もくじ
I. 基本方針
II. 個別事業概要
21世紀の幕開けに抱いた「21世紀は人権の世紀に」との期待が、あっけなく裏切られたかのような現実が存在する。グローバル化や規制緩和は、その恩恵を受けることのない多くの人たちを取り残したままで進行し、それは経済格差の拡大となって日本と世界を覆っている。そうした社会状況とあいまって、不寛容や排外的な思潮が拡がりつつある。ヘイトスピーチの蔓延、インターネットを中心とした社会的弱者への誹謗中傷、移民・難民への排外的言動等、人権の保障を脅かす喫緊の課題が日本と世界には山積している。このような状況をふまえ、ヒューライツ大阪は、これまで以上に国内外の状況を的確にとらえることに力を注ぎ、社会の課題に応じた人権のメッセージを伝える「人権情報センター」としての役割を果たしていく。
ヒューライツ大阪は2012年4月1日、大阪府認可の一般財団法人に移行した。その使命は、大阪で、日本社会で、そしてアジア・太平洋地域をはじめとする国際社会で、国際基準の人権を伝えていくことにある。この理念は、設立以来、変わらない。2018年度も引き続き、人権のメッセージを伝える方法を工夫しながら事業計画を立てる。
また、2018年は、1948年に採択された世界人権宣言が70周年を迎える。2018年の1年間を、「人権は宝」をスローガンに据え、世界人権宣言70周年を記念する年として、人権、そして国際人権基準のこれまでと今後を検討し、「人権を日本に根づかせる」ための事業を展開する。その際には、「誰一人取り残さない」ことを基本理念として採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」等の、人権と密接に関わる国際目標にも留意する。
ヒューライツ大阪は、事業計画の立案にあたり、以下の指針を設定し、これらの実現を目標として事業を展開してきた。
(1)ヒューライツ大阪が伝えるべき人権は「国際人権基準」である。それは、理論や理想に留まっていてはならず、生活の場で実践していくべきものである。人が人間らしく生きるために、また公平で公正な社会をつくるためになくてはならないものである。
(2)ヒューライツ大阪は、人権をできるだけ多くの人びとが理解できるように、ウェブサイトやSNSによる情報発信や、セミナー、研修、広報などさまざまな機会を活用して、わかりやすく、身近なものとして「国際人権基準」を伝えていく。また、企業やNGO関係者、専門的な情報を求める人たちのニーズにも応える情報サービスに努める。
(3)ヒューライツ大阪は、国際社会の一員として人権の保護促進に貢献することをめざしている。とりわけ、人権教育の分野では、アジア・太平洋地域のさまざまな機関・団体の協力を得て、その推進に努めている。2009年に取得した国連の特殊協議資格を活用して、アジア・太平洋地域における人権保障に向けた取り組みの動向に接する努力をおこない、条約監視機関による日本報告書審査に参加するなど、国連の人権活動にも可能な限り積極的に関わる。
(4)ヒューライツ大阪は、特に大阪府民・市民・企業などに対し、「国際人権基準」に関する理解を広げるとともに、人びとのさまざまなニーズに応える事業を継続する。とりわけ、マイノリティなど権利を侵害されやすい立場に置かれている人びとの人権状況に着目し、複合的・交差的な差別や権利侵害を受けている人びとに特に注意を払う。
(5)ヒューライツ大阪が事業を行うにあたっては、専門的な知識、経験を持つ個人や団体との協力により活動範囲を広げ、事業の質を高め、より多くの人々に人権のメッセージが届き、ニーズに応えることができるよう努める。
ヒューライツ大阪の人的・財政的資源は、2018年度も前年同様に限られているが、上記に掲げた目標に向かって期待される役割を担うため、様々な人権課題の中から取り組むべきテーマとして、以下のような重点事業を設定する。
(1)世界人権宣言70周年を記念する事業
(2)ウェブサイト、フェイスブック、ツイッター、Eメールなど、インターネットを駆使した情報発信
(3)大阪をはじめ日本、そしてアジア・太平洋地域における国際人権基準の普及促進
ア) 特に関心を向けるべき人権課題:日本およびアジア・太平洋地域における被差別グループや権利が侵害されやすい人たちの人権課題に関するセミナーを開催する。とりわけ、マイノリティ女性など複合的・交差的な差別を受けている人たちや移住者の人権課題に焦点をあてる。
イ) 企業と人権:とりわけ日本で活動する企業を対象に、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする国際基準を普及していく。
ウ) 日本およびアジア・太平洋地域における人権諸条約の実施状況に関する情報収集と発信をおこなう。
① 日本語と英語のウェブサイトのコンテンツ充実と発信力の強化
日本語サイトは、タイムリーな人権ニュースやヒューライツ大阪の活動を紹介する「お知らせ」を迅速に掲載するとともに、国際人権基準に関するわかりやすいコンテンツを充実させる。英語サイトは、トップページのリニューアル後、引き続き日本の人権問題およびアジア地域における人権課題に関してより多く発信することに努める。
データ量が増え複雑化したコンテンツの構成を整理し、見やすく、探しやすく、使いやすくすることに注力する。
また、ウェブサイトによる情報発信と並行し、フェイスブックやツイッターなどSNSの活用による発信方法の多面化を図り、受信者の対象拡大など発信効果の向上に努める。
② 国内外の会議参加や団体訪問を積極的に推進
最新情報の収集、ネットワーク強化のため、国内の会議参加や団体訪問を積極的に行う。活動から得られる成果をウェブサイト、ニュースレター、SNSなどを通して情報発信する。
海外出張については、8月の国連人種差別撤廃委員会による日本政府報告書審査など、会議の趣旨と期待される効果を勘案して重要度の高い会議に参加する。さらに、電子媒体などを活用してアジア・太平洋地域において人権条約の実施に取り組んでいる団体とのネットワーク強化に努める。
③ 資料の収集・整理
アジア・太平洋地域の人権状況や人権教育、国際人権基準に関する資料を収集し、資料閲覧に訪れた府民・市民の利用に供する。2018年1月末時点の所蔵図書(逐次刊行物除く)は9,894点で、所蔵数は多くないものの貴重なものを含んでおり、書誌情報の管理を維持する。また重点事業に関する資料は積極的に収集する。貸出サービスについては貸出対象を広げたり、資料収集に関する情報を公開するなどし、利用促進を図る。
① 「企業の社会的責任と人権」の普及と促進
重点事業のひとつとしてプログラムを進めてきた経験と蓄積に基づき、2018年度も以下の事業を実施する。
(1) 『人を大切に―人権から考えるCSRガイドブック』(第三版)とeラーニング教材の普及に努めるとともに、「ビジネスと人権」をわかりやすく解説したパンフレットを作成して普及の裾野をさらに広げる。
(2) 企業のCSR・人権研修担当者向けに人権の社内浸透のためのセミナーを開催する。
(3) ビジネスと人権をめぐるテーマで企業向けのセミナーを開催する。
(4) 市民・ NGO向けのセミナーを開催する。
(5) ウェブサイトの「企業と人権」セクションを充実させるとともに、「メールニュース〔企業と人権〕インフォ」を引き続き発信する。
(6) 「ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォーム」「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」など、関係団体や個人とのネットワークを発展させ、連携と情報収集に努める。
② 対話を通じた人権教育ワークショップの実施
2017年度は、新規事業としてヘイトスピーチに関する教育に特化して内外の教材、教案などに関する情報収集を行うとしたが、専門家の助言を受け、人権教育の課題とニーズを丁寧に把握するために、地域社会において人権教育を実践している人たちと連携し、少人数での対話型ワークショップを行うことにシフトした。2018年度は前年度の事業を引き継ぎ、さらに事業の実施を重ねることにより、ヘイトスピーチや排外的な意識に抗するための教育を含め、今の人権教育に必要な視点や資源を提供することができるアウトプットに向けた準備を進める。
③ スタッフ研修
スタッフの業務に必要なスキルや知識を向上させるための研修を実施する。
① 世界人権宣言70周年記念事業 その1―人権シンポジウム
世界人権宣言採択70周年の記念事業として、国際人権基準からみた日本の人権状況に関して、身近なテーマに沿いつつ広い視野からの議論を行うことを目的に、大阪でシンポジウムを開催する。実施にあたっては、これまで協力関係を築いてきた組織・団体との協働の可能性を探り、より効果的な取り組みになるように努める。
② 世界人権宣言70周年記念事業 その2-映像上映会を通じて人権を考える
世界人権宣言採択70周年の記念事業として、人権に関する国内外の見応えがあり魅力的な作品を専門家の協力を得ながら探し、広く府民・市民に向けた上映・学習会をおこなう。特にこれまで人権を身近に感じる機会がなかった人たちが、人権の意義や内容の理解を深める契機とする。
③ 国際人権条約の国内実施のモニタリング
国連の人権条約監視機関によって、日本政府に対する勧告のフォローアップを行う。とりわけ、2018年8月の人種差別撤廃委員会、および2018年9~10月の子どもの権利委員会による日本政府報告書審査の結果について、関連団体と協力してセミナーを開催するなど府民・市民に対する情報提供と啓発を図る。
またヘイトスピーチをめぐる課題に関して、大阪市の条例、国の法律の実施状況をフォローするとともに、他の自治体の取り組みの動向に関して情報収集や啓発活動を行う。
④ 移住者の人権に関する情報収集・啓発
移住者や外国につながる子どもたちの直面する課題に関する情報を当事者や支援者、市民に伝える。とりわけ、外国人技能実習制度および新たに追加された介護労働者の受け入れ、および大阪特区など国家戦略特区への「家事支援人材」(家事労働者)の受け入れについて情報収集し、ウェブサイトやセミナー開催を通じて広く市民に情報を伝える。
また、外国にルーツのある当事者や支援に取り組むNGOと協力して、移住者・移住労働者のもたらす肯定的な側面に光をあてながら、多民族・多文化共生社会の実現を考えるセミナーを開催する。
⑤ マイノリティ女性に対する複合差別に関する情報収集・啓発
2016年度後半に立ち上げた複合差別研究会の成果や当事者団体との協力・連携を通じて、マイノリティ女性に対する複合差別に関する新しい動向などに関する情報を積極的に収集し、ウェブサイトや学習会などを通じて発信する。
⑥ 受託研修
ヒューライツ大阪のスタッフの講師派遣について引き続き広報し、自治体、学校、NPO/NGO、企業、宗教団体などが企画する人権研修を受託する。また、大学などの研究調査に関わる業務協力についても、ヒューライツ大阪の活動趣旨に適う場合には積極的に受託する。
⑦ ワン・ワールド・フェスティバルなどイベントへの参加
国際協力に関わるNGO、大学、政府機関、国連機関が大阪に集まり活動紹介や交流イベントを行う「ワン・ワールド・フェスティバル」など、参加することによって、ヒューライツ大阪の活動を広く伝えることができるイベントに積極的に参加する。
⑧ インターン受入れ・人材養成事業
人員体制を考慮しつつ、国内外の大学院生・大学生などからのインターンの希望があれば引き続き受け入れる。インターン生がヒューライツ大阪の事業に関わる機会を設け、実務経験の場を提供することで、国際人権基準を理解する人材の育成に資するとともに情報受発信の充実にもつなげる。
⑨ 共催事業: NPO/NGO、学校関係などの団体との協力・共催事業の推進
ヒューライツ大阪の活動の趣旨と合致するセミナー開催などの事業を、他団体との協力や共催によって積極的に推進することで、ヒューライツ大阪の企画の充実と新しい層との出会いを期するとともに、ネットワーク強化、およびヒューライツ大阪の認知度を高める。
⑩ タイムリーな機会を得た学習会
当初の事業計画に含まれていない場合でも、タイムリーなテーマや重点課題に関連する企画などの機会を得た場合、必要に応じて学習会を開催し、府民・市民に人権情報を提供する。
① ニュースレター「国際人権ひろば」「FOCUS」の発行
国内外の人権の最新情報を広く発信するとともに、ヒューライツ大阪の会員や関係者とのネットワークの媒体として、ニュースレターを引き続き発行する。日本語の「国際人権ひろば」は年6回2000部、英語の「FOCUS」は年4回300部発行する。「FOCUS」は郵送するとともに電子ファイル化し(PDF、HTML)、国内外に送信する。
また日英のニュースレターの記事は、ウェブサイトに継続して掲載する。国内外のニーズに応えるコンテンツとして内容の充実、および読みやすさを追求する。
② “Human Rights Education in the Asia-Pacific(アジア・太平洋における人権教育)”(英語)Vol.9の出版
毎年、アジア・太平洋地域の学校教育および生涯教育を含む幅広い人権教育の実践報告を収集・出版している。書籍はアジア各国の人権機関、NGO、政府機関等に配布するとともに、全文をウェブサイトに掲載している。この事業を通じて、地域における人権教育に関する情報を蓄積している。
① 会員の拡大と会員サービスの充実
ヒューライツ大阪の支援者を増やし、安定した収入を確保するために、リーフレットの活用などによって継続して会員の維持と拡大を図る。事業参加費の割引・無料などの会員サービスを積極的に伝えることを含め、機会をとらえて会員募集の広報を行う。
② Eメールインフォの発行
ヒューライツ大阪のセミナーやウェブサイトの更新の情報などを、個人・団体に、継続的に伝えるために「Eメールインフォ」および「企業と人権インフォ」を発信する。また、会員、役員に対しては、より詳しい情報を提供する「Eメール会報」を引き続き送信する。
③ 情報・研修などについて国内外からの相談、見学訪問
ヒューライツ大阪が蓄積する資料・情報や研究・研修に関する相談に応じるとともに、適切な人権関連機関を紹介するなどの情報サービスに努める。また会員からの人権啓発・研修の企画に関する相談があれば、積極的にサポートする。教育関係団体の見学希望についても、可能な限り対応する。