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国際人権ひろば No.172(2023年11月発行号)

人として♥人とともに

ケアに対する権利

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2023年は世界人権宣言採択75周年、そして国連人権高等弁務官事務所の設立30周年にあたります。人権高等弁務官事務所では、2023年の1年間にわたり「人権75キャンペーン」を立ち上げ、様々な活動を展開していますが、そのなかの一つに、毎月、1テーマに焦点を当て、人権課題を発信する「月別スポットライト」というサイトがあります。1月の「人権活動家の恣意的拘束」に始まり、9月は「社会的保護・持続可能な開発・開発に対する権利」、10月は「ビジネスと人権」でした。今回は、このなかの2月のテーマ「ケアと支援のシステム」を取り上げます。
 ケア労働は、長年にわたり、有償、無償を問わず「女性の仕事」とされてきました。そのことにより、ケア労働の価値が正当に評価されてこなかった歴史があります。今に至るまで、家事、育児、介護は、「女性が」「愛情と女性ならではの細やかさで」「無償で」おこなうことが理想だとする考えであり意識が根強く残っています。このような背景に、有償ケア労働の主要な担い手が女性であること、女性の収入は一家の生計にとって副次的なものと考えられてきたことが理由となって、有償のケア労働の雇用条件と報酬は日本、そして世界で低くおさえられてきました。そのことがケア労働の社会的な評価を下げる要因になり、ケア労働の価値が正当に認識されない状況につながっています。新自由主義経済の浸透に伴って世界的に緊縮財政や規制緩和が進行し、とりわけ公共セクターの労働者の非正規化、不安定化が進行したことも、ケア労働に携わる人たちの権利が切り詰められる一因になっています。
 人権高等弁務官事務所は、ケアと支援のためのシステムを大胆に改革し、ケア労働の経済的社会的価値を認識し、インフォーマルな形態(注 の有償ケア労働を減らし、ケア役割と責任を男性・女性・家族・地域社会で平等に再分配する必要があると強調しています。そして、ケアと支援のシステム整備が、持続可能な開発を達成するための鍵であると述べています。
 前述のとおり、ケア労働は、女性と少女が、その多くを担ってきましたが、それは障害女性でも同様であると人権高等弁務官事務所は述べ、「障害女性と少女はケア労働の受益者であると同時に提供者でもある」とする国際NGO「国際障害アライアンス(International Disability Alliance)」の交差性担当官であるロサリオ・ガラルザの以下のようなコメントを紹介しています。

 「障害者支援のニーズは世界のいたる場所で満たされてはおらず、こうした状況がパンデミック下では障害者にとって深刻で、場合によっては命の危険に直面する状況を生み出した。障害女性と少女が暴力にさらされず社会参加の機会を十分に得るための投資を政府は重点的におこなうべきである。障害女性と少女は、他の人たちと同様に、ケアを受ける権利、ケアを提供する権利、そして自身をケアする権利を有している。それらにより自律、独立、社会への完全な参加が可能になる。」

 人権高等弁務官事務所は、「ケアに対する権利(right to care)」は、ケアを必要とする人々がケアサービスを受けることを人権として要求できる権利にとどまらず、ケアを提供する人々の権利でもあるとし、個人、家族、地域の幸福と生活を守るために、ケアを提供する人、ケアを受ける人の権利が守られ保障されるように既存のシステムを変革する必要があるとしています。
 コロナ禍は、長年にわたり私たちの日常生活に潜んでいたにもかかわらず、正当に対応してこなかった不平等や不公正を一気に顕在化させました。エッセンシャル・ワークであるケア労働従事者についても同様であり、ケア労働の主要な担い手である女性、なかでも非正規で雇用されるシングル女性への影響は深刻でした。この教訓から学び、「続く未来」をつくるために、ケア労働の不公正な状況の変革を念頭に置いたケアエコノミー(家事、育児、保育、介護、看護等、ケア労働に関する経済活動)への投資が不可欠です。
 私たちは誰一人、ケア労働なくしては成長できませんでした。ケア労働の価値を認識し、正当に評価し、社会として誰もがケアサービスの恩恵を享受できる支援システムが必要です。それは人権の問題でありジェンダー平等の問題でもあります。


参考:月別スポットライトのウェブサイト
https://www.ohchr.org/en/human-rights-75/monthly-themes


注:
未組織で行政が把握しておらず社会保障等の対象外で政府統計にも表れない労働。特に「途上国」に分類される国で、その割合が高い。