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国際人権ひろば No.158(2021年07月発行号)

人として♥人とともに

SDGsを人権の視点で読み解く ~目標16:平和と公正をすべての人に~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 SDGsには、「平和」「法の支配(司法へのアクセス)」「包摂的・参加型・代表的意思決定」そして「基本的自由の保障」を求める目標16があります。目標16は、「目標15までの達成を左右する目標横断的な目標」とされています。平和が脅かされている状況では、経済の発展や開発は困難です。武力紛争は最大の人権侵害であり、同時に環境破壊でもあります。

 目標16には、以下の10の具体的なターゲットがあります。

  1. 全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる
  2. 子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問をなくす
  3. 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、全ての人々に司法への平等なアクセスを提供する
  4. 違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する
  5. あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる
  6. あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる
  7. あらゆるレベルにおいて、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する
  8. グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する
  9. すべての人に出生登録を含む法的な身分証明を提供する
  10. 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する

 市民的自由の保障を目標として活動する国際NGOであるシヴィカス(CIVICUS)は、2020年の報告書で、市民的自由を制限する政府が以前よりさらに増えていることに警鐘を鳴らしています。報告書では、各国の市民社会スペースを「開かれている」から「閉ざされている」の5段階で評価していますが、2020年に「開かれている」あるいは「縮小している」と評価された国家に暮らしているのは世界の人口の12.7%にすぎません。そして、この数字は2019年の17.6%から約5ポイント低下しました。報告書は、新型コロナウイルス感染症が、市民の自由な活動を制限する言い訳として使われている可能性があることを懸念しています。

 2020年5月、フランス政府は、パンデミック対応を目的とする緊急公衆衛生措置の一環として平和的な集会を禁止しました。バングラデシュでは、デジタル安全保障法が、政府批判を取り締まるための格好の法として使われており、取り締まりの対象は、パンデミック対応に関する政府批判の取り締まりにも向かっています。

 アジアでは、他に、香港、新疆ウイグル、そして2月に軍事クーデターが発生したミャンマーにおける基本的自由に関する状況が非常に懸念されることは言うまでもありません。

 目標16については、日本との関連で特筆すべき点があります。実施手段として設定されている2つのターゲットの指標として、「パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の有無」と「国際人権法の下で禁止されている差別の理由において差別または嫌がらせを個人的に感じたと報告した人口の割合」が挙げられていることです。国内人権機関については、繰り返し、国連の人権条約委員会から政府報告書審査の総括所見等で設置を勧告されているにも関わらず、いまだに日本には、国内人権機関がありません。また、同様に、立法措置を講ずるよう繰り返し勧告されている包括的な差別禁止法も存在しません。「何が差別にあたるか」について、日本には規程がない状況です。

 SDGsの各ターゲットに関するグローバル指標の達成状況が外務省のウェブサイトで公開されているのですが、国内人権機関は「なし」、差別または嫌がらせを個人的に感じたと報告した人口の割合については、「現在、提供できるデータはありません」と記載されています。平和や公正さを実現するための手段に関し、日本がグローバルな基準に達していないのは残念です。

 日本において国際基準の人権が定着するための法と制度が実現することが大切です。パンデミックからの回復が、日本そして世界で、公正さが保障された法の支配の下で、自由や私権の過剰で不当な制限なく、多様な人々の声が反映される形で進むかどうか、私たち一人ひとりにとって重要な課題です。

< 参考 >