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国際人権ひろば No.174(2024年03月発行号)

国連ウオッチ

ジュネーブでの第2回グローバル難民フォーラムに参加して

檜山 怜美(ひやま さとみ)
NPO法人なんみんフォーラム(FRJ)事務局

 2023年12月、スイス・ジュネーブにて、第2回グローバル難民フォーラム(GRF)が開催され、本会場に参加する機会を得た。日本での難民受け入れに携わる支援団体等の全国ネットワークの視点から、GRFの開催経緯、第2回GRFの概要と現地の様子、またGRFを通じた今後の展望について述べたい。

グローバル難民フォーラム(GRF)とは

 GRFは、4年に一度、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とスイス政府が主催し開催される難民に関する国際会議であり、2018年12月に国連総会で採択された合意文書「難民に関するグローバル・コンパクト(GCR)」のフォローアップメカニズムとして設置されている。GCRは、難民の急増と避難の長期化に対する国際社会の責任と負担の共有を、実態を伴うものとするために策定されており、難民条約やその他の国際人権文書を補完する枠組みである。

 「受け入れ国の負担軽減」「難民の自立促進」「第三国へのアクセス拡大」「安全で尊厳ある帰還に向けた環境整備」を主要な達成目標に掲げ、無国籍への対応も含む。

 GRFのプラットフォームを通じては、GCRに沿った具体的取り組みが奨励され、その取り組みを「宣言(プレッジ)」としてUNHCRが随時集約する。GRFは、新たなプレッジの発表、既存プレッジの進捗確認、参加者間の知見共有に取り組む場で、国際社会が一体となってより高い目標に向かうための重要な国際舞台となっている。

 GRFのもう一つの特徴は、多様なアクターの関与とその連携を重視する点である。GCRが掲げる「社会全体による取り組み」に基づき、国連機関や政府機関、NGOなどの従来のアクターだけでなく、企業、宗教ベースの団体、教育機関、NGO、当事者である難民主体の団体(以下、当事者団体)等の参加を重視している。政府機関の出席は、GRFには閣僚級レベル、中間年の会合には高級事務レベルとされる。第1回GRFは、2019年12月に開催され、3,000名以上が参加し、約1,400件のプレッジが提出された。

第2回GRFの概要

 第2回GRFは、2023年12月13日~15日にスイス・ジュネーブで開催された。12月11日からは、世界各地でGRF公式関連イベントも多数開かれた。世界168カ国から300名超の難民当事者を含む4,200人超が集い、1万人以上がオンラインでその進行を見守った。

 また、コロンビア、フランス、ヨルダン、ウガンダと共に、日本政府はアジア太平地域から唯一の共同議長国を務め、上川陽子外務大臣が出席した。共同議長国の任期は向こう4年で、第3回GRFで次の共同議長国に引き継ぐ。

 今回、プレッジの総数は1,600超に上った。特に重要な分野は、それぞれについて「マルチステークホルダー・プレッジ(MSP)」という旗振り役のプレッジが作られ、MSPの呼びかけに応答する個別プレッジとして登録するよう呼び掛けられたため、プレナリーでは、連日MSPの発表とMSPへの貢献として個別プレッジを提出したアクターが一斉に立ち上がり連帯を示した。また分科会(パラレルイベント)では、テーマごとにプレッジや好事例の共有とパネルディスカッションが行われた。


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開会式で声明を述べる上川外務大臣

第2回GRFへの日本のアクターの参加状況

 第2回GRF本会場へは、政府関係者に加えて、日本からも企業、宗教ベースの団体、NGO、当事者団体等、民間だけでも約30名が参加した(筆者は、UNHCRより招待を受けた一般社団法人Welcome Japanの一員としてGRFへ参加)。

 今回、日本政府は、「人道・開発・平和の連携」(HDPネクサス)に関するMSPを主導し、GRF2日目に同テーマでの分科会を主催。国内受け入れに関しては、第三国定住難民の受け入れの継続、シリア出身者をはじめとする留学生受け入れプログラムの継続と拡充、補完的保護対象者認定制度(難民条約上の迫害理由はないけれども日本に逃れた人を保護する制度として2023年12月に運用開始)の創設と対象者への定住支援の3つをプレッジした。上川外務大臣は、開会式で共同議長国として声明を述べ、こうした政府の取り組みを発表。ウクライナ避難民約2,500人の受け入れの実績にも触れながら、日本国内での難民等の支援や保護をNGOや大学や企業と連携して行っていく旨を述べた。

 また、日本のアクターからのプレッジは官民合わせて合計44に上り、企業、宗教ベースの団体、国際交流協会、法律事務所、NGO、当事者団体等53の組織や連合体も主体となって参加した(暫定集計値)。分野は、教育、住居、医療・福祉、就労など多岐に渡り、意義ある難民の参加といった横断的な分野を含む。第1回GRFで官民計4つに留まったことを鑑みると、大きな進展が伺える。GRFが新たなアプローチを歓迎していることや、日本政府が共同議長国を務めたこと、ウクライナ避難民の受け入れ等の影響が見受けられる。

 GRF前夜の12月12日には、外務省後援、FRJも協力し、一般社団法人Welcome JapanがGRF公式関連イベントとして「Welcome Japan シンポジウム 2023」を主催。20超の日本や東アジアのアクターからプレッジが発表され、世界各国から約130人が参加した。

 国際的に注目されている日本のイニシアチブとして、就職支援を組み込んだ教育を通じた受け入れがある。「難民の高等教育と自立:2030年までに就学率15%達成」の分科会では、好事例の1つとして、日本政府のシリア難民留学生受け入れプログラムについて、国際協力機構(JICA)国内事業部大学連携課の中澤あいり氏による発表があり、同プログラムの卒業生で現在は民間企業に務めるAnas Hijazi氏によるビデオメッセージが放映された。Hijazi氏は、EmPATHy代表団としてGRF本会場にも参加しており、その場での紹介を受けた。本会議では、一般財団法人パスウェイズ・ジャパン代表理事の折居徳正氏が、難民の就労を通じた移動および第三国への教育パスウェイズ(経路/道筋)に関する2つのグローバルタスクフォースを代表し、「技能(就労・教育)を通じた補完的パスウェイズ」のMSPの代表発表を行っている。

 また、企業等が協働でプレッジした、デジタルインパクトソーシング(難民へのデジタルスキルトレーニングとIT案件の受注による雇用機会の拡大)はGRF会場内でビデオ展示され、立ち止まり説明を聞く参加者も見られた。GRF最終日、一般社団法人Welcome Japan代表理事の金辰泰氏は、難民包摂への企業参画の意義や、社会全体による取り組みから生まれるイノベーションの可能性等について、リレー形式の発表の場でプレゼンテーションを行い、「私たちには才能と潜在能力があり、私たちは社会の財産である」として「負担」の共有という既存の概念からのパラダイムシフトの実現に向けた日本の取り組み例を共有し、国際社会の連帯を呼び掛けた。この「私たち」に難民当事者を含む重要性は、第2回GRFの多くの場で強調された点である。

今後に向けて

 第2回GRFへの参加を通じて、日本での難民の受け入れや包摂社会の実現に向けて、多様な取り組みやセクターを超えた連携がより外からも見える化され、また、その社会的な認知を目指して中長期に取り組む姿勢からは、日本社会全体の本課題への関心の高まりが感じられる。今後も、セクターを超えた対話と効果的な連携を促進し、より包摂的で強固な取り組みにステークホルダーが共に取り組む必要がある。加えて、MSPなど、国際的なプラットフォームを通じ、好事例の共有や国際的な議論の最前線への日本からの積極的関与も期待される。国際貢献であると同時に、MSPには難民の保護に関わるテーマも非常に多く、同分野で多く課題が指摘されてきた日本にとっても有意義な知見の交流をもたらしてくれるだろう。


<参考リンク>