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国際人権ひろば No.164(2022年07月発行号)
人として♥人とともに
危機を人権が保障される持続可能な開発につなぐには
ヒューライツ大阪は、「SDGs(持続可能な開発目標)は人権目標そのもの」という立場で活動し情報を発信してきました。2030年を達成期限とするSDGsですが、目標達成への努力が一気に後退しています。気候危機が、私たちの環境と社会と経済の持続不可能性を既に取り返しのつかない地点にまで追い込みつつありました。そこに2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の世界的大流行が加わり、そして2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が発生しました。SDGsは三重苦とも言える状況を前にしています。そのどれもが人権と分かちがたく関係しています。
ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が毎年、SDGsの達成状況をグローバルに評価し、「持続可能な開発レポート」として公表していますが、6月2日にその2022年版「危機から持続可能な開発へ:2030年、そしてその先へのロードマップとしてのSDGs」が発表されました。
同レポートの概要で取り上げられているのは、以下の6点です。
- 平和、外交、国際協力が2030年、そしてその先に向けてSDGsを進展させるための基本的な条件である。
ウクライナへの侵攻や他の武力紛争による人道的悲劇に見舞われ、貧困、食糧確保、エネルギー供給、保健問題が深刻な影響を受けている。いくつもの危機が同時に発生していることにより、SDGsやパリ協定といった中長期の政策目標がおざなりになることが懸念される。危機にあっても、社会的包摂、クリーンエネルギー、責任ある消費、公共サービスへのアクセスの重要性が減じるわけではなく、SDGsが2030年とその先へのロードマップになる。
- 2年連続でSDGsは後退している。
SDG達成度指数の平均値は、2021年も前年を下回った。多くの低所得国で、目標1「貧困」と目標8「働きがいも経済成長も」の達成度指数は、コロナ禍発生前の数値を下回っている。気候と生物多様性に関する目標については、富裕国の進捗の遅さが際立っている。
- SDGs達成のための資金を確保するグローバルな計画が必要である。
SDGs達成は、再生可能エネルギーを含むインフラと人的資本にどれだけ投資できるかにかかっている。そのためにG20は十分な資金供与を約束し、国際開発金融機関の融資能力を強化し、ODAを増額する必要がある。
- 達成期限である2030年への中間地点をひかえ、SDGs達成に向けた各国の政策と公約には大きなばらつきがある。
SDGs達成には、野心的かつ堅実な政府目標、戦略、計画が決定的に重要である。60カ国超についての調査からは、SDGsへの支援に最も消極的な国として、アメリカ、ブラジル、ロシアが挙げられている。アメリカはSDGsの自発的国家レビュー(VNR)を提出していない数少ない国の一つでもある。
- 豊かな国は、持続不可能な消費を通じてSDGsに逆行する波及効果を発生させている。欧州は行動を取り始めている。
2022年のSDG達成度指数のトップ3カ国はフィンランド、デンマーク、スウェーデンで、トップ10は欧州が独占した。しかし上位を占める富裕国も、社会、経済、環境面でマイナスの波及効果を生じさせている現実がある。EUは児童労働根絶を明確に打ち出している。2022年、スウェーデンは、「輸入にかかる二酸化炭素排出量」の規制に向けた政府目標設定の意思を表明した最初の政府となった。「害を発生させない(do no harm)」政策を浸透させる必要がある。
- 新型コロナウイルス感染症によって生まれたデータ収集に関する革新的な変化を加速させ、SDGsによるインパクト実現につなげる必要がある。
コロナ禍により迅速なデータ収集と政策対応の必要性が高まり、データ収集の方法に革新的な変化が起こっている。この動きを加速させ、データに基づいたSDGs政策と実行に結びつける必要がある。
平和というSDGsが十分に目を向けているとは言えなかった問題の重要性が改めて指摘されています。気候危機の克服を始めとするSDGs達成に向けて、富裕国が十分に責任を果たしていないことも強調されています。
同レポートの各国ランキングでは、日本は2021年より一つ順位を下げ19位でした。良く知られている目標5「ジェンダー平等」に加え、目標12「つくる責任・つかう責任」目標13「気候変動」目標14「海の豊かさ」目標15「陸の豊かさ」目標17「パートナーシップ」の6目標が「深刻な課題がある」と評価されました。このコラムで伝えてきたように、どれもが人権と深く関係しています。SDGsのグローバル評価をきっかけに、環境、社会、経済の各課題と人権の関係を理解し、平和の重要性を再認識し、「誰一人取り残さない」未来をつくるために日本が変わる必要があります。
参考:
Sustainable Development Report 2022:https://dashboards.sdgindex.org