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国際人権ひろば No.162(2022年03月発行号)

人権の潮流

「第3回在日コリアン女性実態調査」を終えて

李 月 順(り うぉるすん)
アプロ・未来を創造する在日コリアン女性ネットワーク代表/関西大学非常勤講師

なぜ、実態調査に取り組んだか

 「アプロ・未来を創造する在日コリアン女性ネットワーク」(アプロ女性ネット)は、2018年から第3回在日コリアン女性実態調査プロジェクトを始動させ、ソーシャル・ジャスティス基金(SJF)から助成金を得て、2020年から2021年にかけて実態調査を行い、12月に報告書にまとめた。今回は、紙媒体のアンケート調査とインタビュー調査、およびニューカマーの在日コリアン女性を対象にしたオンライン調査を実施した。

 2020年コロナウイルスの拡大により、計画の見直しをせざるを得ないこともあった。配布方法は、前回同様、知り合いの手から手に調査票を配布する方法(機縁法)で行った。メディアなどにも情報を発信し、新聞で取り上げられた際、ヘイトメールが届くという残念な反応があった。一方、会議開催や報告書作成などで全面的に協力をしてくれたヒューライツ大阪をはじめ、アプロ女性ネットの調査に積極的に協力・応援してくれた方々も多くいたことを記しておきたい。

 アンケート調査は、17の都道府県から553部回収することができ、オンライン調査は、133名の回答を得ることができた。また、2020年9月から開始したインタビュー調査は、18名の方に話を聞くことができた。アンケート調査は、アプロ女性ネットの多くのメンバーが居住している大阪や京都など関西圏からの回収が多かったが、メンバーがいる北海道、東京だけでなく、神奈川、愛知、広島、福岡など他の地域から回収できたことは、ネットワークの拡がりの可能性を実感させるものとなった。

 アプロ女性ネットは、2004年第1回の実態調査(アプロ実態調査プロジェクト、2006年報告書)、2016年竹村和子フェミニズム基金の助成金を受けて行った第2回の実態調査(2018年報告書)、そして、今回の実態調査とこれまで3回実施した。その目的は、ひとつには、在日コリアン女性の現状を可視化することと、在日コリアン女性が直面している民族差別と女性差別という複合的な差別の現状を当事者によって明らかにすること、ふたつには、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)をはじめ、日本政府や自治体への働きかけに調査結果を活用することにある。マイノリティ女性の実態調査を促すCEDAWの勧告が出されているが、日本政府はこの勧告を無視し続けている。在日コリアン女性の人権問題に取り組みに当たり、問題の所在を明らかにするための実態調査は不可欠である。

コロナウイルス禍で継続する民族差別

 今回のアンケート調査では、「子育て・介護・コロナと仕事」を中心に質問項目を設定した。

 コロナウイルス拡大の中での調査であり、生活や仕事にどのような影響があったのかを聞く必要があると考えた。アンケート調査とオンライン調査から浮かび上がったのは、日本社会の継続する民族差別や排外意識の深化であり、そうした状況に在日コリアン女性は「不安や心配」を持たざるをえないことである。報告書から少し紹介してみたい。

 「子育て、教育について」の項目で、18歳以下の子どもがいる方を対象に質問を設定した(回答者158名)。子どものことで心配していることや困っていることについて、「在日コリアンであることで、将来、就職や結婚で差別されるか心配だ」の質問では、「大いにある」「少しある」65.4%であった。6割以上の回答者が就職差別や結婚差別を危惧していることがわかる。また、「在日コリアンであることで、ヘイトスピーチを受けるか心配だ」の質問では、「大いにある」「少しある」72.9%であり、7割以上の回答者がヘイトスピーチの対象になる不安を感じている。そして、「民族名(本名)を名のると、将来、就職で差別されるか心配だ」の質問では、「大いにある」「少しある」58.9%であり、約6割の回答者が国籍だけでなく、民族名(本名)を名のることで差別の対象になることを危惧している。この質問では、民族学校(韓国系学校、朝鮮学校)に通わせている回答者の59.2%が、日本の学校に通わせている回答者の62.5%が危惧をしている。日本の学校に通わせている回答者の方が、民族名(本名)の名のりによる差別を危惧している。自由記述においても、民族差別に関するコメント(122件)が多くあった。

「仕事上、名札をつけなければならないので、いつ来日したのか聞かれることが増えた。聞き方が不快に感じる聞き方なので、憤りを感じる」  (30代)

「ヘルパー2級資格があったので、ヘルパーステーションで働こうと思い、面接を受け、パスしましたが、その地域は○○県の中でもかなり保守的な面があり、本名(民族名)で資格を取得していたので、利用者の方が怖いとの理由で断られました。」(60代)

 さらに、コロナ禍による子どもの教育費の負担が増えたについて、「あてはまる」「ややあてはまる」8.4%であったが、朝鮮学校に通わせている回答者に限ると、24.3%と約3倍の結果となった。その背景には、コロナ禍以前から、学ぶ機会を保障するための政策(高校無償化制度・幼保無償化)から朝鮮学校児童・生徒は排除されたままであること、コロナウイルス禍による経済的困窮に対する措置(学生緊急給付金)の対象から朝鮮大学校学生が排除されたことなどがある。朝鮮学校で学ぶ子どもに対する差別がコロナ禍でより深刻化している。

「息子が朝鮮大学校に通っているが、学生支援給付金対象から除外された。バイトも減り、親の収入も減るので、学生に対しての補償に差別があってはいけないと思う。」             (50代)

「「自分がダイレクトに」というわけではありませんが、ユニクロのマスク不支給、朝大(朝鮮大学校)への助成金不支給などを見るにつけ、やはり在日コリアンは「二の次の市民」であるなと改めて感じました。直接命に関わる感染症を目の前にしても差別が行われることに空恐ろしさを感じました。」(30代)

 そして、ニューカマーの在日コリアン女性を対象にしたオンライン調査からわかったことは、日本社会やメディアに見られるレイシズムの激化・嫌韓本などの氾濫が不安や心配をもたらせていることである。こうした不安や心配は、コロナウイルスに関する情報源における日本のメディアの信頼感に負の影響を及ぼしている。また、社会保険の加入状況を見ると、日本人のそれと比べてニューカマーの在日コリアン女性の多くが劣悪な雇用条件で働いていることやコロナウイルス禍による収入の減少がある回答者が44.1%であり、影響がかなりあったことである。

当事者の声を聴くということ

 インタビュー調査は、アンケート調査だけでは見えない当事者の声を聴き、報告書に生かす目的で設定したが、私たち自身がエンパワーされるという副産物をもたらした。「自分の人生と重ね、時には共感し、驚嘆し、勇気を得る」(報告書p.74)ことが多かった。

「在日コリアン男性とは違う、日本人女性とは違う生きにくさ・・・そうねえ、日本人女性がどうかというのが、ちょっとわからないところがあるんですけど・・・。やはり多様な力を持っていないと生きにくいんですね、私たちって。日本人だったら、普通に学校行って、何らかの資格を持っていたら、それ以外に何の心配もないというか普通に生きれるけど、私たちが普通に生きようと思ったら、朝鮮人であることを認めやんなあかんし、何らかの就職差別に遭わないための力を持っておかなあかんし、とかね。だからそういう意味では、日本人では必要のない、いろんな情報やモノが要るなあというふうには思いますけどね。でも私はそれを感じるよりも、朝鮮人であったからこそ、ここまでこれたというほうがずっと大きいので、今はぐんと上回っているから、ほぼほぼ忘れかけているかも知れへん(笑)」(60代)

 当事者の声を是非聴いてほしい。まずは、この報告書を手に取ってもらいたい。


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(A4、144ページ、頒価800円)


連絡先:
apeuro.inthefuture[a]gmail.com ([a]を@にかえてください)

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