特集:日韓の現場に学ぶひとり親のエンパワメントと支援
男女共同参画センター(以下、「センター」)は、男女共同参画の推進拠点として国や自治体によって設置され、全国で368カ所を数える(2022年6月現在)。運営は公設公営や公設民営で、約三分の一が指定管理者制度を導入している。法律上の根拠はないが、自治体の条例等により設置され、多くは、国内外の社会動向、国や自治体の行動計画と連動して、女性に対する暴力被害者支援、女性の活躍推進や生涯にわたる健康支援、ワーク・ライフ・バランス推進事業等を実施、男性向けの事業やセクシュアリティについても取組んでいる。
今号の特集テーマである「ひとり親」を含め、女性のための官民の相談窓口は数多い。しかし、その情報は当事者に届きにくい。届いたとしても、女性は自分の悩みを個人的なことと考え、自己を責めて我慢することが多い。内閣府「男女間における暴力に関する調査」(2020年)では、4人に1人の女性が配偶者から暴力を受け、うち4割が「誰にも相談していない」と回答しており、背景には根深いジェンダー問題がうかがえる。
抱える問題は一つではなく、DV被害、離婚等による精神的な疲弊や、子育ての悩み、仕事、生活の不安が絡みあっている。自己尊重感が低くなり、どこから話したらよいかという戸惑いも見られる。
ひとり親支援では問題の解決とともに、本来持つ力を取り戻して自分で決める力を回復するエンパワメント支援が必要であると思う。そういう観点から、2つのセンターの特色ある取組みを紹介する。
せんだい男女共同参画財団は、仙台市男女共同参画推進センター(2館)の指定管理者で、ひとり親の就労支援と自立をめざす「母子家庭等就業・自立支援センター」も受託する全国唯一の男女共同参画関係団体である。
事業取組みのきっかけは、センターの女性相談に、「高校中退、離婚後、非正規勤務。資格を取って高い収入の仕事に就きたいが、何をどのように勉強すればよいかわからない」という声が寄せられたこと。現行のひとり親支援制度では高校卒業程度認定試験のための資金援助はあるが、学習方法に関する支援はない。そこで、「自立を目指す女性のための学び直しを通したキャリア支援」プランを考え、文部科学省「男女共同参画推進のための学び・キャリア形成支援事業(実証事業)」に応募、女性の復職・再就職支援プランが選定される中、2018年に見事採択された。
この伴走型支援では、本人の気持ちや意向を尊重する。今後の生き方やそのために必要な学習・勉強方法について、ひと月に2回程度、個別キャリアカウンセリングをする。一時保育も行う。2018年度の当支援事業利用者の半分弱が20~50歳代のひとり親で、過去の傷つきや暴力被害を受けた経験者がいることを考慮して、学習支援には自己肯定感を上げるような指導・対応ができる女性講師を1対1または2で配置した。講師は、東日本大震災後に震災遺児の学習支援を行った地元学習塾が設置した学習能力開発財団に所属、財団は発達障がいの子どもの支援なども行う専門家集団でもあった。事業周知は、支援者に情報を届け、そこから当事者に伝える手法。情報を得ても一歩の踏み出しに時間がかかり、さまざまな問題を抱えていることもあるので、スモールステップを重ねて自信をつけていく経験を大切に、サポートを行った。
「仙台市母子家庭相談支援センター」では、求職活動中に気持ちが揺れたり、PTSDなどのために心のケアが必要になったりしたときに、センターの女性相談と連携し、個々の状況に配慮しながら、センターの情報コーナーや他の啓発講座等での学びなどを活かし、ひとり親の包括的なエンパワメント支援の仕組みを構築している。
静岡市女性会館(以下、「センター」)はNPO法人男女共同参画フォーラムしずおかが指定管理者を務めている。2007年から熟年離婚をテーマにした法律講座を開催、若い世代の参加も見られた。センターの女性相談には「子どもが離婚して家に戻ってきたが...」という親の悩みが寄せられ、ニーズがあると思われたので、「子連れで再出発」をテーマに講座を開催したが、集客に苦戦する状況が続いた。限られた予算や事業枠の中で、ひとり親だけを対象に絞った事業実施は難しいこともあり、「ひとり親当事者の応援」「支援団体との協働」「既存の取組みにひとり親支援の視点を入れる」等の工夫をした取組みに切り替えた。
「ひとり親当事者の応援」の例として、センターには、仕事や起業、社会活動、子育て等についての経験談や助言をしてくれる身近な先輩(メンター)を登録する「Jo・Shizuメンターバンク」制度がある。利用希望者は会員登録後、メンターのプロフィールを閲覧し、面談を申し込むこともできる。メンター登録者159人のうち26人はひとり親で、自分の経験を誰かに還元し、次はサポート側にまわる循環を次なる力につなげている。
「支援団体との協働」では、2018年には地域の民間団体「シングルペアレント101」(代表:田中志保)の協力で、ひとり親家庭に育った若者をゲストに迎えたトークイベントを開催した。当団体の代表はひとり親で、500人を超える当事者インタビューをまとめた『シングルマザー手帖』を作成した。当団体は、センターとの連携・協力関係を深めつつ、当事者支援のみならず、地元大学とも連携して地域の若者や全国にも情報発信している。
ひとり親の抱える困難はさまざまであり、センターの相談事業や講座だけではサポートできない。センターの登録団体や地域支援団体・グループと連携して、当事者との橋渡しを行うほか、センターはひとり親の立場を代弁し、地域防災協働事業で災害時の困りごとを伝えるなど、「既存の取組みにひとり親支援の視点を入れる」役割も果たしている。
静岡市女性会館「子連れで再出発」の講座の様子
センターの重点テーマは、国内外の社会動向、行動計画に応じて変化する。コロナ禍で若年層や単身女性などの喫緊の課題も表面化した。すべてに取組むことはできないので、地域で相互に補完しあい、民間支援団体と協働するなど一層のネットワーク化が必要だろう。そのためには、職員の課題把握、企画力やコーディネート力が一層求められる。センターを取り巻く予算や人材育成などの環境が厳しい中でもできることを考えたい。
第一に、センターの機能や資源を最大限に活用すれば、ひとり親個々のライフステージや状況に合わせ、心のサポートを中心とした寄り添い型支援が可能になる。相談事業等で個々の悩みや問題を整理し、個々のニーズに合った地域の専門支援機関につなぐことができる。
第二は、センターは、いつでも、誰でも立ち寄れる安心・安全な場所であるということ。対象はひとり親だけではないが、ほとんどが無料または安価な受講料で参加・利用でき、予約や申込みが不要なサービスもある。一時保育も利用できる。
第三に、センターの講座や関連のNPO・団体の集まりで、個人の思いや経験が共有される。そこで仲間やグループが誕生し、次のステップ、活動につながる好循環が生まれていく。
第四に、センターは、地域の関連機関にひとり親に関する理解を拡げ、社会資源とつなげることで、「地域社会における女性のエンパワメント支援システム」のネットワークを構築できる。
最後に韓国の事例を紹介したい。神原文子さんが中心になった日韓のひとり親支援に関する研究チームに参加し、韓国のひとり親や困難を抱える女性支援を行ういくつかの団体を訪問する機会を得た。活動資金について尋ねると、財閥系の大企業や助成財団、誰もが知る世界のハイブランド企業等から助成金や物品の提供を受けていた。その金額は、千万円単位。日本の状況と比べて私は衝撃を受けた。第四に挙げたネットワークによる地域の協力者を得ることで、今後の道が拓けていくのではないだろうか。