2000年8月16日第57会期
CERD General recom. 27
人種差別撤廃委員会は、
「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する条約」の締約国から提出された文書、条約第9条に基づき提出された締約国の定期報告書、および締約国の定期報告書の検討に関連して委員会が採択した最終所見を考慮し、
ロマに対する差別の問題に関する討議を組織し、委員会の委員の貢献、ならびに、国連諸機関その他の条約機関、および地域的組織の専門家による貢献を得、
関心を有する非政府組織との間で組織された非公式会合の間の発言および書面で寄せられた情報を通じてなされた非政府組織の貢献をも得、
条約の諸規定を考慮に入れ、
条約の締約国に対し、ロマの特有の状況を考慮に入れて、ロマ社会の構成員の利益のために、適当な場合には、とくに以下のすべてまたは一部の措置をとるよう勧告する。
1. 条約に従い、ロマに対するあらゆる形態の人種差別を、他の者または集団に対するものと同様に撤廃するため、適当な場合には、立法を再検討しおよび制定しまたは改正すること。
2. ロマの状況を改善し、ならびに国家機関およびいかなる人または団体による差別に対するロマの保護を改善するために、国内戦略およびプログラムを採択しおよび実施し、ならびに確固とした政治的意思および道義的リーダーシップを表明すること。
3. ロマが自らが望む呼称および所属を望む集団に関して、ロマの希望を尊重すること。
4. 市民権および帰化に関する立法がロマ社会の構成員に対する差別を行わないよう確保すること。
5. ロマ出身者である移民または庇護申請者に対していかなる形態の差別をも回避するために必要なすべての措置をとること。
6. 計画されおよび実施されるすべてのプログラムおよびプロジェクト、ならびに採用されるすべての措置において、しばしば二重の差別の犠牲者となっているロマの女性の状況を考慮に入れること。
7. ロマ社会の構成員に対して効果的な救済措置を確保する適当な措置をとること、ならびに、ロマの基本的な権利および自由の侵害の関する事案において、十分かつ迅速な裁判等がなされることを確保すること。
8. ロマ社会と、中央および地方の当局との間で、連絡および対話のための適当な方法を発展させ、およびこれを奨励すること。
9. 真の対話、協議その他の適当な方法を奨励することによって、寛容を促進しならびにロマ社会と非ロマ社会の双方に存在する偏見および否定的なステレオタイプを克服し、調整および適応のための努力を促進し、ならびに差別を回避し、ならびに、すべての者が自己の人権および自由を十分に享受することを確保するため、ロマ社会と非ロマ社会との間の関係(とくに、地方レベルにおける関係)を改善する努力を行うこと。
10. 第二次世界大戦中に、追放および大量殺害によってロマ社会になされた地獄の責め苦を認めること、ならびに、それに関してロマ社会への賠償の方法を検討すること。
11. 非差別、他の者の尊重および寛容(とくに、ロマに関するそれ)の精神をもって、政治文化を発展させ、および住民全体を啓発するための必要な措置を市民社会と協同してとること、ならびに、そのためのプロジェクトを開始すること。
12. ロマに対する人種を動機とした暴力行為を防止するための措置をとることによって、いかなる差別もないロマの身体の安全および完全性の保護を確保すること。当該行為を調査しおよび処罰するために警察、検察および裁判所による迅速な行動を確保すること。ならびに、加害者(公務員であるかその他の者であるかを問わない)がいかなる程度の不処罰をも享受しないことを確保すること。
13. とくに逮捕および拘禁に関連して、警察がロマに対して武器を違法に使用することを防止するための措置をとること。
14. 人種的偏見に基づいた紛争を防止し、ロマ社会の構成員およびその他の者に対する人種を動機とする暴力行為と戦うために、警察とロマの社会および結社との間の連絡および対話のための適当な取り決めを奨励すること。
15. ロマ社会の構成員が警察その他の法執行機関に就職することを奨励すること。
16. ロマ社会の構成員に対する暴力および強制移動を防止するため、旧紛争地区における締約国および責任を有する他の国家または当局の行動を促進すること。
17. 学校制度の中にロマ出身者であるすべての児童を含めることを支援すること、およびドロップアウトの比率の減少(とくに、ロマの女子生徒のそれ)のために行動すること、ならびに、それらの目的のために、ロマの父母、結社および地域社会と積極的に協力すること。
18. ロマの生徒に対する二言語または母語の指導の可能性を残しながら、可能なかぎりロマの生徒の隔離を防止し、および回避すること。この目的のため、すべての学校の教育の質を向上させ、および多数のロマ少数者が就学している学校の到達度のレベルを向上させることに努めること、学校の職員をロマ社会の構成員から募集することに努めること、ならびに、文化間の教育を促進することに努めること。
19. 教育の分野において、その父母の協力の下にロマの児童を支援する措置をとることを検討すること。
20. ロマの生徒に対するいかなる差別または人種的嫌がらせをも撤廃するために決意をもって行動すること。
21. 旅行者であるロマ社会の児童に対して基礎教育課程を確保するために必要な措置をとること。その方法としては、当該児童に地域の学校に一時的に入学することを認めること、野営地において一時的な学級を設けること、または遠隔地教育に関する新しい科学技術を用いることが含まれる。
22. 教育の分野におけるプログラム、プロジェクトおよびキャンペーンが、ロマの少女および女性の不利な状況を考慮に入れることを確保すること。
23. 教師、教育者およびロマの生徒から選択された教育補助者を養成する緊急かつ持続的な措置をとること。
24. より頻繁にロマの人々から選抜された教育補助者を利用することによって、教育職員と、ロマの児童、ロマ社会および父母との間の対話および連絡を改善するために行動すること。
25. 成人であるロマ社会の構成員の読み書きの能力の向上のため、義務教育年限を超えた当該構成員のための適当な教育形態および体制を確保すること。
26. すべての適当なレベルにおける教科書にロマの歴史および文化に関する章を含めること、また、ロマの歴史および文化に関する書物その他の出版物を公刊し、普及させること、ならびに、適当な場合には、それに関するテレビおよびラジオのプログラムを放送すること(ロマが使用している言語によるそれを含む)を奨励しおよび支援すること。
27. 雇用における差別、およびロマ社会の構成員に影響を及ぼす労働市場におけるすべての差別的慣行を禁止する立法を採択しまたはより効果的なものとすること、ならびに、かかる慣行から当該構成員を保護すること。
28. 行政および公の機関ならびに私的企業におけるロマの雇用を促進するための特別の措置をとること。
29. 可能な場合には、中央または地方のレベルにおいて、公的部門の雇用においてロマを優遇する特別措置を採用しおよび実施すること。たとえば、次のような措置である。公機関との契約の締結および政府が行い、もしくは政府が支出するその他の活動、またはロマに対してさまざまな技能および職業訓練を行うこと。
30. 住居におけるロマ社会の隔離を回避することを目的とした政策およびプロジェクトを立案しおよび実施すること。住居の建設、修復および維持において、ロマの社会および結社を他の者と共にパートナーとして関与させること。
31. 住民資格の取得および住居の取得に関して、主として地方の当局および私的所有者による、ロマに影響を及ぼすいかなる差別的慣行にも確固として反対する行動をとること、ロマに住居を否認し、およびロマを不法に追放することになる地方当局の措置に確固として反対する行動をとること、ならびに、多数の住民が居住する地区の外にあり、孤立しおよび保健・衛生施設その他の施設が利用できないキャンプにロマを留め置くことを慎むこと。
32. 適当な場合には、旅行者であるロマの集団に対して、すべての必要な施設を備えた、キャラバンの野営地を提供するために必要な措置をとること。
33. 保健・衛生サービスおよび社会保障サービスの平等な利用をロマに確保し、ならびに、この分野におけるロマに対するいかなる差別的慣行をも撤廃すること。
34. ロマ(主として女性および児童)に対して、それらの者が極貧、低レベルの教育および文化の相違を原因として不利な状況にあることを考慮しつつ、保健・衛生の分野におけるプログラムおよびプロジェクトを立案しおよび実施すること。ロマの結社および社会ならびにその代表者(主として女性)を、ロマの集団に関する保健・衛生プログラムおよびプロジェクトの立案および実施に関与させること。
35. ロマ社会の構成員が、飲食店、ホテル、劇場および音楽堂、ディスコティックその他のものを含む、一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所およびサービスを利用することに関するいかなる差別的慣行をも防止し、撤廃し、および適切に処罰すること。
36. 条約の規定に従い、適当な場合には、メディアにおいて、人種的若しくは種族的優越性のいかなる思想、またはロマに対する人種的憎悪ならびに差別および暴力の扇動の撤廃のために行動すること。
37. すべてのメディア従事者に対し、偏見を流布せず、およびロマ社会の構成員である個人が関与した事件を当該社会全体を非難するような方法で報道することを避ける特別の責任があるという自覚を促すこと。
38. ロマの生活、社会および文化について、ならびに、その人権およびアイデンティティを尊重しつつすべての者を包含する社会を建設することの重要性について公衆を啓発するための、教育上およびメディアにおけるキャンペーンを企画すること。
39. ロマによるメディア(新聞、ならびにテレビおよびラジオのプログラムを含む)の利用、ならびに自らのメディアの設立、ならびにロマのジャーナリスト養成を奨励しおよび促進すること。
40. 人種的な、差別的なまたは偏見を含む言葉を避けるための、メディア団体の行動綱領を通じて、メディアによる自己監視方法を奨励すること。
41. ロマ少数者または集団が、中央および地方のすべての政府機関に参加する平等の機会を確保するために必要な措置(特別措置を含む)をとること。
42. ロマ社会の関心事項に関する問題を検討しおよびそれに関する決定を採択する際に、中央および地方の双方のレベルにおいて、ロマの政党、結社および代表者との協議の態様および仕組みを発展させること。
43. ロマに影響を及ぼす政策およびプログラムの立案およびその実施に、その最も早期の段階でロマの社会および結社およびその代表者を関与させること、ならびに、当該政策およびプログラムに関する十分な透明性を確保すること。
44. ロマ社会の構成員が公的生活および社会生活により積極的に参加することの必要性、および自らの利益を増進すること(たとえば、自己の児童の教育および自らの職業訓練への参加)の必要性について、当該構成員によりいっそうの自覚を促すこと。
45. ロマの公務員および代表者、ならびに将来のその候補者に対して、その政治的能力、政策作成能力および行政能力の向上を目的とした訓練プログラムを作成・組織すること。
委員会は、また次のことを勧告する。
46. 締約国が、その定期報告書の中に、適当な形式で、自国の管轄の下にあるロマ社会に関するデータを含めること。当該データには、政治生活へのロマの参加に関する統計データ、ロマの経済的、社会的および文化的状況に関する統計データ(ジェンダーの観点からのものを含む)、ならびにこの「一般的な性格を有する勧告」の実施に関する情報が含まれる。
47. 政府間組織が、さまざまな締約国との協力および援助のプロジェクトの中で、適当な場合にはロマ社会の状況に取り組み、ならびに、その経済的、社会的および文化的進展を奨励すること。
48. 人権高等弁務官が、その弁務官事務所の中にロマ問題担当部署または担当官を設けることを検討すること。
委員会は、また、さらに次のことを勧告する。
49. 「人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容と戦う世界会議」が、ロマ社会が現代の世界にあって最も不利な地位にありかつ最も差別に服しやすいものの一つであることを考慮に入れて、上記の勧告に妥当な考慮を払うこと。
(訳:村上正直/大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授)
『アジア・太平洋人権レビュー2001』より転載