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国際人権ひろば No.161(2022年01月発行号)

特集:気候変動と人権

気候変動とジェンダー~気候変動対策でも「誰一人取り残さない」~

遠藤 理紗(えんどう りさ)
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)事務局次長・気候変動プログラムリーダー

COP26では何か決まったのか?

 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が2021年10月31日~11月13日に英国グラスゴーにて開催された。会期を1日延長したが、「グラスゴー気候合意」(Glasgow Climate Pact)が採択され、市場メカニズムや透明性枠組に基づく報告フォーマットなどの残っていたパリ協定ルールも決まった。効果的な気候変動対策や政策立案のためには利用可能な最善の科学が重要であると認識し、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて1.5℃に抑えるための行動加速、および必要に応じ2022年末までの2030年目標強化など温室効果ガス削減(緩和策)に関する取り決めをはじめ、台風や干ばつといった気候変動による悪影響への適応策を強化することや、適応できる範囲を超えて発生する損失と被害への支援などについても議論された。
 交渉の外でも、多くの首脳が2030年までに森林破壊を止めることを目指す「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」(Glasgow Leaders' Declaration on Forests and Land Use)や2030年に世界のメタン排出を2020年比で最低30%削減を目指す「グローバル・メタン・プレッジ」(Global Methane Pledge)に署名するなど、重要な約束が交わされた。
 また、本会合では、将来世代に問題を先送りしないように今行動すべきという機運が非常に高まっていた。会場にも高校生や大学生のユースが大勢来ており、気候変動によって自分たちの将来が脅かされているとして各国の対策強化を訴えていた。各国交渉官からも「将来世代の声に応えるために合意に至ろう」という発言も聞かれた。併せて、気候変動が深刻化すると悪影響や被害を受けやすい「社会的に脆弱・周縁化されがちな人々やコミュニティを取り残さないようにする」という認識も今まで以上に広がっているように感じた。例えば、「グラスゴー気候合意」パラ52で持続可能な開発・貧困の根絶・ディーセントワーク・質の高い雇用創出を促進する公正な移行を確保する必要性が明記され、パラ55で市民社会・先住民・地域コミュニティ・若者・子ども・自治体といった様々なステークホルダーの果たす役割の重要性を認識するとの文言も盛り込まれた。

気候変動対策にもジェンダーや人権の視点が不可欠

 なぜ気候変動対策において人権やジェンダーへの配慮が必要なのか。気候変動の悪影響は皆が受けているが、社会的に脆弱な立場におかれている方が受けやすい。気候変動に適応するための資金や技術が不足していたり、居住環境が脆弱であったりする場合が多いためであり、Women DeliverというNGOは、ジェンダー・年齢・富・人種などは全て気候変動に対する脆弱性の決定要因となりうると指摘している。本会合の場でも、特に途上国関係者から、気候変動によって自国の女性や少女が被害を受け、彼女たちの生きる権利が侵害されているという訴えが多かった。途上国では、水の確保や農業といった気候変動の悪影響を顕著に受けている仕事を担っているのが主に女性や少女であり、こうした性別による役割・権利・責任の差が気候変動の悪影響や被害の受けやすさに関係している。
 パリ協定前文で謳われている「締約国は、気候変動に対処するための行動をとる際に、人権、健康に対する権利、先住民、地域社会、移民、子ども、障害者、脆弱な状況にある人々の権利、開発に対する権利、さらにはジェンダー平等、女性のエンパワメント、世代間の公平性に関するそれぞれの義務を尊重、促進、考慮すべき」ことが「グラスゴー気候合意」でも再確認されており、気候変動対策においても人権やジェンダーへの配慮は不可欠である。

COP26とジェンダー

 締約国会議(COP)では気候変動とジェンダーは継続的に議論されている。2014年COP20でジェンダーに関するリマ作業計画が作成されたが、2019年COP25で新たに「強化されたジェンダーに関するリマ作業計画」に合意した。この方針に則り、ジェンダー行動計画で具体的な実施項目を定めており、ジェンダーに対応した気候変動対策に関する知識・理解を深めることや、全てのステークホルダーの活動におけるジェンダー主流化、気候変動枠組条約プロセスへの女性の完全・平等で有意義な参加実現を目指している。COP26でもジェンダーに関する議題が設けられ、ジェンダー行動計画の中間レビューに向け、各国やステークホルダーにジェンダー行動計画の進捗・実施における課題といった情報を提供するよう奨励することなどを含む文書に合意した。
 交渉外でも様々な動きがあった。各国首脳が参加した世界リーダーズサミットがあった11月2日には、スコットランド自治政府と国連女性機関(UN Women)の共同声明「ジェンダー平等と気候変動に関するグラスゴーの女性リーダーシップ宣言」(The Glasgow Women's Leadership Statement on Gender Equality and Climate Change)への署名が開始された。この声明は、年齢・性別・障害・居住地などの要因によって気候変動の影響が異なることを認識し、地域・国・国際レベルの政策や意思決定において、女性と少女の主体性・参加・リーダーシップを確保することを目指している。署名開始イベントには、スコットランドのスタージョン首相、バングラデシュのハシナ首相、タンザニアのハッサン大統領、エストニアのカッラス首相が登壇し、気候変動によって女性や少女が受ける悪影響への対処や気候変動対策における女性の役割について見解を述べた。例えば、人口やCO2排出量の多くを占める都市の脱炭素化は重要なテーマだが、子どもの送迎を担うことの多い母親が自家用車ではなく公共交通機関を選択しやすくするといった女性の視点が都市計画の立案時に組み込まれていないことが問題との指摘があった。各種政策立案に組み込むためには、ジェンダー平等の視点を持つ政治家を増やすことも一案との意見もあった。
 また、11月9日は「ジェンダーの日」(Gender Day)に設定されており、各国の女性閣僚・ビジネスリーダー・NGO・ユースなどが一堂に会し、気候変動対策とジェンダー平等を実現するための資金拠出や事業に関するコミットメントを発表した。オープニングイベントでは、途上国の若い女性を代表してサモアのユース・気候変動活動家のBriannaさんと難民の子どもたちの現状を伝えるためにトルコ-シリア国境から英国マンチェスターまで旅をしてきたシリア難民少女の人形であるLittle Amal(写真参照)が登場したが、彼女たちが代弁する少女や若い女性達の声を真摯に受け止め、彼女達のような人々を取り残さないよう支援が求められる。


p6-7_Little Amal.jpg「ジェンダーの日」に登場したシリア難民少女の人形

気候危機とジェンダー平等の同時解決を目指す

 このように気候変動とジェンダーの問題は切り離すことができないが、日本では2つの問題の関連性があまり認識されていない状況だ。
 例えば、コロナ蔓延によって女性に対する家庭内暴力(DV)や貧困化が報告されるなど、社会的に脆弱な女性が増えており、気候危機に対して脆弱になることが懸念される。台風や洪水などの災害時にも在宅で介護や育児を担っている場合が多い女性が逃げ遅れる、避難所に女性の視点が不足しているといったこともこれまで指摘されている。10月22日に閣議決定された気候変動適応計画には、ジェンダー平等や脆弱性の高い集団・地域にも配慮した意思決定・合意形成フ゜ロセスの充実を図りつつ施策を展開することが必要である旨が記載されたが、それらが着実に各地域で実践されることが重要となる。
 また、女性や少女のエンパワメントという観点からは、気候変動対策に積極的に女性が参加できるようにすることも必要である。例えば、今後成長すると予想されるクリーンエネルギー分野のような環境関連産業における女性の雇用促進など、多様な形で女性の参画・活躍を促すことが重要だ。
 気候変動対策でも「誰一人取り残さない」ために、女性や少女を含む様々なステークホルダーの参加と行動を引き続き促したい。