人権の潮流
1995年に開催された「第4回世界女性会議(北京会議)」から26年の2021年3月29~31日にメキシコシティ、6月30~7月2日にパリで、「平等を目指す全ての世代フォーラム」(Generation Equality Forum、以下「GEF」)が、開催された。GEFの開催目的は、北京会議で採択された北京行動綱領の次の目標を政府、フェミニスト団体、ユース、ドナーを含む市民社会などからの世代を超えた男女で話し合い合意することであった。
GEFで合意した「グローバル加速計画」(Global Accelerated Plan、以下「GAP」)は、「北京会議から26年、女性の地位は、ほとんど変化しなかった(Too little has changed.)」で始まっている。
しかし、北京会議以降、世界の女性の地位向上のための政策が実施されなかったのではない。2010年にUN Womenに統合された国連女性開発基金の次長であったJoanne Sandlerは、「北京行動綱領」(BPA)の成果として、次の3点を挙げている(注。
もちろん、2020年以降のコロナ禍により、女性に対する家庭内暴力が増加し、女性の貧困化が増えたため、北京会議以前に戻ったような印象を与えるが、全体的には進んでいる。
特に、多様な領域におけるジェンダーの主流化では、ジェンダーギャップ指数156カ国中120位でも遅れている日本でも、女性の登用が経済界を中心に進められている。欧米では、公募研究の評価項目に、ジェンダー分析の有無が問われることなどが、フェミニスト達の働きかけで広がっている。
日本の立法に関しては、①男女共同参画社会基本法(1999年)、②配偶者間の暴力防止法(2001年)、③女性活躍推進法(2016年)、④政治分野における男女共同参画推進法(2019年)及び改正法(2021年)が成立施行されている。特に、②と④については、NGO等からの働きかけによる超党派の議員連盟の活動の成果と言える。
一方で、国際的に北京会議以降、次の行動計画を検討し作成する国連の政府間会合が持てないため、今回のGEFの開催になったという状況は否定できない。
「平等を目指す全ての世代フォーラム」パリ会議
写真: UN Women / Fabrice Gentile
1.カバーする領域およびアクターの表現の違い
GAPは、目標1)ジェンダーに基づく暴力、目標2)経済的正義と権利、目標3)身体の自律性と性と生殖の健康と権利(SRHR)、目標4)気候正義のためのフェミニストの行動、目標5)ジェンダー平等のための技術とイノベーション、目標6)フェミニスト運動とリーダーシップの6領域及びWomen Peace And Security And Humanitarian Action Compact(女性、平和、安全保障及び人道行動協定)を加えると7領域になるのに対し、BPAは12領域である。
また、類似のテーマであってもアクターの書き方やアプローチが、BPAとは大きく異なる領域もある。例えば、GAPの目標6)フェミニスト運動とリーダーシップとBPAの目標G)権力及び意思決定における女性は類似のテーマであるが、アクターについての表現が大きく異なる。GAPの目標6の3)では、「以下の手段を用いて、トランス、インターセックス、非バイナリ(自らを男性・女性のどちらでもないと認識している人々)の人々を含むあらゆる少女や若者、女性、フェミニストリーダーの実質的な代表性・かつ意義のある参加を増やす」としているように、性を特定しない人々にも配慮した書き方となっている。しかし、国連女性の地位委員会(CSW)も含め、国連の会議では、性を特定しない人々について明記することは、多くの国々(特にカソリックおよびイスラム教国)からの強い反対が起こるため、このような表現は使わない。
2.目標達成の期限と数値目標の明記
BPAは、「ジェンダー平等の聖典」と呼ばれるように、理念的な表現が多く、加盟国から反対意見が噴出することが多い目標達成期限、数値目標を入れていない。
北京会議以降のフォローアップについて、国連は5年目にあたる2000年6月に特別総会を開催し、「北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ」(成果文書)を採択した(成果文書は最終日の翌朝5時に採択)。さらに、北京+10、北京+15、北京+20、北京+25(2020年)には、国連CSWは、BPAの達成状況と今後の課題を検討し、議論の少ない内容の政治宣言を初日に採択している。それ以外の年は、CSWでは、優先領域の中のテーマに関する合意結論について、多くの場合、夜中、最終日は朝まで審議するが、BPAの達成状況については、各国に報告させているだけで議論はほとんどない。
一方、GAPは、5年後の2026年達成をめどに数値目標も挙げており、大きな違いである。
参考までに、2026年までの数値目標を上げている行動を中心に以下に列挙する。紙幅の都合により、1、2、3の目標に限定する。「2026年までに」は以下の引用からは外した。BPAやCSWの合意結論には参加国の反対により入れられない用語も各所で使われている。
目標1)ジェンダーに基づく暴力(GBV)
目標2)経済的正義と権利
目標3)身体の自律性と性と生殖の健康と権利(SRHR)
GAPの策定に積極的にかかわった政府は限られているため、実際に各国政府が実施するかどうかは、テーマ、政府の方針およびフェミニスト団体など市民社会の影響力により、国ごとに大きく異なると思われる。
フェミニスト団体など市民社会が頑張り、ジェンダー平等先進企業などの民間セクターが前向きで発言力がある国やEUなど国のグループでは、当該国の政府の実施状況を監視して要請することも可能である。
さらに、実質的にフェミニストNGOが活動できない、もしくは、活動しにくい国においては、GAPの実施は限定的になるか、全く実施されないことになる。
全ての場合において、世界の先進的な国々、市民社会と連携したUN womenのリーダーシップが大きな課題となる。今年9月に任命されたシマ・サミ・バホス第3代UN women事務局長はレバノン出身であり、イスラム教国、特に、大きく後退しているアフガニスタンの女性・少女の状況改善も含め、期待している。
一方、今回6領域に入らなかった教育・メディアは、性別役割などの社会規範を変えるために重要な役割を果たす。特に日本のように、ジェンダー平等推進が大幅に遅れている国では、今後、教育・メディアにジェンダー視点入れて内容をどのように変えていくかも大きな課題といえる。
注:
Sandler, Joanne & Goetz, Anne Marie. Can the United Nations deliver a feminist future?, Gender & Development, Gender & Development, 2020, 28:2
<参考>
・ヒューライツ大阪 ニュースインブリーフ「平等を目指す全ての世代フォーラム」(GEF)が開催される(6月30日~7月2日)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2021/08/gef63072.html