国際シンポジウム
9月10日の国際シンポジウム「日本に国内人権機関を、そして国際基準の人権保障を!」では、本号特集に寄稿いただいた藤原精吾さんと申蕙秀さんによる基調講演、安田菜津紀さんからのビデオメッセージの他、市民社会組織からのメッセージとしてリレートークに登壇いただいた3名からも多くの重要な提起をいただきました。
同性婚をめぐって全国の弁護団が訴訟を提起しており、5カ所の地裁判決のうち大阪地裁以外は同性婚を認めないことを「憲法に反する」と判断しており、現在高裁で審理中です。LGBT理解増進法を施行したものの、その内容は、差別する側に配慮した内容であり、不完全なものです。そして、同法案の議論が始まって以降、誤った認識に基づく言説や、トランスジェンダーに対してヘイトが向けられる等、社会の分断が起きつつあります。
「人権の最後の砦」である司法が性的マイノリティの人権を保障するために機能する必要がある一方で、司法判断には長い時間がかかります。国内人権機関があることで迅速に人権侵害だと判断し政府に対して早急な改善を求めることが可能になれば、当事者の希望や安心感につながります。また国内人権機関が、市民に対して性的マイノリティに関する正しい認識に基づいた教育、啓発活動を行うことによって、社会の価値観が変わっていくことが期待できます。
2023年4月に「こども基本法」が施行され、こども家庭庁が発足したことは、子どもの権利保障を進める第一歩として歓迎できますが、政府から独立した立場で子どもの権利の状況のモニタリング・調査・勧告を行う子どもコミッショナーの設置については見送られました。独立した子どもの権利擁護機関や国内人権機関の設置は子どもの権利委員会からも繰り返し勧告されています。
国連ビジネスと人権作業部会による、ビジネスと人権に関する指導原則の実施状況についての訪日調査の最終日に出された声明の中でも、人権デューディリジェンスの義務化・法制化などと共に、独立した国内人権機関を設置すべきとの勧告が出されました。また、作業部会の調査でも取り上げられたジャニーズ事務所の性暴力加害について、外部専門家による再発防止特別チームが出した調査報告書に、「ビジネスと人権に関する指導原則」という国際基準が位置付けられたことは注目に値します。被害者がより迅速に、費用をかけずに救済申立てを行い、是正措置をはかることができるように、社会で弱い立場に置かれた人々に寄り添える権利擁護機関として国内人権機関の必要性についての理解を促進していく必要があります。
2016年に「部落差別解消推進法」が成立し、「部落差別解消」という文言がついたことには画期性がありますが、理念法に留まらない包括的な人権救済制度や差別禁止法が必要です。これまでに上程された人権委員会設置法案の廃案の経緯からして、日本政府は差別への法的規制や救済措置等の踏み込んだ法案については、"表現の自由"に抵触するとし、法律で差別を禁止することに反対を唱えてきました。
「部落差別解消推進法」が成立した2016年には、「示現舎・鳥取ループ」が、全国の部落所在地、部落名、戸数、人口、職業、生活程度等をまとめた「全国部落調査」復刻版を出版しようとした事件もありました。これに対して、東京高裁は「差別されない権利」の侵害だとする判決を下しました。この判決を武器にしながら、被差別の立場に置かれる人たちとの連帯を通して国内人権機関を含む包括的な人権救済制度、差別禁止法の制定を求め、闘っていく決意です。