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国際人権ひろば No.161(2022年01月発行号)

人権の潮流

高レベル放射性廃棄物の最終処分を考える~幌延深地層研究センターを見学して~

藤本 伸樹(ふじもと のぶき)
ヒューライツ大阪

幌延深地層研究センターへ

 北海道北端の稚内から、対向車とほとんどすれ違うことなく海岸沿いに横たわるサロベツ原野を眺めながら、まっすぐに延びた道を車でゆっくり南下すること1時間余り。内陸方向に進み、JR宗谷本線を横切るとほどなく目的地の幌延深地層研究センター(天塩郡幌延町)に到着した。
 2021年11月3~4日、特定非営利活動法人大阪環境カウンセラー協会(OECA)の企画による日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究センターへの見学ツアーに参加した。原子力発電環境整備機構(NUMO)が放射性廃棄物の最終処分に関する市民の理解を図る目的で実施している学習支援事業の助成を受けて実施されたものだ。
 私にとって原子力発電関連施設の見学は、OECAが2020年8月に実施した青森県六ヶ所村にある日本原燃(株)の「原子力燃料サイクル施設」に次いで二度目のこと。生活者の視点から考えるという趣旨で企画され、公務員、幼稚園教諭、会社員など6人が参加した。
 幌延深地層研究センターは、2001年3月以来、原子力発電所の使用済燃料から出る高レベル放射性廃棄物を地下に処分(地層処分)するための研究開発を行っている。地上で見える建物は数棟で、六ヶ所村の放射性廃棄物貯蔵管理センター、ウラン濃縮工場、建設中の再処理工場など一連の「サイクル施設」が集まる広大な敷地と比べてこぢんまりとしていた。

なぜ地層処分なのか

 建物内に入り、研究計画調整グループの担当者から説明を受けた。事前に受けたオンライン講習とあわせて、私は地層処分に向けた研究の概要を以下のように解釈している。
 地層処分技術の研究開発は、このセンターに加えて、茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所、岐阜県の東濃地科学センター(研究は終了し、2020年2月から研究坑道の埋め戻し工事が始まっている)の3か所で行われてきた。
 原子力発電所の使用済燃料を再処理すると、95%は再利用可能なウランとプルトニウムが抽出され、残りの5%は再利用できない高レベル放射性廃液になる。その廃液をガラス原料と融かし合わせ、容器に流し込み固めて「ガラス固化体」にする。それが高レベル放射性廃棄物である。ガラス固化体は製造時の表面温度は200℃という高温のため、処分する前に30~50年かけて「一時管理」し、空気冷却する。
 その処分方法として、宇宙処分、海洋投棄、氷床処分などが検討されてきたが、天然の岩盤と人工物を組み合わせた「多重バリアシステム」に委ねる地層処分が最も安全な方法であると国際的な共通認識となっている。300メートル以深の地下深部は、人間の活動や火山活動、地震などの影響が少なく、酸素がほとんどないため鉄の腐食が起こりにくく、地下水の動きが極めて遅いなど「天然バリア」に守られるという。そして、「ガラス固化体」として放射性物質を閉じ込め、ステンレス製の容器「オーバーパック」で包み、粘土を主成分とする「緩衝材」で覆うという3つの「人工バリア」によって、長期にわたり放射性物質の動きを封じることができるという。地層処分は、ひとたび埋設すれば人間による管理が不要であるため、リスクを小さくすることができるという考えに基づいている。
 幌延深地層研究センターは、実際の最終処分場の候補地ではなく、処分事業を進める際に必要な技術を磨くとともに、より精度を高めるための研究開発を続けている。それを裏打ちするために、2000年11月に核燃料サイクル開発機構(現、JAEA)と北海道、幌延町は「放射性廃棄物を持ち込まない」「研究終了後は、地上施設を閉鎖し、地下施設を埋め戻す」「最終処分場としない」などを約束した三者協定を締結しているのである。

地下250mの調査坑道へ

 説明を受けたあと、一般公開されている施設「ゆめ地創館」を見学させていただいた。模型や映像で研究内容をビジュアルに解説していた。実際はほんの数メートルの落差なのだが、地下500mへの降下を疑似体験できるエレベーターに試乗した。
 そして、最後のプログラムが地下施設への入坑であった。参加者は、つなぎ服に着替え、反射チョッキ、ヘルメット、手袋、懐中電灯、安全長靴で身支度した。
 地下には、立坑(たてこう)と呼ばれる深い縦穴が西、東、換気用に3本ある。それらをつなぐように、地下140m、250m、350mの地点に調査坑道という横穴が水平に掘られ、横穴の全長はそれぞれ186m、191m、757mにおよぶという。
 わずかな距離だが構内をバスで移動し、西立坑の建物に案内された。アクセスルームのエレベーターで少し降下したあと、「人キブル」と呼ばれる鳥かごのような金網のエレベーターに乗り換えた。毎分約100mの速度で3分弱降下し、目的地点の地下250mにある調査坑道に到着した。担当者から説明を受けながら少し歩いてみた。
 実際に設置されている「人工バリア」であるオーバーパックと緩衝材(ガラス固化体の現物は三者協定に基づき持ち込まれていない)を前に、深部ではどういう状態になるのか、どのような埋め方がよいのかなどを調べる試験をしているとの説明を受けた。また、どんな岩石の分布なのか、地下水がどう流れるのかといった地質環境を調べていることがわかった。
 2019年12月に幌延界隈で発生した震度4の地震の際の、地表・地下250m・同350mの3地点の揺れの大きさを比べた表が設置されていた。地下は地表より地震の影響が小さいという結果が読み取れた。2021年7月、地下500mまで掘り進む計画が北海道と幌延町に認められている。
 坑内は空調がゆき届いているのか、地上とほとんど変わらない体感であった。入坑前に連想したような未知の「地底探検」という感覚を味わうことなく、普通のトンネルを歩いているような数十分であった。


p8-9_地下250mの調査坑道のなか.jpg地下250mの調査坑道のなか

原子燃料サイクルの追求か、それとも再生可能エネルギーか

 見学を終えたいま、私は地層処分に関して明快な考えを出せないでいる。原子力発電所でこれまでに発生した高レベル放射性廃棄物の処分を考えたとき、現在の技術水準でより安全といえるのは、人間の生活から隔離できる地層処分であるかもしれない。だが、ガラス固化体の放射能は自然減少するものの、数千年・数万年という気の遠くなるほど長期間にわたって高いレベルで残るという。それを「地下に委ねる」ことは未知への不安こそあれ、決して安心できない。放射能が減衰するまでのあいだ、ずっとリスクが続くのではなかろうか。
 日本各地の原子力発電所などで保管されている使用済燃料を今後再処理すると、既存分を合わせてガラス固化体の総数は約26,000本。地層処分の場所選定、処分の実施、処分場閉鎖後の管理など最終処分の一貫作業を担うための事業体であるNUMOは4万本以上を処分できる施設を計画している。
 その候補地として2020年から応募しているのが北海道の西側にある寿都町と神恵内村である。選定までの第一段階として、約2年かけて実施される文献調査が開始されて以来、2021年11月で丸1年が経過した。文献調査を受け入れた自治体や周辺自治体には国から最大20億円が交付される。両町村は、基金として積み立て、地域振興に充てる計画だという。いずれも住民が参加して処分事業などについて意見交換する場が両町村に設置されたが、地元や近隣自治体の反対は根強く、処分地選定のめどはたっていない。
 地層処分の課題は、そもそも原子燃料の再利用を前提にしていることにある。原子燃料サイクルの要の施設である六ヶ所村の再処理工場は未完成で、完成が遅れるたびに事業費が膨らみ、総事業費は14兆4400億円に達している。2021年10月、第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。原発は「可能な限り依存度を低減」とする一方で、「必要な規模を持続的に活用していく」と明記しているのである。
 稚内付近は風の強い地域で、風力発電設備が点在している。幌延に向かう道中には、28基の白い巨大な風車が立ち並ぶオトンルイ風力発電所があった。六ヶ所村のある下北半島には原子力関連施設だけでなく、たくさんの太陽光発電のソーラーパネル、風力発電の風車が稼働していた。原子力にかける巨大な予算を、そうした再生可能エネルギーの開発に振り向ける政策転換を真剣に検討すべきだと考えたものだが、今回も同様の思いが募っている。一方で、いまある放射性廃棄物を安全に処分することは確かに大きな課題なのである。