人として♥人とともに
既に危機的な持続不可能性に直面していた気候変動に、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)とロシアのウクライナ侵攻が加わり、少しずつ前進していたSDGs達成に向けた歩みが一気に後退していますが、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」も例外ではありません。後退が指摘されている分野として、無償のケアと家事労働の平等な分担や性と生殖に関する健康に関連するサービスや意思決定があります。今号で特集している「性と生殖に関する健康と権利」はジェンダー平等の基盤です。
目標5については、ジェンダー統計への投資も課題です。適切な政策を策定し成果を出すためには正確なデータが不可欠です。
UN Women(国連女性機関)は、「Progress on the Sustainable Development Goals: The Gender Snapshot 2022」という報告書のなかで、ジェンダー平等に関する最近の動向を報告しています。性と生殖に関する健康と権利については、以下のような懸念される状況があります。
日本でも、パンデミック下で10代女性からの妊娠に関する相談が急増していることが報道されるなど、既にあったジェンダー不平等に起因する問題が顕在化しています。
無償のケアワークや労働については以下のようなデータが報告されています。
一方で、以下のような進展もあります。
しかしながら、現在のペースが続けば、女性と少女への差別的法律や条文がすべてなくなるまでに後286年かかると予測しており、変化のスピードを加速させる必要があります。二国間政府開発援助のうち、ジェンダー平等を主要目的とするプログラムは4.6%にすぎず、ジェンダー予算の執行状況を包括的に確認できるシステムを整備しているのは全国家の26%にすぎません。
報告書は、高齢女性の状況に関しても注意を促しています。
STEM(科学・技術・工学・数学)と呼ばれる分野の教育についても触れ、世界的にみて高等教育に進学する女性は男性を上回っているものの、STEM分野を専攻する学生に占める女性の割合は35%にとどまり、IT分野では3%にすぎないと報告しています。格差や不平等の交差性・複合性にも触れており、アメリカ合衆国のSTEM分野の労働者の年間給与の中間値を属性別に見ると、黒人女性とヒスパニック系女性の中間値が全体を20,000ドルも下回っていることを伝えています。
気候危機、パンデミック、ウクライナ侵攻という3つの危機が計り知れない影響を私たちの社会に及ぼすことが予想されますが、女性、なかでも特に経済的に厳しく周縁化された社会やグループに属する女性が深刻な影響を受けることは確実です。「誰一人取り残さない」ために、不平等や差別の交差性・複合性の視点をもつことがますます大切です。
[参考]
・https://unstats.un.org/sdgs/report/2022/Goal-05/
・https://unstats.un.org/sdgs/gender-snapshot/2022/