21世紀に向けた人権教育の挑戦
-人権の普遍的実現をもたらす世紀-
世界中の人権教育を促進する「人権教育のための国連10年」を私たちは支持する。また、「発展のためのアジア・太平洋人権教育集会・ワークショップ」(1995年・マニラ)、および「アジア・太平洋の人権教育ワークショップ:人権教育のための国連10年に向けたアジア・太平洋地域の課題」(1996年・シドニー)での勧告と行動の要請を再確認する。
この50年間にわたって、世界人権宣言が、人権の普遍化に向けた取り組みを導くとともに、数多くの国際人権諸文書の採択を促してきた。この世界人権宣言がいかに重要であるかを私たちは強調する。
国際人権諸条約が、個人および民族としての私たちの権利を明確に規定するとともに、女性、先住民族、被差別カーストや部落出身者及び他のマイノリティ、異なる能力を有する人々(障害者)、外国人、移民や移住労働者、高齢者や子ども、HIV/AIDSの被害者をはじめとするあらゆる形態の差別撤廃を定めている。これらの国際人権条約すべてを私たちは考慮する。
アジア・太平洋地域では、武力紛争や宗教対立、植民地支配や侵略によって多くの国が今日もなお被害を被っている。また、多くの人々が独裁政権に苦しんでいる。人権に対立する伝統的習慣が多くの社会を支配している。さらに、グローバル化によって民族対立が激化している。カースト(身分)に起因した差別が続いている。そして、排外主義と人種差別がはびこっている。私たちはこのようなアジア・太平洋地域の状況を見逃さない。
この地域における多くの国において、法執行機関、軍隊及び準軍事組織が権力を濫用している。私たちはこれを憂慮する。
女性、子ども、マイノリティ、先住民族、被差別カースト、移民及び移住労働者をはじめ、この地域のあらゆる被抑圧者が困難や継続する差別に直面している。この点も私たちは憂慮している。
こうした困難な状況は、いくつかの政府・自治体が経済発展ばかりを重視し、人権と環境を犠牲にしてきたこと、及びこの地域における現在の経済的危機によって貧富の格差が拡大したことによって増幅されたものである。私たちはこのことを憂慮している。
一部の政治的リーダーは偽善的にアジア的価値観なるものを唱えている。地域の伝統的な価値観の中に積極的なものが含まれていることが見逃されてしまっている。政治的・社会的諸機構によって宗教が操作されている。覇権確立のために人権が利用され、その結果人権基準が政治的目的のため恣意的に使われている。私たちはこうした現状を憂慮する。
国連総会及び国連「10年」行動計画に規定されているにもかかわらず、この地域のほとんどの国では国内行動計画がいまだ策定されておらず、あるいは不十分にしか実施されていない。また、ほとんどの学校制度や非定型的教育のプログラムでは人権カリキュラムが欠如したままである。さらに、多くの人々は、国際人権法や憲法あるいは法律で保障されている自らの人権を知らないままである。私たちはまた、このような点をも憂慮している。
グローバリゼーションや差別や抑圧といった相互に関連した問題をはじめ、上記のような諸問題に取り組むために、人権教育を戦略とみなすことが重要であると、私たちは認識している。
持続可能な発展という考え方をはじめ、地球規模の諸問題に関する考え方を人権教育の中に統合することが必要である。私たちはその点に注意を払う。
人々の内在的な力を確信している多くのグループが、この地域で努力を重ね、人権教育に参加型アプローチを取り入れ、人々の意識化を進め、人々の創造性を広げている。さらにかれらは、人権の普遍的実現の達成にむけた政治的指導者達の責任と義務と約束を果たさせようと努力している。そのことを私たちは認識している。
以上のことをふまえて、私たちアジア・太平洋人権教育国際会議参加者は、次のように宣言する。
1.女性や先住民族、被差別カーストや部落出身者などのマイノリティ、異なる能力を有する人々(障害者)、外国人、移民や移住労働者、高齢者や子ども、HIV/AIDS被害者に対するあらゆる形態の差別は、教育分野のみならず、あらゆる分野で根絶されなければならない。かれら自身の文化やアイデンティティが肯定されるべきである。多様性のなかの統一性という原則を促進し、差別の構造的原因や主体的原因に立ち向わなければならない。
2.民衆人権教育はしばしば草の根レベルでの人権侵害に立ち向かう中から生まれてきた。したがって、人権侵害の現実から学ぶことはこの上もなく必要である。人権教育はコミュニティの生活や現実に即応したものでなければならない。
3.ウィーンにおける世界人権会議で約束した諸事項を履行するために、この地域のすべての政府は、国際人権文書を批准し実施しなければらなない。
4.政府・自治体は、被抑圧者の総合的な人権エンパワーメントに焦点をあわせた教育プログラム、およびすべての人々のための識字教育や基礎教育を発展させなければならない。差別を許さない環境・開発教育の視点がこれらのプログラムに取り入れられるべきである。こうしたプログラムは、被抑圧者の教育学を取り入れ、参加型学習を採用するべきである。
5.政府・自治体は、最優先課題として、軍隊や準軍事組織、法執行職員(警察官や検察官など)、刑務所職員への人権研修を提供しなければならない。
6.政府・自治体は、出入国関係職員、議会関係者、地方自治体職員をはじめとする公務員への人権研修を促進するべきである。
7.ジャーナリストや医療関係者、法曹関係者(裁判官や弁護士など)などの専門職集団は、メンバーの人権意識強化と人権基準遵守に向けた責任を自覚すべきである。
8.公立私立を問わずあらゆる学校は、人権をカリキュラムの不可欠の一部として、またしかるべく独自な教科として重視して位置づけるべきである。すべての学校管理者は、脅迫や差別のない、参加と人間の尊厳を培う学習環境を提供するべきである。
9. ・国連人権諸文書や関連する機構や手続きの普及
・教育への権利に関する特別報告者やユネスコの通報手続きなど、国連人権機構や手続きのより効果的
な利用
・中間年である2000年に開催される国連10年の地球規模での評価
・人権教育のための国内行動計画に向けた国連のガイドラインに完全に適合した国内行動計画の発展と
遂行
以上のような国連との協力によって、この地域の人権教育はいっそう強化されるであろう。
アジア・太平洋人権教育国際会議
1998年11月27日