わたしたち「人権教育に関する東北アジア・トレーニング・ワークショップ」の参加者は、中国、日本、モンゴル、韓国から、政策立案者、教員研修機関責任者、大学の教育学部等の責任者、教材・カリキュラム開発者、NGOのメンバー、学校における人権教育の分野で全国的に活動しているNGOならびに機関/組織のメンバーで構成されている。
このワークショップ開催にあたって、わたしたちは以下のことを踏まえた。
「ウィーン宣言ならびに行動計画」(1993年)を受けて宣言された「人権教育のための国連10年」(1995年-2004年)によって、各国政府、国際組織、非政府組織、研究団体をはじめとする市民社会のすべてのセクターが、人権教育、研修、広報を国際的に推進していくための共通の戦略が示されていること、
「人権の推進と擁護のための地域的取り決めに関する第6回ワークショップ」(テヘラン、1998年)で採択され、「ニューデリー・ワークショップ」(1999年)で再確認された「アジア・太平洋における技術協力のための地域的枠組み」において、人権教育がこの地域で協力して進められるべき4つの主要優先事項のひとつとされたこと、
定型的教育制度における人権教育が、非定型的人権教育とともに、各国の人権教育戦略全般の中で重要な部分であること、
この2年間、約20カ国におよぶ政府、国内機関、NGOならびに専門家が出席したユネスコ主催の「アジア・太平洋における人権のための教育に関するアジア・太平洋会議」(インド・プーナ、1999年2月)を含めて、人権教育にとりくむさまざまなひとびとが、アジア・太平洋地域の人権教育を推進させるために必要な方法や手段について議論してきたこと、
アジア・太平洋地域のさまざまな国々が、人権教育の方法、カリキュラム、課外活動の開発について豊かな経験を生み出しながら、人権教育を学校制度に導入するために重要な一歩を踏みだしてきたこと。
わたしたちはこのワークショップに、
東北アジア地域の経験と教訓を分かち合い、東北アジア地域の学校における人権教育プログラムを展開する上での課題、機会、阻害要因について議論するために、また、方法を比較し、人権教育のプログラムの発展と強化のために必要なさまざまな行動の方向を探る
ために集まった。
そして、以下の結論と提案に合意した。
【結論】
民主化および経済発展を契機とした社会、政治、経済の各分野における変化によって、東北アジアにおいては学校における人権教育への関心が高まるとともに、そのための有利な環境が整いつつある。
国による課題の違いはあれ、各国とも人権教育の必要性ととりくみの必要性について等しく認識している。
東北アジアにおいては、学校における人権教育が普遍的に承認された人権基準ならびにそれに関連する国内の教育政策と法制を基礎にするという共通理解がある。人権侵害を防止するための有効な手段としての人権教育は、社会的弱者グループの権利だけでなく、市民的・文化的・経済的・政治的・社会的ならびに発展の権利全般をも取り扱うべきものと理解されるべきである。それらにともなう責任も等しく強調されるべきである。
さらに、そういった規範が学習者の日常生活と関連づけられるべきであるという点についても合意されている。
人権教育のプログラムには、参加型で学習者中心の方法論が効果的であると考えられている。
学校における人権教育のプログラムは、人権教育にかかわるさまざまな機関や個人(教育省、地方自治体、大学、研究機関、教員、生徒および保護者、NGOなど)の努力を通じて開発され、実現されている。
学校における人権教育プログラムは各国の多様な文化的な文脈と発展段階を考慮に入れて開発されている。この意味において、人権擁護と促進に関わりのある伝統的な価値観や信条を人権教育プログラムの開発に取り入れることも可能である。
東北アジアで計画されている教育の開発/改革は、定型的教育制度において人権教育プログラムを開発し導入する上での好条件となっている。
「国際理解教育のためのアジア・太平洋地域センター」(ユネスコの提携センター)のような地域研修センターは、人権教育実践者に多様な研修機会を提供する。
1.教員ならびに教育関係者の研修
●教員研修機関は研修には人権と人権教育の方法論について独立したコースを提供してい ない。こういったトピックスはたいていはその他のコース(例:社会科学など)に含まれているが、系統的かつ適切な形にはなっていない。
●教員対象の在職者人権研修も同様に散発的で不適切である。
●教室で使う教材は多様に存在するが、 教員用の研修教材はきわめて不十分である。
2.カリキュラム開発と課外活動
●各国ともに何らかの人権教育教材を開発しているが、人権は既存のカリキュラムにおい ては系統的に扱われていない。
●人権は独立した科目ではなく、一般的に特定の科目(たとえば、社会科・公民・歴史・法教育・道徳教育など)に統合されている。しかし、こういったやり方では人権は十分にとりあげられることができない。
●課外活動は人権を生きた経験とする上で非常に役立つ。
3.政策課題
●人権は一般に国内法によって支持されており、その法はまた人権教育のための基礎を提 供する。しかし、この法制は人権教育プログラムを学校で系統的に実施するための具体的な規定を欠いている。
●人権教育に割り当てられる政府予算は適切ではない。
●いくつかの国々は分権的システムを採用し、学校が独自の人権教育プログラムを開発することを可能にしている。
4.教室における人権教育
●複合的な方法によるプログラム-たとえば、ビデオ、演劇、ゲーム、ストリート・シアター、ロール・プレイ、音楽、美術/絵画、テレビの使用を含む-は、教室における人権の教育を豊かにする。
【フォロー・アップのための提案】
人権教育は、子どもの福祉と最善の利益を促進し、子どもをいかなる虐待からも保護するために、「子どもの権利条約」の原則と条項に合致していなければならない。
国際的、地域的、国内的レベルの人権教育プログラムのために、適切な財政措置が必要である。
NGOの経験を最大限に生かすために、人権教育活動の計画、実施、評価すべてのレベルで、NGOの有意義な参加が促進されるべきであり、かつ政府と政府以外の担い手の協力が、相互の尊敬と理解の中で進められるべきである。
保護者が学習者としても教育者としても学校における人権教育プログラムに十分にかかわるべきである。
学校における人権教育のあるゆる側面の研究がおこなわれるべきである。教育研究機関が設立または強化されなければならない。
すべての提案の実施が人権教育のための国内行動計画の下での、包括的(対象者の点で)、効果的(教育戦略の点で)、持続可能な(長期にわたるという点で)国内戦略に組み込まれ、また「人権教育のための国内行動計画の国連ガイドライン」にそったものでなければならない。
西暦2000年に予定されている「人権教育のための国連10年(1995年-2004年)」の目標達成に向けた国際的、地域的、国内的、地方的各レベルでの中間総括では、東北アジアにおけるすでにあるとりくみがとりあげられ、学校における人権教育プログラムの刺激とされるべきである。
2000年のはじめに日本で開催されるアジア・太平洋地域における人権教育のための国内行動計画に関するインターセッショナル・ワークショップの参加者は、ソウル・ワークショップの結論に注意を払うべきである。
東北アジア地域の各国政府は、人権教育プログラムの開発と実施の援助が、国連人権高等弁務官事務所が管轄する「人権分野における国連技術協力プログラム」のもとで得られることを考慮するべきである。
参加者ならびにオブザーバーは、このワークショップの結論をそのネットワークを通じて広めるべきであり、そしてそのことは同様のとりくみをすすめようとしている他の国々のパートナーにとっても役立つであろう。
1.教員と教育関係者の研修
●教員研修の目標は、人権に関する知識を増やし、参加型で創造的な方法を実践するために必要なスキルを向上させ、人権の教育へ高めることである。
●教員のための必要かつ十分な教員養成および在職者に対する人権研修、ならびに、教員が学びやすい教材を開発しなければならない。
●人権研修プログラムは、教員にかかわる人権問題と生徒の家庭生活にかかわる人権問題を含まなければならない。
●効果を倍増するために、研修担当者コースが設けられなければならない。
●在職者研修は義務でなければならず、必要に応じて単位を与えるべきである。また、教員の多様なニーズに対応するために、基礎、中級、上級といったレベルが提供されるべきである。
●「教員研修機関」ならびに/あるいは「人権教育に関する研修コース」が設置されるべきである。
2.カリキュラム開発と課外活動
●カリキュラム開発は、教員、人権の専門家、保護者、教育関係者、生徒、NGO代表、教育行政関係者などが関わるプロセスであるべきである。
●カリキュラム開発は、試行、見直し、評価、改訂が継続的におこなわれるプロセスであるべきである。
●人権教育は教育のあらゆるレベルに統合されなければならない。
●課外活動は地域と家庭を巻き込み、かつ彼らの利益となるように組織されなければならな い。そこには、フィールドワーク、他の学校との交流活動、キャンプ、祭などが含まれる。
3.政策課題
●学校における人権教育を支える適切な法や規則、とりわけ人権教育プログラムの開発が柔軟におこなわれるのを可能にするような法や規則が必要である。
4.教室における人権教育
●効果的教育をおこなうために教員は生徒の背景を知り、生徒との信頼関係を築く必要がある。教員と生徒の権力関係に関心が払われるべきである。
●教室/学校運営は、人権文化が人権教育を支えながら教室/学校に広がることを保障するべきである。
●教室における人権教育教材は、学習者にとって使いやすいものでなければならない。
●国連機関は教育方法における「最善の実践」を蓄積するために加盟国に適切な支援をしなければならない。
●教室で用いるための適切で創造的な手法をまとめたカタログが、NGO、研究センター、 関係する専門家らとの協力によって作成され、多くの教員が入手できるようにするべきである。
(訳者:鍋島 祥郎、阿久澤 麻理子、朴 君愛、林 伸一)