もくじ
I. 基本方針
II. 個別事業概要
2014年は、アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)設立20周年であった。ヒューライツ大阪は、それを機にこれまでの20年を振り返り、これからの歩みへの決意を新たにして、2015年度を迎える。2015年度は戦後70年の節目であり、これまでの時代の変遷をふまえ国内社会そして国際社会の現状を鋭くとらえて、社会の課題に応えることのできる人権のメッセージを伝えるべく、「人権情報センター」としての役割を果たしていく。
2012年4月1日に大阪府認可の一般財団法人となったヒューライツ大阪の新たな定款は、目的を次のように定めている。「アジア・太平洋地域の人権伸長に資する国際的な人権情報を、国際連合等の協力と同地域の諸国及び人々との相互理解と友好を基に収集・堤供することによって、人権を通じての大阪の国際交流並びに府民の国際的な人権感覚の醸成に寄与すること」
ヒューライツ大阪の本来の使命が、大阪で、日本社会で、そしてアジア・太平洋地域を含めた国際社会で、国際基準の人権を伝えていくことに変わりはない。人権のメッセージをどのように人々に伝えていくべきかは、その時々、メッセージが向けられる対象によって考慮が必要である。2015年度は、人権のメッセージの受け手のことを中心に考えて、事業計画を立てる。
ヒューライツ大阪の人的及び財的資源は、2015年度も前年と同じく限られている。目標に向かって期待される役割を担えるよう、日本そしてアジアや国際社会で生じている様々な人権問題の中からヒューライツ大阪が取り組むべきテーマを重点課題としていくつか設定し、優先的に取り組むことにする。
2015年度
これまでヒューライツ大阪が取り組んできた事業は、精査し、優先順位を考えながら継続していくもの、また新たに組み入れるものを決める。
ヒューライツ大阪が事業を遂行するにあたって、常に心がけてきた次のような指針がある。
(1) ヒューライツ大阪が伝えるべき人権は、「国際基準の人権」あるいは「普遍的人権」である。そのような人権は、理論や理想に留まっていてはならず、生活の場で実践していくべきものである。人が人間らしく生きるために、また公平で公正な社会をつくるためにはなくてはならないものである。
(2) ヒューライツ大阪は、人権をできるだけ多くの人びとに理解してもらえるように、わかりやすく、親しみやすいインターネット・ウェブサイトによる人権情報の発信や、研修、講演、情報提供、レファレンス、広報などを通して、府民・市民・企業に、様々な機会を活用して、「国際基準の人権」を伝えていく。また、専門的な人権情報や資料を求める人たちにも十分応えられる情報サービスの充実にも努める。
(3) ヒューライツ大阪は、日本国内、アジア・太平洋地域、そして世界で人権の保護促進に貢献することをめざしている。人権教育の分野では、アジア諸国からの参加を得て、地域に根差した実質的な成果を出してきたが、今後もアジア・太平洋地域の人権課題に取り組んでいく。さらに、2009年に取得した国連の特殊協議資格をより積極的に活用し、条約機関の日本報告審査時の参加など国連の人権活動への関わりを可能な限り進める。
(4) ヒューライツ大阪は、大阪府民・市民・企業等への還元として、世界で通用する人権の理解を、大阪をはじめ地域社会に広げる事業を行い、人びとのさまざまなニーズに応える事業を継続する。特に、社会的マイノリティなど社会で弱い立場に置かれている人、グループに配慮する。
(5)事業を行うにあたっては、専門的な知識、経験、そして実績を持つ個人や団体との協力によりヒューライツ大阪の活動範囲を広げ、事業の質を高め、より多くの人々に人権のメッセージを伝え、ニーズに応えることが出来るよう努める。そのためのネットワーク作りを心がける。
2015年度の重点事業
以下の重点を事業に集約する。
(1)インターネットを駆使した情報収集、検索、発信のために、蓄積資料の整理と活用のための見直し。継続して動画、フェイスブック、ツイッターなどの積極的な活用による発信。
(2)人権の国際基準の普及促進と広報活動、特に、「企業と人権」に関する国際基準の普及促進活動の継続。
(3)大阪そして日本国内での人権課題を人権の国際基準の視点から見直す活動、特に、弱い立場に置かれた人やグループの人権に関わる活動や人権条約機関の日本政府報告審査に関わる活動。重点テーマとして ア)移住者・移住労働者、外国につながる子どもの人権、イ)マイノリティ女性の人権、ウ)ヘイト・スピーチ、エ)アジアおよび日本の被差別グループの人権に関する情報収集・啓発事業。
(4)アジア・太平洋地域、国際社会と大阪を繋ぎ、人権保護、促進に貢献する事業。
① 日本語と英語のウェブサイトのコンテンツ充実と発信力の強化
日本語サイトは、タイムリーな人権情報やヒューライツ大阪の活動を紹介するニュースを迅速にアップすると共に、国際人権基準に関するコンテンツの充実、動画制作とYouTubeとの連動に引き続き努める。次に2014年度に4年ぶりにトップページのデザインをリニューアルしたが、日本語サイトについて、データ量が増え複雑化したコンテンツの構成を整理し、さらに見やすく、探しやすく、使いやすくすることに注力する。
英語サイトもまた2014年度にトップページのデザインをリニューアルしたが、日本語サイトと同様に、コンテンツの整理と様々なカテゴリーの追加によって一層の充実と利用者に使いやすいサイトの構成を追求する。また、日本およびアジア地域の人権課題に関して重点課題となっているテーマを積極的に発信していく。
また、ウェブサイトによる情報発信と並行して、2013年度から開始したfacebook とtwitterに関しては発信の方法や内容を工夫して効果の向上に努める。
② 重要な国際会議への積極的な参加
ヒューライツ大阪は、国連で議論される人権基準に関して、ウェブサイト、ニュースレター、セミナーなどを通じて情報発信している。2015年度内の会議として2016年2~3月の日程で女性差別撤廃条約の第7・8回日本報告審査が予定されている。国連との協議資格のあるNGOとしてヒューライツ大阪は、2014年度に続いて条約監視機関(女性差別撤廃委員会)の審査を傍聴し、府民・市民に伝えていくため、職員を派遣する。審査に先立つNGOレポートの作成、審査後の勧告の普及などに関わることによって、人権条約の国内実施に取り組んでいる団体との継続的で緊密な協力関係の強化を図る。
また、他のアジア・太平洋地域で開催される国際会議の出席や招聘を受けた場合の参加についても重要なものについては積極的に参加する。
③ 国内の会議参加や団体訪問を積極的に推進
最新の信頼できる情報収集の蓄積、ネットワーク強化のため、国内の会議参加、団体訪問などを積極的に行う。それ等の活動から得られた成果をウェブサイト、ニュースレターなどを通して情報発信するとともに、ヒューライツ大阪の認知度を高める。
④ 資料の収集・整理
アジア・太平洋の人権状況や人権教育、人権の理解を府民、市民に広く伝えるために、資料を収集し、資料コーナーを訪れた府民・市民の利用に供する。新規資料の受け入れ点数が年間300点余りで多くはないが、貴重なものも含んでいる。また重点テーマの資料は意識して積極的に収集する。会員への貸出サービスの充実のために、定期的に会員に資料収集に関する情報を伝える。
① 「企業の社会的責任と人権」普及と促進
これまで重点事業の一つとして進めてきたが、この積み重ねをもとに次の事業を行う。
(1) 『人を大切に―人権から考えるCSRガイドブック』(改訂版)の普及の一環として、その内容をベースにしたeラーニング教材を制作する。
(2) 企業の人権研修担当者向けのセミナーを開催する。その際、2014年度に制作した『人を大切に』の活用の手引きを活用する。
(3) 関心の高まっている企業のサプライチェーンにおける人権問題に関するセミナーを開催する。
(4) ウェブサイトの「企業と人権」セクションを充実する。
(5) 「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」をはじめ、関係団体や個人とのネットワークを発展させ、連携と情報収集に努める。
② 東北アジアにおけるビジネスと人権に関する研修資料(training manual)の作成(英語)
“Bridging Human Rights Principles and Business Realities in Northeast Asia”のフォローアップとして、これまでの協力関係機関(中国、韓国、モンゴル)の協力のもとに、東北アジアにおけるNGOが活用するための研修資料(training manual)を出版する。
③ スタッフ研修
スタッフのスキルアップを図るための研修を継続して実施する。2015年度は、SNS(Social Networking Service)の活用に関連した研修を実施する。
① 国際人権条約日本報告審査のフォローアップ
自由権規約委員会と人種差別撤廃委員会が2014年7~8月に日本報告審査を行ったが、その1年後のフォローアップに関連する情報を収集、分析する。とりわけ、人種差別撤廃条約の実施に関連し、2012年度より反差別国際運動日本委員会(IMADR-JC)をはじめとする人種差別撤廃NGOネットワークと協働して取り組んでいるヘイト・スピーチの問題に関する啓発活動を継続強化する。2015年は、日本が人種差別撤廃条約に加入して20周年にあたることから、それにちなんだ記念集会を企画する。
また2015年は、北京で開催された第4回世界女性会議から20年を迎える年であり、日本が女性差別撤廃条約を批准して30周年にあたるとともに、2016年に女性差別撤廃条約の日本報告審査が行われることを踏まえて、人種差別と女性差別の交差に関するセミナーを関係団体と協力して開催する。
② 企業の社会的責任(CSR)と人権を考える市民向けセミナー
企業内研修ではなく、消費者の観点から、とりわけ、パームヤシや衣料販売のグローバル企業で問題が起きているサプライチェーンに焦点を当てた企業の社会的責任を考えるセミナーの開催や、ODA(政府開発援助)が新開発協力大綱に基づき推進されることを踏まえて、ODAの現場からの報告会などを企画する。
③ 人権映画の上映
2014年度には、設立20周年記念事業として、人権をテーマにした映画の上映とトークショーを1週間にわたり実施した。広報活動での不充分さはあったが、継続を希望する声があることから、府民・市民、会員を対象にして人権映画の秀作を紹介するとともにヒューライツ大阪の認知度を高める場とする。規模や予算は前年度より縮小する。
映画選択や上映権処理などについては専門的知識と情報を有する外部の協力を求める。
④ 人権パネル貸出の広報推進と追加パネルの制作
2014年度に20周年事業として10枚のパネルを制作したが、貸出やヒューライツ大阪による展示などを通じて活用を図るため、周知と貸出の宣伝に力を入れる。また、まだ扱っていないテーマなどを中心に3枚程度パネルを追加作成し、内容の充実を図っていく。
⑤ 人権を5・7・7で詠む
日本が加盟する人権諸条約の報告審議にあわせ、条約と国内での人権状況に関する情報・知識を広める目的で、「5・7・5で句を詠む」という公募事業を2011年度と2013年度に実施した。ヒューライツ大阪会員から事業の再度実施の要望があり、2015年度に、府民・市民への人権の国際基準の普及促進の一環として、公募して入選作をウェブサイトで公表する。前回同様、選考委員会を設置し入選作を決定する。国際人権条約について知る機会を提供するとともに、人々の生活に密着した人権条約に関するウェブサイトのコンテンツとする。
⑥ ワン・ワールド・フェスティバル等への参加
国際協力に関わる関西をはじめとするNGO、大学、政府機関、国際機関、企業などが毎年大阪に集まり活動紹介や交流イベントを行う「ワン・ワールド・フェスティバル」など、開催趣旨がヒューライツ大阪の使命と目的に合致し、参加することによって、ヒューライツ大阪の活動がより広く伝わるなどの効果が期待されるイベントに積極的に参加する。
⑦ 共催事業 自治体、NPO/NGO、学校関係、その他様々な団体等との協力・共催事業の推進
ヒューライツ大阪の趣旨と合致する講座などの事業を、各団体との協力や共催によって積極的に推進することで、企画内容の充実と新しい層との出会いを期するとともに、ネットワークを強化し、ヒューライツ大阪の認知度を高める。
⑧ 受託研修
講師派遣について引き続き広報し、自治体、府民・市民、NPO/NGO、企業、学校など様々な組織、個人を対象に、ヒューライツ大阪として応じることができるテーマの研修を受託する。また、各大学からの研究調査に関わる業務協力についてもテーマがヒューライツ大阪の趣旨に適い、協力体制が可能であれば受託を積極的に行う。
⑨ インターン受入・人材養成事業
前年度に続き、事務所の体制を考慮しつつ、国内外の人権活動家・大学院生・大学生などからのインターンの希望があれば積極的に受け入れる。インターンがヒューライツ大阪の事業に関わる機会を設け、専門的貢献と実務経験の場を提供することで、人材育成に資すると共に情報受発信の充実にもつなげる。
⑩ 時宜に適った学習会など
タイムリーな人権テーマや重点課題に関連する企画などの機会を得た場合、必要に応じて学習会を開催し、府民・市民に価値ある人権情報を提供する。
① ニュースレター日本語「国際人権ひろば」及び英語「FOCUS」の発行
国際的な人権の潮流、人権基準に関する最新情報を国内外に広く紹介すると共に、ヒューライツ大阪の会員や関係者とのネットワークの手段として、ニュースレターを引き続き発行する。「国際人権ひろば」は年6回2,000部、「FOCUS」は、年4回400部発行する。「FOCUS」は郵送すると共に電子ファイル化し(PDF、HTML)、国内外に送信する。印刷物の発送先を定期的に見直す。
また日英のニュースレターの記事は、ウェブサイトにバックナンバーとしてアップし、府民・市民をはじめとする国内外のニーズに応えるコンテンツとして活用されるよう内容の充実、および読みやすさを追求する。
② “Human Rights Education in the Asia-Pacific(アジア・太平洋における人権教育)”(英語)Vol.6の出版
アジア・太平洋地域の人権の伸長というヒューライツ大阪の目的に沿って、毎年、この地域の学校教育だけではなく生涯教育など広く人権教育の実践報告を出版している。この事業を通じて、アジア・太平洋地域の人権教育に関する情報が蓄積され、情報量の充実をめざす。この情報には、紙媒体とウェブサイトの2つの方法でアクセスできる。紙媒体はアジア各国の人権機関、NGO団体、政府機関等に配布し、全データをウェブサイトにアップする。
① 会員の拡大と会員サービスの充実
継続して、ヒューライツ大阪の支援者を増やし、安定した収入を確保するために、会員の維持と拡大を図る必要がある。映画上映会などの機会を利用して、会員交流の場を設ける。
② E-mailインフォメーションの発行
ヒューライツ大阪の事業、およびウェブサイトの更新情報などについて、関心のある個人・団体に、定期的かつ迅速に発信するためにE-mailインフォメーションを発行する。さらに、会員、役員などに対し、定期的により具体的な事業活動や事業を通じた情報提供をE-mailなどで知らせるようにする。
③ 情報・研修などについて国内外からの相談、見学訪問
ヒューライツ大阪が蓄積する資料・情報や研究・研修に関する相談に応対し、必要に応じて適切な人権関係機関を紹介するなどの情報サービスに努める。また会員に対して、人権啓発・研修の企画に関する相談があれば積極的にサポートする。教育関係団体の見学希望については、セミナー室の使用ができれば可能な限り対応する。