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国際人権ひろば No.167(2023年01月発行号)

特集:二つの国連条約委員会による日本報告書審査

自由権規約委員会による第7回日本政府報告書審査に臨んで

石田 真美(いしだ まみ)
弁護士

 2022年10月13日、14日、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、「自由権規約」)の第7回日本政府報告書審査(以下、「第7回審査」)がジュネーブで行われた。当初第7回審査は、2020年10月に行われる予定であったが、コロナ・ウイルスの影響により審査が延期され、前回第6回日本政府報告書審査(2014年7月。以下、「第6回審査」)から8年振りの審査となった。
 自由権規約40条に基づく加盟国審査に対し、NGOは自由権規約委員会(以下、「委員会」)に対しオルタナティブ・レポートを提出することができ、また審査直前にはブリーフィングへ参加し、直接委員に説明をすることを通じて加盟国審査に関与することができる。
 日本弁護士連合会(以下、「日弁連」)は、第3回日本政府報告書審査(1993年)より、日本の人権状況・課題・委員会に求める勧告の内容を記載したオルタナティブ・レポート(以下、「日弁連報告書」)を作成して委員会へ提出し、また審査には日弁連代表団をジュネーブへ派遣し、現地でのロビー活動を行い委員会が審査後に公表する総括所見において、日本の人権状況改善に向けた勧告を出してもらうための活動を行っている。
 私は、第6回審査に向けた日弁連報告書の作成に関わり、審査時には日弁連代表団の一員としてジュネーブに派遣されたことから、今回は2度目の対日審査への参加となった。

第7回日本政府報告書審査に向けた日弁連の活動

 第6回審査までは、オルタナティブ・レポートの長さについて何ら制限が設けられていなかった。日弁連は、自由権規約が規定するあらゆる人権問題に関わる活動を行っていることから、第6回審査に向けた日弁連報告書では、盛り込むべき情報を全て盛り込んだ相当な分量の報告書を作成して委員会へ提出した。
 第7回審査では、NGOが委員会へ提出するオルタナティブ・レポートについて、最大10,700ワードとする要請を委員会が行っていたことから、従前同様の判例や問題点を詳細に記載した日弁連報告書を作成することができず、重要な点に絞り簡潔にしてかつ必要十分な情報を含めた報告書作成に注力した。
 もっとも、第7回審査は、当初2020年10月に行われる予定であり、当初委員会が設定した審査日程に併せたオルタナティブ・レポートの提出期限が設定されていたことから、2020年9月には日弁連報告書を委員会に提出した。しかしながら、コロナ・ウイルスの影響により審査が延期されたことから、日弁連は、「自由権規約委員会による事前質問公表後の重大問題に関する特別報告-新型コロナ・ウイルス感染症(COVID-19)に対し適切な対応を採ることについて」、「自由権規約委員会による事前質問に掲載されていない重大問題に対する特別報告-外国籍者の公務就任権に関し適切な対応を採ることについて」、「自由権規約委員会による事前質問公表後の重大問題に関する特別報告-デジタル改革関連6法について」、「自由権規約委員会による事前質問公表後の重大問題に関する特別報告-土地利用規制法について」、「自由権規約委員会による事前質問の男女平等に関する問題(パラグラフ8)に関連した追加情報提供」の合計5本の追加報告書を作成し随時委員会へ提出した。
 そして、第7回審査の約1ヶ月前には、「自由権規約委員会第7回日本政府報告書審査への対応」と題するウェビナーを企画し、刑事、外国人及び表現の自由に関する問題に関し日弁連の問題意識を説明した上で、各問題を所管する省庁の担当者との間で意見交換を行った。審査の冒頭において、政府代表団団長の今福孝男参事官が第7回審査に先立ち日弁連と共にウェビナーを開催したことに言及をした。

NGOから委員会への情報提供

 10月10日午前、その週に政府報告書審査が行われるフィリピン、キルギス及び日本の各国NGOによる、委員会に対するブリーフィングが行われ、日弁連は4分間発言する機会を得た。委員に対し、日弁連がどの事項に情報提供が可能かという点を説明すると共に、代表団5人全員が起立して我々が審査の場に来ていることをアピールした。日本のNGOは、23団体が発言する予定であったが、13団体が発言を終えたところで終了時間となったことから、急遽10月13日午前11時からブリーフィングが追加で行われた。

第7回審査は建設的な対話であったのか

 第7回審査より「簡易化された報告手続(Simplified Reporting Procedure)」が採用され、政府報告書作成前に、委員会が政府に対し事前質問リストを送付し、政府は事前質問リストに対する回答を記載した報告書を委員会に提出した。
 審査では、事前質問リストに従い、委員から政府に対する質問がなされ、これに対し日本政府代表団が回答し、代表団の回答を受けさらに委員からフォローアップ質問がなされた。
 委員らは、個人通報制度を規定した選択議定書の批准、パリ原則に則った国内人権機関の設立に向けた進捗、規約の国内的効力に関し非嫡出子の相続分差別に関する最高裁判例以外に下級審を含め規約に直接言及した判例の存否、再婚禁止期間の完全撤廃、婚姻時に夫又は妻の姓を選択することを規定した民法750条、差別禁止、ヘイトスピーチ、死刑制度、死刑確定者の処遇及び再審請求中の死刑執行、精神医療における非自発的入院、入管収容施設における外国人の収容、技能実習制度、児童相談所・ハーグ条約、性同一性障害者の性別変更の要件・刑務所のおける処遇、慰安婦問題、共謀罪、放送法、土地利用規制法、少数者の人権等に関連する質問を行った。
 政府回答の殆どは、各省庁から派遣された若手官僚が行っており、前回審査から改善・進捗があった点については、積極的に説明を行っていた。他方、政府回答の中には、委員の質問の意図とかみ合わないもの、具体性を欠いたもの、不十分なものも散見された。特に、個人通報制度については、委員から前回審査からの同制度導入に向けた政府内の議論状況のアップデートを求められたにも拘わらず、前回第6回審査時と同じ回答を行った。また、国内人権機関設立に関する政府回答は、個別の法律で対応可能であり国内人権機関は不要ともとれる回答であり、第6回審査時より後退していた。
 政府の回答が不十分な点に対し、委員からフォローアップ質問が出た。全体的に審査時間が不足し、口頭での回答がなされなかった質問が多岐に亘った。政府が口頭で回答出来なかった質問は、政府が審査終了後48時間以内に書面回答を提出することとなるが、書面回答では政府がどのような回答をしたのかがNGOには分からず、政府回答に関連した追加の情報提供を委員会に行えないので問題であった。

審査の現場に出向くことの重要性

 第7回審査では、事前質問リストで取り上げられていない児童相談所による子どもの一時保護の問題、ハーグ条約に絡む国境を越えた子どもの移動及び親権に関わる問題(委員は「Parental Child Abductions(親による子の奪取)」との言葉を使用)、日本で行方がわからなくなった外国人女性の捜査に関する質問が委員から出された。特に児童相談所問題に関しては、複数の委員が質問を行い、フォローアップ質問もなされたことから、審査で多くの時間が費やされた。
 事前質問リストで取り上げられていない問題に委員の注目が集まったのは、複数のNGOからオルタナティブ・レポートが提出されていたことに加え、ジュネーブで委員に対し積極的にロビー活動を行った成果であったと推測されることから、現地でのロビー活動の重要性を改めて痛感した。
 また、現地で審査を傍聴すると、政府回答の不正確な点や事実と異なる点について、その場で書面を作成し委員会に対しタイムリーな情報提供を行うことが可能となる。

前回審査との比較

 前回第6回日本政府報告書審査においては、委員長であった故ナイジェル・ロドリー氏の英断により、予定された二つのセッション(合計6時間)に加えさらに約30分ではあったが、急遽第3セッションが設けられ、政府が回答できなかった点に関する審査が行われた。
 第7回審査終了時、パザルツィス委員長は、日本政府に対し個人通報制度を定めた選択議定書の批准を真剣に検討するよう求めると共に、第6回審査の終了時と同様、死刑問題等委員会から勧告を受けた事項について政府の立場が変わらない点に対する遺憾の意を表明した。
 2022年11月3日に公表された総括所見で指摘された事項をどのように実現していくかについて、我々NGOと政府との間での対話を行っていきたい。