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国際人権ひろば No.167(2023年01月発行号)

人として♥人とともに

SDGsを人権の視点で読み解く ~目標8:働きがいも経済成長も~

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 「持続可能な開発報告書2022」によれば、多くの国で達成度指数がコロナ禍発生前の数値を下回っている目標として目標1「貧困をなくそう」と目標8「働きがいも経済成長も」があります。今回は目標8を人権の視点で読み解きます。

 目標8には、以下の10の具体的なターゲットがあります。

  1. 一人あたり経済成長率を持続させる。後発開発途上 国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。
  2. 高付加価値セクターや労働集約型セクターに重点を置くことなどにより、多様化、技術向上及びイノベーションを通じた高いレベルの経済生産性を達成する。
  3. 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じ中小零細企業の設立や成長を奨励する。
  4. 世界の消費と生産における資源効率を改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る。
  5. 若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいがある人間らしい仕事ならびに同一価値の労働についての同一賃金を達成する。
  6. 2020年までに、就労、就学及び職業訓練のいずれもおこなっていない若者の割合を大幅に減らす。
  7. 強制労働を根絶し、現代の奴隷制、人身売買を終わらせるための緊急かつ効果的な措置の実施、最悪な形態の児童労働の禁止及び根絶を確保する。2025年までに児童兵士の募集と使用を含むあらゆる形態の児童労働を根絶する。
  8. 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
  9. 雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案・実施する。
  10. 国内の金融機関の能力を強化し、すべての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。

 この記事を準備している過程で、SDGsの外務省仮訳には2種類があることに気づきました。5の最後について、「同一労働同一賃金」と「同一価値の労働についての同一賃金」の二通りの記述が存在するのです。原文(equal pay for work of equal value)を正確に訳すと後者、すなわち「同一価値の労働についての同一賃金」になります。経済学者の大沢真理さんから「同一労働同一賃金」は誤訳であると教えていただいたことをきっかけに気づくことができました。修正訳があるにもかかわらず現在も誤訳がアップされているという由々しき状況があります。

 今号の特集との関連では、「障害者の完全かつ生産的な雇用及び働きがいがある人間らしい仕事」に関する日本の課題についても指摘する必要があります。障害者雇用促進法では企業の障害者法定雇用率を2.3%と定め、達成しない企業は労働局から罰金を科され、対応を怠る場合は企業名を公表されます。厚労省によると2021年に法定雇用率を達成した企業の割合は47%でした。法定雇用に関しては、法定雇用率の達成を企業に請け負うコンサルタント業者の存在が指摘されています。実際には当該企業の事業とは関係のない業務に障害者を従事させ法定雇用であるかのように見せかけるビジネスであり法の趣旨とは相容れません。

 移住労働者や外国人労働者との関連では、技能実習生の人権問題に目を向ける必要があります。農業も工業もサービス業も外国人の労働力のおかげで成り立っている現状があります。技能実習制度そのものを見直し、外国人労働者の人権を保障する制度の導入を検討するべきではないでしょうか。

 長時間労働、低い生産性、第一子出産時に今でも女性の5割が離職するといった日本の労働環境に関する課題解決も不可欠です。高度経済成長を支えた意識から脱却し、「誰一人取り残さずに」、「働きがいがある人間らしい仕事」そして「すべての労働者の権利保護と安心・安全な労働環境」を実現するために、OECD(経済協力開発機構)のウェルビーイング指標(幸福度)等も参考に、ケアワークの平等な分担を含め、何に基づいて経済と社会の豊かさ、そして幸福を評価するかを問い直し、大胆な変革をおこなう必要があります。


[参考]