人として♥人とともに
今年の夏は、気候危機が危険な領域に入ったことを思い知らされるニュースがあふれました。世界気象機関は、2023年7月第1週の世界の平均気温が観測史上最高になったと発表しました。8月上旬には、これまでのデータでは予測できない台風の進路の影響で、沖縄本島の多くの世帯は何日間にもわたる停電に見舞われました。気候変動が気候危機と表現されるようになって久しいですが、危機は全く解消していませんし、改善の兆しすら見えません。国連のグテーレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」と発言しました。
気候危機は、豪雨、洪水、干ばつ、山火事、海面上昇、進路の予測がつかない台風など、様々な現象となって現れています。今回は、目標11「住み続けられるまちづくりを」を取り上げ、現在の地球の危機が、都市とコミュニティに及ぼしている影響を定量的データも参考に人権の視点から考えます。
目標11には、以下の7つの具体的なターゲットがあります。
このなかの⑤は、既に日本にとっても深刻な問題になっています。実は日本は、気候変動の影響を世界で最も強く受けている国の一つとされています。2019年に、自然災害による世界最高の保険損害額を記録したのは、関東に甚大な被害を与えた9月の台風19号でした。同年の台風15号等による損害額を併せると、2019年の世界全体の保険損害額の3割弱を日本が占めました。2018年には愛媛や広島に大きな被害を与えた7月の西日本豪雨、関西空港連絡橋にタンカーが衝突し長期間の空港閉鎖につながった9月の台風21号が発生しましたが、この年も日本は世界全体の自然災害による保険損害額の2割強を占めました(注。
これらの災害は、人命、住居、そして生活の基盤を奪うという意味で言うまでもなく人権の課題です。世界の全ての国々から保険損害額が詳細なデータとして出てくるわけではないという点を差し引くとしても、気候変動を原因とする自然災害から私たちの社会がどれほどの影響を受けているかが見えてきます。
世界に目を向けると、気候危機による干ばつを始めとする環境や生態系の変化等が移住のプッシュ要因となり、都市スラムが拡大していることが懸念されています。2022年に国土の30%が浸水したパキスタンの大水害は、地球温暖化によりヒマラヤの永久凍土が溶け出し河川の水位が上がっていたところに、モンスーンが発生したことが主要な原因とされています。こうした自然災害が、元々、災害への脆弱性が高いスラムの住民に、より深刻な被害を与え、生活の基盤を破壊することは想像に難くありません。
気候危機が思いもよらない形で複合的に作用し、私たちの想定が及ばない自然災害となって都市と地域社会の暮らしを破壊する状況に対応する必要に迫られています。女性、障害者、高齢者、外国籍市民を始めとする多様な人たちが参加して防災・減災計画を策定することが重要ですし、想定を超える災害が発生することを念頭に置いたダム管理を始めとする流域治水対策がおこなわれる必要があります。一人ひとりが安心して暮らせる安全な街づくりは、私たちの基本的人権が守られる最も重要な基盤の一つです。
注:
朝日新聞GLOBE+「自然災害の損害額、世界の3割を占める日本」(2021年4月6日):https://globe.asahi.com/article/14325182(2023年7月31日閲覧)