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国際人権ひろば No.173(2024年01月発行号)

人として♥人とともに

気候危機が人権を脅かす

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 この記事を書いている2023年12月上旬現在、国連気候変動枠組条約の第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦のドバイで開催されています。ご承知のとおり、2023年は史上、最も暑い年になりました。日本も耐えがたい猛暑に襲われ、東京では過去最長となる64日連続の真夏日を記録しました。

 産業革命前と比較して地球の平均気温の上昇を2度未満、可能な限り1.5度未満に抑えることを目標とするパリ協定が採択されたのは2015年のCOP21ですが、それから8年が経過しても、気候危機を覆す取組は十分ではありません。そのことによる影響が年々、深刻さを増しています。海面の上昇は小島嶼国の人たちの住む場所や生計手段を奪っています。2023年にマウイ島で発生した山火事、2022年にパキスタンで発生した洪水のような大規模な災害が毎年、発生しています。こうしたことが理由となって移動を余儀なくされる「気候難民」と呼ばれる人たちが世界各地で生まれています。気候危機はダイレクトに命と生活を脅かす人権の問題です。

 SDGsには目標13「気候変動に具体的な対策を」がありますが、国連の「持続可能な開発目標報告2023」は、目標13について、「現在の気候行動計画は効果的に気候変動に対処するには全く不十分」と明言しています。また「今の状態が続けば2035年までに地球の平均気温の上昇は1.5度を上回ることになる」とし、以下のように報告しています。

  • 人間が化石燃料に依存し、持続不可能なエネルギー消費と土地利用を続けてきた結果、世界の平均気温は産業革命前と比較して既に1.1度、上昇しており、異常気象や激甚災害が頻発している。最も被害を被っているのは、温室効果ガスの排出にほとんど責任がない小島嶼国や「途上国」である。
  • パリ協定に基づく誓約を193の締約国が実行しても、2030年の温室効果ガスの排出量は2019年と比較して0.3%減にしかならない。これは1.5度目標を達成するために気候変動政府間パネルが求める43%減には遠く及ばず、このままでは21世紀の終わりには地球の平均気温の上昇は2.5度に達すると予想される。
  • 地球温暖化によって引き起こされる永久凍土や氷河の喪失が記録的な海面上昇を引き起こしている。1993年からの10年間には毎年2.27ミリだった世界の海面上昇は、2013年からの10年間では4.62ミリと2倍に増えた。小島嶼開発途上国や海抜が低い都市部の環境、経済、生計、健康への影響が懸念されている。

 これらの課題の解決に重要なのが気候正義という観点です。気候正義には、次の世代が気候危機から解放されるために必要な私たちの行動という世代間主義の側面と、気候危機の影響をより深刻に被っている脆弱性の高い国や地域に対し経済的に豊かな国?それは化石燃料によって享受してきた豊かさでもあります?が果たすべき責任というグローバル主義の側面があり、そのために必要なのが、脆弱性が高い小島嶼開発途上国を始めとする国々への資金提供です。

 化石燃料による「繁栄」を享受し、二酸化炭素を排出してきた「先進国」は応分の責任を果たすことに前向きではなく、毎年1000億ドルが必要とされる気候危機対応のための財源確保は順調に進んでいませんでしたが、2022年のCOP27において設立が発表された「損失・損害基金(Loss and Damage Fund)」の運用化に関する決定がCOP28で採択されたのは明るいニュースです。また、気候危機を解決するための課税メカニズムに向けた「気候・開発に関する国際課税タスクフォース」の立ち上げが発表されたことも進展です。さらに2030年までに再生可能エネルギー発電設備容量を3倍にという目標も設定されました。一方で、2050年までに原発の設備容量を3倍まで許容するという宣言も示され、これには多くの市民社会組織が懸念を表明しています。

 「持続可能な開発」が定義されたのは1987年に国連が公表した報告書「我ら共有の未来(Our Common Future)」でしたが、その後、1992年の地球サミットを経ても、地球を持続可能な場所にするための根本的な問題には全く手がつけられていなかったことが現在の気候危機を招きました。背景には、気候危機の原因に関する意見の対立に加え、「なんとかなるはず」「誰かがなんとかしてくれる」という甘い見通しがあったのではないでしょうか。命と生活を破壊することに加え、「気候難民」の移動が新たな国際紛争の種となることも懸念されます。「先進国」の責任を認識し、そして気候という国境を越えたグローバルな問題を解決して「続く未来」をつくるために、人権の視点が不可欠です。


<脚注>
参考:
The Sustainable Development Goals Report 2023
https://unstats.un.org/sdgs/report/2023/The-Sustainable-Development-Goals-Report-2023.pdf