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国際人権ひろば No.177(2024年09月発行号)

人として♥人とともに

ヒューライツ大阪は設立30周年を迎えます

三輪 敦子(みわ あつこ)
ヒューライツ大阪所長

 2024年は、ヒューライツ大阪にとって、設立30周年という記念すべき年です。1994年に誕生して以来、存続の危機にも見舞われながら30周年を迎えることができたのは、ヒューライツ大阪を構想し、立ち上げに奔走し、組織の基盤を整備され、存続のために尽力された皆様の多大なご支援があってのことであり、30年にわたり、ヒューライツ大阪を支えてくださった皆様に心よりお礼を申し上げます。

 この30年の間に、人権を取り巻く世界の状況は大きく変化しました。国連が第2回世界人権会議を開催したのが1993年。1990年代は、冷戦が終了し、世界を覆っていた政治、経済、社会の諸側面にわたる2大ブロックの壁が取り払われたことも追い風になり、国連では「人権の主流化」と呼ばれる動きが加速しました。市民社会組織が中心になって求めてきた対人地雷禁止条約が成立したのが1997年。グローバル化が労働者の権利等を侵害しているとする市民による大規模な抗議活動が発生し、シアトルでのWTO(世界貿易機関)閣僚会議が合意に至らなかったのが1999年。市民の声がグローバルな政策に影響を与えた経験を目のあたりにし、世紀の変わり目には「21世紀は人権の世紀」と確信したことを思い出します。ですが、ご承知のとおり、その後、四半世紀の間に、世界の状況は、すっかり変わってしまいました。

 日本国内の人権理解や人権意識も、残念ながら順調に浸透してきたとは言えない状況があります。ジェンダー平等の進展度を示すジェンダーギャップ指数は146カ国中118位(2024年)と、依然として低位にとどまっています。インターネット上における部落差別を助長する行為や在日コリアンの人たちへのヘイトスピーチは適切に処罰されていません。障害者が暮らす施設における深刻な人権侵害も様々な場所で報告されています。政治家による在日コリアンやLGBTQI当事者への差別発言に対し、何の対応も取られないという状況も存在します。

 適切に対応し救済を図るべき人権侵害が山積していますが、人権保障を実現するために、世界の多くの国が手にしている法的制度的インフラを日本に暮らす私たちは手にしていません。それらは以下の3つです。

1)国内人権機関

 国内人権機関(National Human Rights Insti-tution: NHRI)は、国家が設置する機関ですが、政府から独立して活動し、人権侵害の訴えがあった場合には調査をおこない、調停等を通じて問題の解決にあたります。裁判に比べて時間も費用もかからず、また裁ける法律の枠内での審理にとどまらざるを得ない裁判よりも柔軟に人権救済をおこなうことができます。

 SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」の指標に「パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の存在の有無」が入っていることにより、国際協力NGO等、多くの組織が重要性を理解するようになっています。

2)包括的差別禁止法

 日本には差別を定義したうえで差別を禁止する法律がありません。「部落差別解消推進法」「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」には差別の禁止規定と罰則規定はありません。様々な形で、場合によっては交差的複合的な形を取って現れる差別事象に対し、属性別に対応するのではなく包括的に対応するための法律になります。2022年12月には国連人権高等弁務官事務所が「包括的差別禁止立法に関する実践ガイド」を公表しています(1

3)個人通報制度

 国内における救済手続きを尽くしても人権侵害が救済されなかった場合に、侵害された人権の保障を規定する人権条約の委員会に申し立てることができる制度です。自由権規約に関しては、2024年4月の時点で、締約国174カ国のうち、116カ国が個人通報制度を受け入れています。日本は繰り返し個人通報制度を導入するよう各条約機関から勧告されていますが、 「検討中」の状態が四半世紀以上にわたり続いています。

 これら3つの人権インフラの役割や存在意義との関連で日本の人権課題を考えることを目的として、設立30周年を記念するシンポジウムを12月7日(土)に大阪で開催します。是非、ご予定にお入れください。

 これらの法や制度を実現するには、日本における人権理解の質を上げることが重要であることも痛感します。すべての人が「今ここで生きる」ことを可能にする人権理解と人権意識を育てるために、未来から過去をふりかえった際に「21世紀は人権の世紀」だったと言えるように、皆さんと一緒に前に進む機会にしたいと考えています。


<脚注>

  1. IMADRによる日本語版が以下からダウンロードできる:
    https://imadr.net/guide_antidiscrimination_japanese/