するには、市民の要請・請願によるものと議員提案によるものとがある。要請を受けて各会派代表による幹事長会議で多数決または全会一致で本会議に提案される。1年かけて女性議員、各会派代表、議長・副議長に会うために10数回市議会を訪ねたが、2月のオリンピック組織委員会森会長の女性差別発言で流れが変わった。当初、上部の意向次第と回答した党も最終的には「全会一致なら賛成」とまで言明したが、反対する党が一つあったため全会一致には至らなかった。反対理由は「こういう案件は国の男女共同参画施策でやるべき」であったのには耳を疑った。

 寝屋川市、池田市、吹田市、豊中市でもWWNメンバーが住民として市議会にアプローチした。寝屋川市は無所属女性議員が中心となって2020年9月に全会一致で採択された。池田市は箕面市の議員の紹介で訪ねた議員が「これはいいですね。出しましょう」と二つ返事だった。意見書を提出したあと、6つある会派の代表者に会って選択議定書を説明した。折しも池田市長がサウナを市長室に設置した問題で百条委員会が開かれていて、各会派は強い結束の中にあり、意見書はスムーズに本会議に提案され、全会一致で採択された。

大阪府議会での採択はドラマだった

 大きな流れを呼んだのは大阪府議会であった。私たちが意見書採択した地方議会一覧表を初めて見たのは2020年10月、その時の衝撃は今も忘れられない。トップに「2001年5月堺市議会」の文字が躍っていた。選択議定書は1999年に国連で採択され、2000年12月に発効した。2001年は裁判真っ最中で、選択議定書批准にまだ確信を持っていなかったころに堺市議会が意見書を採択したということに大きな衝撃を受けた。堺市に住む元原告一人は誰が発起人であったかを調べ、行きついたのがベテランの女性市議であった。表敬訪問でその議員を訪ねたのは2020年12月。採択当時は無所属議員で、世界女性会議にも出席していた。現在は自民党議員として活動し、住友裁判の元原告の訪問を大いに歓迎された。

 大阪府議会に意見書採択のアプローチを始めたとき、女性議員が極端に少ないことでどこから手を付けたらいいのか、WWNメンバーは途方に暮れた。藁にもすがる思いでこの堺市議に電話すると「わかりました。府議会の自民党議員に話を通しましょう」と即答があった。翌日、「ちょうどよかった。1週間後が府議会の意見書締め切りだからすぐ行くように」と連絡があり、3月1日に府議会副議長、幹事長、政調副会長を訪ねた。ここでも森会長の女性蔑視発言に批判が集中し、ジェンダー平等の世論の高まりを実感した。意見書は自民党から提出するという意向であったが、自民と公明とですり合わせて政務調査委員会に提案された。大阪府議会の政務調査委員会は維新、自民、公明の3会派で構成され、他の会派はオブザーバーで議決権はない。意見書は3月24日の本会議で全会一致採択された。ちょうど府議会は府市の一元化条例議論の真っ只中にあり、大阪特有の政治事情が皮肉にも後押ししたとも考えられる。しかし大阪府議会での意見書採択は大きなインパクトがあり、全国の地方議会での採択の後押しになるに違いない。全国地方議会の意見書採択は2001~2016年で40議会、2019~2021年で40議会、現在80議会に到達している。

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大阪府議会での意見書採択後に記者会見する
OPCEDAWアクション大阪のメンバー(中央が筆者)

「女性差別撤廃条約実現アクション大阪」を立ち上げ

 WWNは並行して大阪の女性団体の結集も呼びかけた。2020年12月に富山県の女性団体16団体が集まって富山県議会での意見書採択に成功したことから学んだ。富山では自民党の女性県議会議員2人を含む4人の女性議員が講師となって連続講演会を開催し、幅広い女性たちを巻き込んで成功した。大阪でも40近い市町村議会で採択を進めるためには幅広い女性を結集していく必要があると考え、3月14日に「女性差別撤廃条約実現アクション大阪」をスタートさせた。この時点で参加団体は8団体であった。

 5月9日、「女性差別撤廃条約実現アクション大阪キックオフ集会」を開催。緊急事態宣言でやむなくオンライン集会となったが、全国から市議会議員4名を含む70名が参加した。浅倉むつ子早稲田大学名誉教授のビデオ講演と意見書採択の取り組み報告に続き、参加団体の代表が批准への思いを語った。この日で参加団体は14団体になった。

 7月25日は36年前、日本で女性差別撤廃条約が発効した記念すべき日。この日を「女性の権利デー」として実現アクションが行動を呼びかけている。大阪でも行動をすることが提起された。全国津々浦々で女性たちがアピールし、選択議定書批准を政府に迫らねばならない。