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国際人権ひろば No.166(2022年11月発行号)

人として♥人とともに

SDGsを人権の視点で読み解く ~目標5:ジェンダー平等を実現しよう(Ⅱ)~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 既に危機的な持続不可能性に直面していた気候変動に、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)とロシアのウクライナ侵攻が加わり、少しずつ前進していたSDGs達成に向けた歩みが一気に後退していますが、「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」も例外ではありません。後退が指摘されている分野として、無償のケアと家事労働の平等な分担や性と生殖に関する健康に関連するサービスや意思決定があります。今号で特集している「性と生殖に関する健康と権利」はジェンダー平等の基盤です。

 目標5については、ジェンダー統計への投資も課題です。適切な政策を策定し成果を出すためには正確なデータが不可欠です。

 UN Women(国連女性機関)は、「Progress on the Sustainable Development Goals: The Gender Snapshot 2022」という報告書のなかで、ジェンダー平等に関する最近の動向を報告しています。性と生殖に関する健康と権利については、以下のような懸念される状況があります。

  • 安全ではない人工妊娠中絶は、妊産婦死亡の主要な、そして回避することができる原因の一つである。出産可能年齢にある女性と少女のうち12億人以上が、安全な人工妊娠中絶に関し何らかの制約がある国や地域で暮らしている。そのうち人工妊娠中絶が完全に禁止されている場所で暮らす女性は1億200万人にのぼる。
  • カナダでは、パンデミック以降、妊娠中にうつ症状や不安を訴える女性が2倍に増えたが、低所得世帯の女性では割合がさらに上がることが報告されている。
  • パンデミック下で保健サービスの提供が大きな打撃を受けるなか、妊産婦の健康が大きく損なわれている。妊産婦死亡率が増加しており、ウガンダでは62%増、ペルーでは50%増を記録している。
  • 2021年、20歳から24歳の女性の5人に1人近くは18歳になる前に結婚していた。最も幼児婚の発生率が高いのはサハラ以南アフリカと南アジアで、それぞれ婚姻の35%、28%を占める。過去5年間の間に幼児婚は約10%減少していたが、パンデミックによる経済的困窮、休校措置、社会サービス停止等が幼児婚のリスクを高めている。

 日本でも、パンデミック下で10代女性からの妊娠に関する相談が急増していることが報道されるなど、既にあったジェンダー不平等に起因する問題が顕在化しています。
 無償のケアワークや労働については以下のようなデータが報告されています。

  • 2020年に実施された休校や保育施設の閉鎖措置のために、女性が無償の育児に従事する時間数は5120億時間、増加したと推計されている。
  • 2022年の女性の労働力参加率は、169の国と地域でコロナ以前よりも下がることが予想されている。

 一方で、以下のような進展もあります。

  • 2021年には、4,475の自治体や地域が女性性器切除(FGM)を廃絶すると公的に表明した。

 しかしながら、現在のペースが続けば、女性と少女への差別的法律や条文がすべてなくなるまでに後286年かかると予測しており、変化のスピードを加速させる必要があります。二国間政府開発援助のうち、ジェンダー平等を主要目的とするプログラムは4.6%にすぎず、ジェンダー予算の執行状況を包括的に確認できるシステムを整備しているのは全国家の26%にすぎません。
 報告書は、高齢女性の状況に関しても注意を促しています。

  • 高齢女性への暴力に関し十分なデータがないことが懸念される。深密なパートナー間の暴力に関するデータのうち、50歳以上の女性が経験している暴力についてのデータがあるものは10%に満たない。加害者は、成人した子どもや他の親族、介護者、隣人等、多様である。

 STEM(科学・技術・工学・数学)と呼ばれる分野の教育についても触れ、世界的にみて高等教育に進学する女性は男性を上回っているものの、STEM分野を専攻する学生に占める女性の割合は35%にとどまり、IT分野では3%にすぎないと報告しています。格差や不平等の交差性・複合性にも触れており、アメリカ合衆国のSTEM分野の労働者の年間給与の中間値を属性別に見ると、黒人女性とヒスパニック系女性の中間値が全体を20,000ドルも下回っていることを伝えています。

 気候危機、パンデミック、ウクライナ侵攻という3つの危機が計り知れない影響を私たちの社会に及ぼすことが予想されますが、女性、なかでも特に経済的に厳しく周縁化された社会やグループに属する女性が深刻な影響を受けることは確実です。「誰一人取り残さない」ために、不平等や差別の交差性・複合性の視点をもつことがますます大切です。


[参考]
https://unstats.un.org/sdgs/report/2022/Goal-05/
https://unstats.un.org/sdgs/gender-snapshot/2022/