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国際人権ひろば No.171(2023年09月発行号)

特集:多民族・多文化共生社会に向けた基盤整備を考える

改定「出入国管理及び難民認定法」の問題とこれから

鈴木 雅子(すずき まさこ)
全国難民弁護団連絡会議世話人、(特活)移住者と連帯する全国ネットワーク理事

 2023年6月、改定出入国管理及び難民認定法(以下、改定入管法)が成立した。同法の審議にあたっては、2021年入管法改定法案に引き続き、国連の特別報告者らからの共同書簡が出されるなど、国際人権の観点からの深刻な懸念が指摘された。本稿では、改定入管法に関して、特に、国際人権法、及び、アジア・太平洋地域の人権の観点から検討するとともに、今後の課題について見ていきたい。

国際人権法からの検討:特別報告者らによる共同書簡を中心に

 2023年4月18日付で、国連人権理事会によりいずれも設置、指名された恣意的拘禁作業部会、移住者の人権に関する特別報告者、宗教または信条の自由に関する特別報告者から、当時衆議院で審議されていた改定入管法(当時は法案。以下同様)につき、共同書簡が日本政府へ送られた。共同書簡は、改定入管法につき、国際基準に合致していないとして、国内法制を国際人権法の下での日本の義務に沿うものにするため徹底的に見直すことを求めた。

 具体的に共同書簡が指摘した内容は以下のとおりである。

①原則収容主義の維持

 現行法上、退去強制(強制送還)手続中または退去強制令書発付後の外国籍者については収容するのが原則とされ、事実上、収容からの解放手段は、入管の広範な裁量によりその身柄を一時的に解く仮放免のみであるが、改定入管法は、新たに出入国在留管理庁(入管庁)が認めた支援者ら「監理人」の監督を条件に、入管施設外での生活を認める監理措置制度を導入し、「主任審査官は、監理措置にするか収容するかを審査しなければならない」こととなった(改定入管法39条2項、52条8項)。

 この点について、共同書簡は、改定入管法が収容の原則(presumption of detention)に基づいた制度を維持していると指摘した上、恣意的拘禁を禁じた自由権規約9条及び世界人権宣言9条は身体の自由を原則とし(presumption of liberty)、収容は最後の手段でなければならないとしており、これらに違反し得るとして懸念を表明した。特に、改定入管法は、原則的に収容か監理措置(収容代替措置の一種)かの二択としているところ、共同書簡が「重要なことは、そもそも収容を正当化する理由がない場合には、収容代替措置が適用されてはいけないということです。そのような場合、移民は釈放されなければなりません」として、その根本的な考え方の誤りを指摘している点は極めて重要である。

②新設された監理措置

 改定入管法で新たに導入された監理措置について、①300万円以下の保証金の納付が課されうること、②主任審査官が必要と考えれば監理人の報告が義務付けられること、③監理人が報告義務に違反すればペナルティ(過料)が科されうること、④監理人と被監理者双方のプライバシーの権利を侵害することを指摘し、こうした点から、監理措置を利用するのは、現実的には困難であり、(監理人による被監理者に対する)搾取のリスクを伴うとして懸念を表明した。

③司法審査の欠如

 改定入管法においては、引き続き司法審査なしに収容が開始される。また、3カ月毎に監理措置の決定の要否を検討することになったものの、その判断主体は入管庁職員である主任審査官である。共同書簡は、これらの点が「逮捕又は拘禁によって自由を奪われた者はすべて、裁判所がその拘禁が合法であるかどうかを遅滞なく決定すること及びその拘禁が合法的でない場合にはその釈放を命ずることができるように、裁判所において手続をとる権利を有する」と定めた自由権規約9条4項ほか国際人権基準に反することを指摘した。

④無期限収容

 改定入管法においては、上記のとおり定期審査のしくみはあるものの、依然として収容期間の上限について定めがなく、無期限収容となる可能性がある。共同書簡は、この点について懸念を表明し、出入国手続きにおける無期限収容は恣意的拘禁にあたり、自由権規約に反することや、収容の期間の上限は法律によって規定されなければならないと指摘した。なお、収容の上限の導入は、2022年の自由権規約の政府報告書審査における自由権規約委員会の総括所見においても求められている。

⑤子どもの収容

 改定入管法においては、子どもの収容を明示的に禁止する規定がないことについて、遺憾であるとした。

⑥難民申請者に関する送還停止の効力の解除

 これまでは、難民申請を行っている者については、一律に送還が禁止されてきたが、改定入管法は、難民申請を3回以上している者、日本で3年以上の拘禁刑を受けた者、暴力・破壊活動に関与・助長した可能性があると疑われる者について、この送還停止効を解除するものとしている。共同書簡は、この点について、送還後に生命や権利が脅かされる可能性があり、難民条約33条、拷問等禁止条約3条、強制失踪条約16条、自由権規約7条が保障するノン・ルフールマン原則(送還禁止原則)を損なうことを強く懸念し、「送還前に状況や保護の必要性の個別評価を明確に求める適切な手続き上の保護措置がない場合には、前述のカテゴリーに含まれる難民申請者の送還停止効を解除する法案が、国際人権法及びノン・ルフールマン原則を損ないます」として、今回の法案の送還停止効が国際法違反となることを指摘した。

 改定入管法中、このノン・ルフールマン原則違反の点については、国連難民高等弁務官事務所も、2021年法案の段階で非常に重大な懸念を示していた。

アジア・太平洋地域の人権の観点からの検討:台湾と韓国における入管収容に関する憲法不合致決定

 日本では、入管収容の憲法適合性について、ほとんど議論がなされていない状況にあるが、改定入管法は、国際人権法上深刻な懸念があるのみならず、特に収容については、憲法上も重大な疑義がある。

 この点、日本と類似する規定を有する台湾と韓国においては、いずれも、憲法不合致であるとする決定が、それぞれの憲法裁判所から出されている。

 台湾の司法院(最高司法機関)は、2013年2月6日、「人身の自由は基本的人権であり、人間の一切の自由・権利の根本であり、国籍を問わず、何人ともかような保障を受けるべきことは、現代法治国家の共通準則である。故に、我が国の憲法第8条人身の自由に関する保障は外国人に及ぶべきであり、本国人と同様に保障されるべきである」とし、退去させるための合理的な作業期間のための一時収容を許容していることは、憲法違反ではないとしつつ、被収容人に即時の司法的救済を与えていないこと、及び、一時収容の延長が司法審査に服さないことは、憲法第8条第一項人民の身体の自由の保障の趣旨に違反するとした。

 また、韓国の憲法裁判所は、2023年3月23日、送還可能なときまで保護(収容)できるとする日本と同様の入管法の規定は、「期間の上限がない保護によって被保護者の身体の自由が制限される程度が過度に大きく、侵害の最小性及び法益の均衡性の要件を満たしていない」として過剰禁止の原則(比例原則)に違反し、また、「保護の開始や延長の段階で公正で中立的な機関による統制手続がなく、行政上人身拘束をするに当たって、意見提出の機会もまったく保障されていない」ことから、適法手続の原則に違反するとして、憲法に合致しないとした。

今後の課題

 改定入管法は、成立後、9カ月以内に施行される一部を除き、1年以内に施行するものとされている。

 改定入管法には、規則や運用に委ねられている点も相当あり、これらについて注視する必要がある。のみならず、改定入管法審議の過程で問題点がより明らかになった難民認定制度や入管収容制度について、憲法や国際人権法に合致するものとなるよう、改革に向けた動きが求められる。さらには、このような法的な観点からの検討のみならず、より大きな移民政策全体をどう考えるのかという点について、以前より市民の関心や理解も深まった今こそ、社会全体で議論していくことが求められよう。