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国際人権ひろば No.160(2021年11月発行号)

人権の潮流

「平等を目指す全ての世代フォーラム」の成果と今後への期待

橋本 ヒロ子(はしもと ひろこ)
十文字学園女子大学 名誉教授

はじめに

 1995年に開催された「第4回世界女性会議(北京会議)」から26年の2021年3月29~31日にメキシコシティ、6月30~7月2日にパリで、「平等を目指す全ての世代フォーラム」(Generation Equality Forum、以下「GEF」)が、開催された。GEFの開催目的は、北京会議で採択された北京行動綱領の次の目標を政府、フェミニスト団体、ユース、ドナーを含む市民社会などからの世代を超えた男女で話し合い合意することであった。
 GEFで合意した「グローバル加速計画」(Global Accelerated Plan、以下「GAP」)は、「北京会議から26年、女性の地位は、ほとんど変化しなかった(Too little has changed.)」で始まっている。
 しかし、北京会議以降、世界の女性の地位向上のための政策が実施されなかったのではない。2010年にUN Womenに統合された国連女性開発基金の次長であったJoanne Sandlerは、「北京行動綱領」(BPA)の成果として、次の3点を挙げている(注


  1. 夫からの暴力に対する刑事罰を科せるように刑法を改正した国は144か国(2018年調査)。
  2. 安保理が「女性、平和、安全保障の決議1325」を2000年に採択し、それ以降、紛争下における女性に対する暴力の禁止及び加害者の非難など2019年まで8決議が採択された。
  3. 選挙におけるクオータ制度を採用する国数が130か国以上になった。

 もちろん、2020年以降のコロナ禍により、女性に対する家庭内暴力が増加し、女性の貧困化が増えたため、北京会議以前に戻ったような印象を与えるが、全体的には進んでいる。
 特に、多様な領域におけるジェンダーの主流化では、ジェンダーギャップ指数156カ国中120位でも遅れている日本でも、女性の登用が経済界を中心に進められている。欧米では、公募研究の評価項目に、ジェンダー分析の有無が問われることなどが、フェミニスト達の働きかけで広がっている。
 日本の立法に関しては、①男女共同参画社会基本法(1999年)、②配偶者間の暴力防止法(2001年)、③女性活躍推進法(2016年)、④政治分野における男女共同参画推進法(2019年)及び改正法(2021年)が成立施行されている。特に、②と④については、NGO等からの働きかけによる超党派の議員連盟の活動の成果と言える。
 一方で、国際的に北京会議以降、次の行動計画を検討し作成する国連の政府間会合が持てないため、今回のGEFの開催になったという状況は否定できない。


no160_p12-14_img1.jpg「平等を目指す全ての世代フォーラム」パリ会議
写真: UN Women / Fabrice Gentile


「グローバル加速計画(GAP)」と「北京行動綱領(BPA)」の違い


1.カバーする領域およびアクターの表現の違い


 GAPは、目標1)ジェンダーに基づく暴力、目標2)経済的正義と権利、目標3)身体の自律性と性と生殖の健康と権利(SRHR)、目標4)気候正義のためのフェミニストの行動、目標5)ジェンダー平等のための技術とイノベーション、目標6)フェミニスト運動とリーダーシップの6領域及びWomen Peace And Security And Humanitarian Action Compact(女性、平和、安全保障及び人道行動協定)を加えると7領域になるのに対し、BPAは12領域である。
 また、類似のテーマであってもアクターの書き方やアプローチが、BPAとは大きく異なる領域もある。例えば、GAPの目標6)フェミニスト運動とリーダーシップとBPAの目標G)権力及び意思決定における女性は類似のテーマであるが、アクターについての表現が大きく異なる。GAPの目標6の3)では、「以下の手段を用いて、トランス、インターセックス、非バイナリ(自らを男性・女性のどちらでもないと認識している人々)の人々を含むあらゆる少女や若者、女性、フェミニストリーダーの実質的な代表性・かつ意義のある参加を増やす」としているように、性を特定しない人々にも配慮した書き方となっている。しかし、国連女性の地位委員会(CSW)も含め、国連の会議では、性を特定しない人々について明記することは、多くの国々(特にカソリックおよびイスラム教国)からの強い反対が起こるため、このような表現は使わない。


2.目標達成の期限と数値目標の明記


 BPAは、「ジェンダー平等の聖典」と呼ばれるように、理念的な表現が多く、加盟国から反対意見が噴出することが多い目標達成期限、数値目標を入れていない。
 北京会議以降のフォローアップについて、国連は5年目にあたる2000年6月に特別総会を開催し、「北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ」(成果文書)を採択した(成果文書は最終日の翌朝5時に採択)。さらに、北京+10、北京+15、北京+20、北京+25(2020年)には、国連CSWは、BPAの達成状況と今後の課題を検討し、議論の少ない内容の政治宣言を初日に採択している。それ以外の年は、CSWでは、優先領域の中のテーマに関する合意結論について、多くの場合、夜中、最終日は朝まで審議するが、BPAの達成状況については、各国に報告させているだけで議論はほとんどない。
 一方、GAPは、5年後の2026年達成をめどに数値目標も挙げており、大きな違いである。
 参考までに、2026年までの数値目標を上げている行動を中心に以下に列挙する。紙幅の都合により、1、2、3の目標に限定する。「2026年までに」は以下の引用からは外した。BPAやCSWの合意結論には参加国の反対により入れられない用語も各所で使われている。


目標1)ジェンダーに基づく暴力(GBV)


  1. 5億5,000万人以上の女性と少女が、あらゆる形態のGBVを禁止する法律や政策を持つ国に住む。
  2. 女性、思春期の少女、若い女性に対するGBVの蔓延を減らすために、国家政策にGBVに関する1つ以上の証拠主導の予防戦略を入れている国の数を50%増加させる。
  3. GBVサーバイバーのために、人道的な環境も含め、サーバイバー中心の包括的かつ、質が高く、アクセス可能で手頃な価格でのサービスの実施と資金調達を拡大することで、警察、司法、保健、社会セクターサービスの提供を含むGBVに関する多部門行動計画を持つ国に住む女性と少女が増える。
  4. 多様な女性や少女に対するGBVに取り組む人々を含む女性の権利団体、活動家、運動に対する国際資金を50%増やす。


目標2)経済的正義と権利


  1. 国民所得の3~10%を投資し、無報酬の公的及び私的な介護労働を認識し、削減、再分配するための最大8,000万人のディーセントな介護職の創出を含む、ジェンダーに対応した公的および民間の質の高いケアサービスにおける包括的な措置を講じた国の数を増やし、民間部門を含む介護労働者のまともな賃金と労働権を保証する。
  2. 貧困下で暮らす働く女性の数を1,700万人削減し、乳幼児を育てている男女の労働力率格差を半分に減らす。その結果、さらに8,400万人の女性が労働力に加わる。
  3. 土地などの生産資源への女性のアクセスと管理・運営を増やし、ジェンダーに敏感な金融商品やサービス、女性が所有する企業の数を増やすことで、土地と住宅の所有権と管理への安全なアクセスのある女性を700万人増加させる。女性に対する正式及び非公式の金融サービスを増やすことによって、金融セクター包摂における男女格差を6%に減少する。脆弱な状況や紛争状況を含め、あらゆる場面で女性が所有する企業数を25%増加させる。
  4. ジェンダーに対応するマクロ経済計画、予算改革、刺激策を設計・実施し、質の高い公共社会的保護とシステムを勧めることで、貧困女性と少女の数を8,500万人削減する。


目標3)身体の自律性と性と生殖の健康と権利(SRHR)


  1. 学校内外での包括的なセクシュアリティ教育の提供機会を増やし、5,000万人以上の子ども、若者に教える。
  2. 5000万人以上の思春期の少女と女性に対する避妊サービスの品質とアクセスを高め、安全で合法的な中絶にアクセスできるように制約や法的障害の撤廃を促す。
  3. 2億6千万人以上の少女、女性が、自分の体、セクシュアリティ、生殖に関する自主的な意思決定を行うことができ、少なくとも20カ国で身体の自立とSRHRを保護し促進するために、法律の制定および政策を変更する。


今後の課題: 加速計画の達成状況の評価

 GAPの策定に積極的にかかわった政府は限られているため、実際に各国政府が実施するかどうかは、テーマ、政府の方針およびフェミニスト団体など市民社会の影響力により、国ごとに大きく異なると思われる。
 フェミニスト団体など市民社会が頑張り、ジェンダー平等先進企業などの民間セクターが前向きで発言力がある国やEUなど国のグループでは、当該国の政府の実施状況を監視して要請することも可能である。
 さらに、実質的にフェミニストNGOが活動できない、もしくは、活動しにくい国においては、GAPの実施は限定的になるか、全く実施されないことになる。
 全ての場合において、世界の先進的な国々、市民社会と連携したUN womenのリーダーシップが大きな課題となる。今年9月に任命されたシマ・サミ・バホス第3代UN women事務局長はレバノン出身であり、イスラム教国、特に、大きく後退しているアフガニスタンの女性・少女の状況改善も含め、期待している。
 一方、今回6領域に入らなかった教育・メディアは、性別役割などの社会規範を変えるために重要な役割を果たす。特に日本のように、ジェンダー平等推進が大幅に遅れている国では、今後、教育・メディアにジェンダー視点入れて内容をどのように変えていくかも大きな課題といえる。



注:
Sandler, Joanne & Goetz, Anne Marie. Can the United Nations deliver a feminist future?, Gender & Development, Gender & Development, 2020, 28:2


<参考>

・ヒューライツ大阪 ニュースインブリーフ「平等を目指す全ての世代フォーラム」(GEF)が開催される(6月30日~7月2日)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2021/08/gef63072.html