もくじ
I. 基本方針
II. 個別事業概要
日本を含めた世界の各地で、経済格差・所得格差が拡大するなか、マイノリティや貧困者層など社会的に疎外された人たちが一層生きづらい状況となっている。そのような時代状況をふまえ、ヒューライツ大阪は、国内そして国際社会の現状を鋭くとらえて、社会の課題に応えることのできる人権のメッセージを伝えるべく、「人権情報センター」としての役割を果たしていく。
2012年4月1日に大阪府認可の一般財団法人となったヒューライツ大阪の新たな定款は、目的を次のように定めている。「アジア・太平洋地域の人権伸長に資する国際的な人権情報を、国際連合等の協力と同地域の諸国及び人々との相互理解と友好を基に収集・堤供することによって、人権を通じての大阪の国際交流並びに府民の国際的な人権感覚の醸成に寄与すること」
ヒューライツ大阪の本来の使命が、大阪で、日本社会で、そしてアジア・太平洋地域を含めた国際社会で、国際基準の人権を伝えていくことに変わりはない。人権のメッセージをどのように人々に伝えていくべきかは、その時々、メッセージが向けられる対象によって考慮が必要である。2016年度も引き続き、人権のメッセージの受け手のことを中心に考えて、事業計画を立てる。
ヒューライツ大阪の人的及び財政的資源は、2016年度も前年と同じく限られている。目標に向かって期待される役割を担えるよう、日本そしてアジアや国際社会で生じている様々な人権問題の中からヒューライツ大阪が取り組むべきテーマをいくつか重点課題として設定する。
ヒューライツ大阪が事業を遂行するにあたって、常に心がけてきた次のような指針がある。
(1)ヒューライツ大阪が伝えるべき人権は、「国際基準の人権」あるいは「普遍的人権」である。そのような人権は、理論や理想に留まっていてはならず、生活の場で実践していくべきものである。人が人間らしく生きるために、また公平で公正な社会をつくるためにはなくてはならないものである。
(2)ヒューライツ大阪は、人権をできるだけ多くの人びとに理解してもらえるように、インターネット・ウェブサイトによる情報発信や、研修、講演、情報提供、レファレンス、広報などを通して、市民・企業に、様々な機会を活用して、わかりやすく、親しみやすく「国際基準の人権」を伝えていく。また、専門的な人権情報を求める人たちにも応えられる情報サービスの充実にも努める。
(3)ヒューライツ大阪は、日本国内、アジア・太平洋地域、そして国際社会の一員として人権の保護促進に貢献することをめざしている。人権教育の分野では、アジア諸国からの参加を得て、地域に根差した成果を出してきたが、今後も継続していく。さらに、2009年に取得した国連の特殊協議資格を積極的に活用し、アジア・太平洋地域における人権保障に向けた取り組みの動向、条約機関の日本報告審査時の参加や国連機関への情報提供など国連の人権活動への関わりを可能な限り進める。
(4)ヒューライツ大阪は、大阪府民・市民・企業等への還元として、世界で通用する人権の理解を、大阪をはじめ地域社会に広げる事業を行い、人びとのさまざまなニーズに応える事業を継続する。特に、社会的マイノリティなど権利を侵害されやすい立場に置かれている人、グループに配慮する。
(5)事業を行うにあたっては、専門的な知識、経験を持つ個人や団体との協力によりヒューライツ大阪の活動範囲を広げ、事業の質を高め、より多くの人々に人権のメッセージを伝え、ニーズに応えることができるよう努める。そのためのネットワークづくりに努める。
2016年度の重点事業
(1)インターネットを駆使した情報収集、検索、発信のために、蓄積資料の整理と活用のための見直し。継続してウェブサイト、フェイスブック、ツイッターなどの積極的な活用による発信。
(2)大阪および日本国内、そしてアジア・太平洋地域における人権の国際基準の普及促進と広報活動。とりわけ、ア)企業と人権、イ)人権教育、ウ)権利を侵害されやすい人たちの人権保護に関わる課題、および人権条約機関による勧告実施のモニタリング。
(3)重点テーマとして ア)アジアおよび日本の被差別グループの人権、イ)複合差別、ウ)移住者の人権
(4)アジア・太平洋地域、国際社会と大阪を繋ぎ、人権保護促進に貢献する事業。
1.情報収集・発信事業
① 日本語と英語のウェブサイトのコンテンツ充実と発信力の強化
日本語サイトは、タイムリーな人権情報やヒューライツ大阪の活動を紹介するニュースを迅速にアップすると共に、国際人権基準に関するコンテンツの充実や動画制作に引き続き努める。英語サイトは、日本の人権問題およびアジア地域との人権課題に関してより多く発信していく。
データ量が増え複雑化したコンテンツの構成を整理し、さらに見やすく、探しやすく、使いやすくすることに注力する。
また、ウェブサイトによる情報発信と並行し、facebook とtwitterによる発信の方法や内容、タイミングを工夫することによって効果の向上に努める。
② 国内外の会議参加や団体訪問を積極的に推進
最新の信頼できる情報収集の蓄積、ネットワーク強化のため、国内外の会議参加、団体訪問などを積極的に行う。それらの活動から得られた成果をウェブサイト、ニュースレターなどを通して情報発信するとともに、ヒューライツ大阪の認知度を高める。
また国連との協議資格をより活用する方策を含め、人権条約の日本をはじめ各国における実施に取り組んでいる団体との緊密な協力関係の強化を図る。
他のアジア・太平洋地域で開催される国際会議や招聘を受けた場合の参加についても会議の趣旨と期待される効果を勘案して積極的に参加する。ただし訪問先の優先順位をつける。
③ 資料の収集・整理
アジア・太平洋の人権状況や人権教育、人権の理解を府民、市民に広く伝えるために、資料を収集し、資料コーナーを訪れた府民・市民の利用に供する。新規資料の受け入れ点数が260点(2015年度4月より1月末)で、多くはないが、貴重なものも含んでいる。また重点テーマの資料は意識して積極的に収集する。会員への貸出サービスの充実のために、定期的に資料収集に関する情報を伝える。
2.調査・研究事業
① 「企業の社会的責任と人権」普及と促進
これまで重点事業の一つとして日本国内、そして東北アジアでプロジェクトを進めてきたが、この積み重ねをもとに今年度も事業を進める。
まず大阪をはじめとする日本国内を対象に次の事業を行う。
(1) 『人を大切に―人権から考えるCSRガイドブック』(改訂版)の普及の一環として、その内容をベースにしたeラーニング教材を完成する。
(2) 企業の人権研修担当者向けのセミナーを開催する。
(3) 企業のCSR担当者向けのセミナーを開催する。
(4) 市民・NGO向けのセミナーを開催する。
(5) ウェブサイトの「企業と人権」セクションを充実するとともに、メールニュース〔企業と人権〕インフォメーションを引き続き発信する。
(6) 「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」をはじめ、関係団体や個人とのネットワークを発展させ、連携と情報収集に努める。
アジア地域のNGOを対象にした事業としては、2015年度に完成した「ビジネスと人権のトレーニング・マニュアル」の活用やフォローアップ活動を議論するため、準備のための環境整備などを行う。
② 人権教育者のネットワークと課題探求のための研究会(新規)
国連では「人権教育のための国連10年」以降、2005年から「人権教育のための世界プログラム」に着手し、初等中等教育における人権教育(市民を対象にした人権教育)、教員・公務員・法執行者などを対象にした人権研修に焦点をあて、段階的取り組みを進めてきた。
一方、日本では、人権教育啓発推進法の下で、教育・啓発の取り組みが進められてきたが、部落問題をはじめとするマイノリティ問題に関わる学習も、また「人間の権利」についての学習も、低調になりつつある。そこで学校における人権教育の「これから」を考えるために、学校現場の教員とネットワークを組みつつ、①現場の課題を話し合い、学校における 人権教育の到達点の評価を行う。②ヒューライツ大阪が築いてきたアジア・太平洋地域の人権教育に関わる教員のネットワークを活用し、アジア・太平洋地域の学校における人権教育の文脈の中で大阪をはじめ日本における人権教育の整理し、情報交換を行う。
③ スタッフ研修
スタッフのスキルアップを図るための研修を継続して実施する。2016年度は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用に関連した研修を実施する。
3.研修・啓発事業
① 国際人権条約の国内実施のモニタリング
自由権規約委員会および人種差別撤廃委員会が2014年に、女性差別撤廃委員会が2016年3月に日本の条約実施状況について採択した総括所見の周知とともに実施に関する情報収集に努め、ウェブサイトやセミナー開催などを通して市民社会に伝えていく。
ヘイトスピーチをめぐる課題に関して、大阪市で2016年1月に制定された「ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の実施状況をフォローするとともに、国における人種差別撤廃に向けた法整備の動向に関して情報発信する。
また、2016年は、国連への障害者権利条約および子どもの権利条約の実施に関する日本報告の提出年にあたることから、関連するNGOネットワークによるNGOレポートの作成に協力する。
② 複合差別についての研究会(新規)
2015年度の人種差別撤廃条約への日本加入20年の連続セミナーおよび女性差別撤廃委員会の日本審査に向けたマイノリティ女性による報告活動などを通し、複合差別の課題がより広く認識されたが、関係する研究や活動資料はまだ十分あるわけではない。マイノリティ女性の人権問題について、国際人権基準の視点を取り入れながら、国内外の既存の調査・研究・活動資料を収集・分析・編纂して、NGO、研究者、一般市民に向けて利用可能な形にする。
③ ドキュメンタリー映像作品の鑑賞を通じて人権を考える学習会(新規)
人権について気づきとなる優れたドキュメンタリー映像作品を専門家の協力をえて掘り起し、ナビゲーターに迎え、映像を観ながら話しあう学習会を開催する。性的マイノリティに関する作品などの上映会を3回程度開催する。
④ 台湾へのスタディツアー
3年ぶりのスタディツアーとなるが、民主化・人権の分野で大きな進展を見せている台湾を訪問する。台湾の民主化・人権獲得の歴史や女性政策、そして台湾のマイノリティ女性に関する現場を尋ね、交流するプログラムを企画する。訪問先についてはヒューライツ大阪との連携・協力関係にある専門家の助言を得る。(9月中旬、3泊4日程度)
⑤ 移住者の人権に関する情報収集・啓発
移住者や外国につながる子どもたちの直面している就労や教育をめぐる課題、および多民族・多文化共生の視点からその解決に向けた取り組みに関する情報を、ウェブサイトやセミナーの開催を通じて発信する。また、2016年度から国家戦略特区(大阪と神奈川)において受け入れが始まる「家事支援人材」に関してフォローする。
⑥ 人権を5・7・5で詠む
国際人権基準についての関心・情報を広める目的で、「5・7・5で句を詠む」という公募事業を2011年度、2013年度、2015年に実施した。選考委員会を設け、公募作品のなかから入選作を選び、「国際人権ひろば」とウェブサイトで公表してきた。人々の生活に密着した人権のメッセージであり、応募者からの継続要望を受けたことから2016年度も実施する。
⑦ 受託研修
ヒューライツ大阪のスタッフの講師派遣について引き続き広報し、自治体、府民・市民、NPO/NGO、企業、学校など様々な組織、個人を対象に、応じることができるテーマの研修を受託する。また、各大学からの研究調査に関わる業務協力についてもテーマがヒューライツ大阪の趣旨に適い、協力が可能であれば受託を積極的に行う。
⑧ ワン・ワールド・フェスティバルなどイベントへの参加
国際協力に関わるNGO、大学、政府機関、国際機関、企業などが毎年大阪に集まり活動紹介や交流イベントを行う「ワン・ワールド・フェスティバル」など、開催趣旨がヒューライツ大阪の使命と目的に合致し、参加することによって、ヒューライツ大阪の活動がより広く伝わるなどの効果が期待されるイベントに積極的に参加する。
⑨ インターン受入れ・人材養成事業
事務所の体制を考慮しつつ、国内外の人権活動家・大学院生・大学生などからのインターンの希望があれば引き続き積極的に受け入れる。インターンがヒューライツ大阪の事業に関わる機会を設け、専門的貢献と実務経験の場を提供することで、人材育成に資すると共に情報受発信の充実にもつなげる。
⑩ 共催事業 自治体、NPO/NGO、学校関係、その他様々な団体等との協力・共催事業の推進
ヒューライツ大阪の趣旨と合致する講座などの事業を、各団体との協力や共催によって積極的に推進することで、企画内容の充実と新しい層との出会いを期するとともに、ネットワークを強化し、ヒューライツ大阪の認知度を高める。
⑪ 市民の視点に立った学習会など
タイムリーな人権テーマや重点課題に関連する企画などの機会を得た場合、必要に応じて学習会を開催し、府民・市民に価値ある人権情報を提供する。
4.広報・出版事業
① ニュースレター日本語「国際人権ひろば」及び英語「FOCUS」の発行
国際的な人権の潮流、人権基準に関する最新情報を国内外に広く紹介すると共に、ヒューライツ大阪の会員や関係者とのネットワークの手段として、ニュースレターを引き続き発行する。「国際人権ひろば」は年6回2,000部、「FOCUS」は、年4回400部発行する。「FOCUS」は郵送すると共に電子ファイル化し(PDF、HTML)、国内外に送信する。印刷物の発送先を定期的に見直す。
また日英のニュースレターの記事は、ウェブサイトにバックナンバーとしてアップし、府民・市民をはじめとする国内外のニーズに応えるコンテンツとして活用されるよう内容の充実、および読みやすさを追求する。
② 「人種差別と女性差別の交差性」をテーマにしたブックレットの出版(新規)
人種差別撤廃条約の対象範囲である日本国内のマイノリティ・コミュニティおよび各コミュニティの女性たちの人権状況の現状と課題を、「交差する差別」の視点よりわかりやすくまとめたブックレット作成をめざす。特に、2015年度の人種差別撤廃条約日本加入20年の連続セミナーでの報告や質疑の内容などを活用しながら編集する。
③ “Human Rights Education in the Asia-Pacific(アジア・太平洋における人権教育)”(英語)Vol.7の出版
アジア・太平洋地域の人権の伸長というヒューライツ大阪の目的に沿って、毎年、この地域の学校教育だけではなく生涯教育など広く人権教育の実践報告を出版している。この事業を通じて、アジア・太平洋地域の人権教育に関する情報が蓄積され、情報量の充実をめざす。この情報には、紙媒体とウェブサイトの2つの方法でアクセスできる。紙媒体はアジア各国の人権機関、NGO団体、政府機関等に配布し、全データをウェブサイトにアップする。
5.情報サービス事業
① 会員の拡大と会員サービスの充実
継続して、ヒューライツ大阪の支援者を増やし、安定した収入を確保するために、会員の維持と拡大を図る必要がある。映画上映会などの機会を利用して、会員交流の場を設ける。
② E-mailインフォメーションの発行
ヒューライツ大阪の事業、およびウェブサイトの更新情報などについて、関心のある個人・団体に、定期的かつ迅速に発信するためにE-mailインフォメーション(市民向けと企業関係者向けの2種類)を発行する。さらに、会員、役員などに対し、定期的により具体的な事業活動や事業を通じた情報提供をE-mailで知らせる。
③ 情報・研修などについて国内外からの相談、見学訪問
ヒューライツ大阪が蓄積する資料・情報や研究・研修に関する相談に応対し、必要に応じて適切な人権関係機関を紹介するなどの情報サービスに努める。また会員に対して、人権啓発・研修の企画に関する相談があれば積極的にサポートする。教育関係団体の見学希望についても、可能な限り対応する。