2021年度も、引き続き、新型コロナウイルス感染症に翻弄された1年となった。日本では、第5波で収束に向かうという希望が感じられた時期があったものの、感染力が強い新たな変異種の出現により、先が見通せない毎日が続いている。パンデミックが収束しない要因の一つには、圧倒的なワクチン格差・ワクチン不平等がある。国連が言う「全ての人が安全になるまでは誰も安全でない」ことをつくづくと感じさせられる日々であり、パンデミックからの回復には人権理解と人権保障が不可欠であることを改めて思い知らされる。
現時点での状況を踏まえるならば、2022年度中にパンデミックから完全な収束することは見込めないとの見通しを立てざるを得ないと考え、2022年度もコロナ対応を念頭に置いた事業計画に基づいて事業を実施する。そのうえで、2021年度に引き続き、ウェブサイトの充実を始め、これまで十分に時間を割くことができなかった事業に取り組み、「情報ハブとしての機能強化」をさらに推進したいと考えている。
長引くパンデミックにより、これまでもあった格差、貧困、不平等が一層、拡大している。生活困窮者の急増、セーフティネットの乏しさ、シングルマザーの苦境に代表されるジェンダー不平等の悪化、不安が生む偏見や差別、失業・排除・孤立による自殺者の増加、ジェンダーに基づく暴力の深刻化、技能実習生を含む移民・移住労働者の困難、不公正なワクチン供給体制、感染抑え込みの名の下に導入される市民的自由の制限等、新型コロナウイルス感染症に付随する様々な人権課題が明らかになっている。
こうした課題に十分に留意し、勉強会やセミナーの開催を通じ、パンデミックからの回復を日本における人権意識の浸透、そしてSDGs(持続可能な開発目標)が謳う「誰一人取り残さない世界」に向けた変革のチャンスにするべきであるとも考えている。そのような背景を踏まえ、引き続き、SDGsとの関連を十分に意識して事業を実施することに留意する。また、これまで同様、定款第3条に示されている「人権を通じた大阪府民の国際的な人権感覚の醸成への寄与」を具体的かつ効果的に展開することに心を砕く。
事業実施にあたっては、ヒューライツ大阪が掲げてきた以下の指針を、引き続き尊重する。
(1)ヒューライツ大阪が伝える人権は「国際人権基準」である。それは、人が人間らしく生きるために、また公平で公正な社会をつくるためになくてはならないものである。
(2)わかりやすく身近で大切な概念として「国際人権基準」を伝える。ウェブサイトやSNSによる効果的な情報発信に努め、セミナー、研修などさまざまな機会を活用する。
(3)2009年に取得した国連の特殊協議資格を活用し、条約監視機関による日本報告書審査を始め、国連を通じた国際人権保障を目的とする活動に積極的に関わる。
(4)特に大阪府民・市民・企業に対し、「国際人権基準」に関する理解を広げ、さまざまなニーズに応える事業を実施する。マイノリティなど権利を侵害されやすい立場に置かれている人々、なかでも複合的・交差的な差別や不平等を被っている人たちの人権状況に特に注意を払う。
(5)専門的な知識、経験を持つ個人や団体との協力により活動の幅を広げ、事業の質を高め、より多くの人々に人権のメッセージを届け、人権課題の解決に貢献できるよう努める。
また、ヒューライツ大阪の今後を踏まえ、2022年度は以下の諸点を検討することとする。
①組織の今後を見通した重点事業分野の再検討
②重点事業分野を担う人材の確保
③勤務体制を含めた人的資源の配置
2022年度の事業実施にあたっては、以下を重点課題とする。
【外国籍市民の権利をめぐる諸課題】
在日コリアンなどに対するヘイトスピーチとヘイトクライムの問題。技能実習生をはじめとする移民・移住労働者。外国ルーツの子どもの教育。移民女性の権利。入管体制をめぐる課題。外国籍市民の社会参加。
【ジェンダー平等に関わる諸課題/不平等と差別の交差性・複合性】
ジェンダーに関連する差別・不平等・暴力。国籍、民族、障害、世系などのアイデンティティとジェンダーが交差する交差性・複合差別。SOGI(性的指向・性自認)に関連する人権課題。
【ビジネスと人権】
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を始めとする国際基準の浸透。企業を対象とする研修教材の普及。
【人権教育】
国内における効果的な人権教育の実施に結びつく活動の実施。マイクロ・アグレッションについての理解。包括的性教育。地域社会において人権教育を実践してきた人たちとの連携を通じた対話型ワークショップの開催や教材開発。
【国際人権基準の国内実施】
日本政府報告書審査の監視を含む国際人権条約の国内実施。国内人権機関の設置・個人通報制度の導入を規定する選択議定書の批准・包括的な差別禁止法の制定の推進に向けた取り組み。
【特に日本との関連でのアジア・太平洋地域における重大な人権状況】
独裁的・権威主義的国家における人権侵害。少数民族。ODAと人権。
【情報ハブとしての機能強化】
ウェブサイトの構造的改善。過去の情報・記事のアーカイブ化。インターネットやSNSを活用した効果的な情報発信。
① 日本語と英語のウェブサイトのコンテンツ充実と発信力の強化
2021年11月に日本語サイトのデザインを一新するとともに、各ページの上部にコンテンツのメニューバーを設置して、より容易に閲覧できるようリニューアルした。また、スマホでも閲覧しやすい画面にした。2022年度も引き続き、データ量が増え複雑化したコンテンツの構成をさらに整理し、見やすく、探しやすく、使いやすくすることに努める。
日本語サイトのトップページでは、タイムリーな人権情報「ニュース・イン・ブリーフ」や、主催・共催セミナーの概要報告をはじめとするヒューライツ大阪の活動を紹介する「お知らせ」を迅速に掲載する。国際人権基準に関わるコンテンツの一層の充実を図る。英語サイトは、日本における人権問題およびアジア地域における人権課題をより多く発信することに努める。
また、ウェブサイトによる情報発信と並行し、フェイスブック、ツイッターなどSNSによる発信に引き続き努め、受信者の対象拡大など発信効果の向上を図る。
② 国内外のオンライン会議・セミナーに積極的に参加
最新情報の収集、ネットワーク強化のため、国内の会議・セミナーへの参加に努める。新型コロナ感染症拡大防止のため対面会議の開催が不透明であるなか、2022年度もオンラインでの会議に積極的に参加する。海外出張については、新型コロナ感染症の収束状況をみながら実施を判断する。会議・セミナー参加から得られる成果をウェブサイト、SNS、ニュースレター「国際人権ひろば」などを通して情報発信する。
③ 資料の収集・整理
国際人権基準や人権教育に関する資料、重点テーマに関する日本をはじめとするアジア・太平洋地域の人権情報の資料を重点的に収集し、資料閲覧に訪れた府民・市民の利用に供する。2022年1月末時点の所蔵図書(逐次刊行物除く)は10,477点であるが、公共図書館では所蔵していない貴重なものを含んでおり、書誌情報の管理を維持する。また重点事業に関する資料は積極的に収集する。貸出サービスについては引き続き、会員の紹介者への貸出など貸出対象を広げたり、収集資料に関する情報をウェブサイトやEメール会報・インフォで発信したりするなど、利用促進を図る。
① 「企業の社会的責任と人権」の普及と促進
重点事業の一つとして取り組んできた経験と実積に基づき、2022年度も以下の事業を実施する。ESG投資の拡大や「ビジネスと人権に関する行動計画」の策定(2020年10月)などに伴う関心の高まりに留意しながら、人権の共通理解にはなお至っていない企業社会に対して、人権の普及というヒューライツ大阪のミッションをベースに基本的な視角を提供することを念頭におく。
1.「ビジネスと人権」に関わる基本的な内容の企業への浸透を引き続き重視し、2021年度に改定した『人を大切に―「ビジネスと人権」ガイドブック』の普及に努める。併せて、「ビジネスと人権」を分かりやすく伝える簡易なパンフレットを作成する。
2.『人を大切に』に準拠しているeラーニング教材の必要な修正を行い、引き続き普及に努める。
3.企業における人権やCSR担当者をターゲットに、ビジネスと人権の基本的な内容を分かりやすく伝えるセミナーを企画、実施する。
4.「ビジネスと人権」や「SDGsと人権」など、幅広く普及させるべきテーマのセミナーなどを、企業だけでなく市民・NGOも含めてターゲットとし、企画、実施する。
ウェブサイトや「企業と人権Eメールインフォ」を活用し、ビジネスと人権に関する情報発信力を高める。「ビジネスと人権市民社会プラットフォーム」「SDGs市民社会ネットワーク」「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」など、市民社会組織や個人とのネットワークを発展させ、協力・連携関係の強化に努める。
② 人権教育推進のためのプログラム実施
2021年度に引き続き、セミナーの企画とウェブサイトのコンテンツ充実については、専門家の助言を受けながら事業を進めていく。当面は、オンラインでの開催が中心になるが、社会的マイノリティの人権問題への理解やヘイトスピーチやマイクロ・アグレッションなどに対処する教育実践、性と生殖に関する健康・権利に関わる教育などを積極的に紹介する。また、2年越しの延期になっている地域コミュニティと連携した少人数での対話型ワークショップは実施条件が整えば再開する。
③ スタッフ研修
スタッフの業務に必要なスキルや知識を向上させるための研修を実施する。
① 国際人権条約の国内実施のモニタリング
2022年に予定されている障害者権利条約の第1回日本政府報告書の審査(8月)、自由権規約の第7回日本政府報告書の審査(10月)に関して情報収集・発信をする。また、コロナ禍で延期されている女性差別撤廃条約などの第9回日本政府報告書の審査に関わる国連条約機関の動向とNGOの取り組みの情報収集に努める。
2023年1月~2月に予定されている国連人権理事会のもとでのUPR(普遍的・定期的レビュー)第4回日本報告審査の情報収集・発信に努める。
ヘイトスピーチ・ヘイトクライムをめぐる課題に関して、国の「ヘイトスピーチ解消法」、および大阪府・市など各地の条例の実施状況や実効性をフォローする。
② 移民・ 移住労働者の人権に関する情報収集・啓発
移民・移住労働者など外国籍市民や外国につながる子どもたちの直面する課題、入管体制をめぐる問題などに関する情報を当事者や支援者、市民に伝える。コロナ禍における移民・移住者の人権課題に関して引き続き情報発信する。
また、2018年に国連が採択した「移住グローバル・コンパクト」(安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト)と「難民グローバル・コンパクト」の日本の実施状況についてモニターする。とりわけ、「移住グローバル・コンパクト」の各国による実施促進を目的に国連が2022年5月に開催を計画している「レビューフォーラム」に関して情報収集する。
2022年は、法務府(現、法務省)民事局長通達に基づき、サンフランシスコ講和条約の発効を契機に旧植民地出身者が日本国籍を喪失した1952年から70年目にあたる年である。在日コリアンをはじめとする外国籍市民の社会参加に関して、幅広く市民社会組織と協力し、オンライン・セミナーを開催するなど、多民族・多文化共生に向けた啓発活動に取り組む
③ 人権映画の上映会
2021年度に引き続き、大阪市立男女共同参画センターと共催で人権映画の上映会を開催する。人権を身近に感じる機会がなかった人たちが、人権の意義や内容の理解を深める契機となるような映画を上映するとともに、ヒューライツ大阪の認知度を高める場とする。
④ 交差性・複合差別の情報収集と学習会
2021年度に実施したウェブサイト全体のリニューアルにあわせ、「マイノリティ女性」というカテゴリーを「交差性・複合差別」と改称し、「複数のアイデンティティが交差することにより様々な差別を複合的に受ける人たち」の課題についての情報発信を強化した。「当事者の声」を始めとするコンテンツの充実と、交差性・複合差別に関するセミナーなどの企画を実施するため、このテーマに詳しい専門家に委託して作業を進める。
⑤ 受託事業
ヒューライツ大阪のスタッフの講師派遣について引き続き広報し、自治体、学校、NPO/NGO、企業、宗教団体などが企画する人権研修を受託する。また、大学や研究機関、公益法人などの研究調査に関わる業務協力についても、ヒューライツ大阪の活動趣旨に適う場合には積極的に受託する。
⑥ 「ワン・ワールド・フェスティバル for Youth」などイベントへの参加
国際協力に関わるNGO、大学、政府機関、国連機関が大阪に集まり活動紹介や交流イベントを行う「ワン・ワールド・フェスティバル for Youth」などに参加し、ヒューライツ大阪の活動を広く伝える。ワークショップなどの企画も積極的に検討する。
⑦ 共催事業:NPO/NGO、学校関係などの団体との協力・共催事業の推進
ヒューライツ大阪の活動の趣旨と合致するセミナーなどの事業を、他団体と協力し共催することによって、ヒューライツ大阪の企画の充実を図るとともに新しい層への啓発を模索し、ネットワーク強化、およびヒューライツ大阪の認知度を高める。
⑧ タイムリーな機会を得た学習会
人権に関する様々なトピックを切り口にして、わかりやすく親しみやすい学習会「じんけんカタリバ」を2022年度も開催する。
2021年の軍事クーデター後のミャンマー情勢と日本政府の公的資金、および日本企業のビジネスをめぐる課題について、また、アフガニスタンの状況や中国の人権状況に関して、学習会の開催・共催を検討する。
また、2022年は沖縄が日本に復帰して50年目にあたることから、平和と人権の視点から基地問題をはじめ沖縄と「本土」の関係を考えるための企画を追求する。
その他、タイムリーなテーマや重点課題に関連する企画に関わる機会を得た場合、必要に応じて学習会を開催し、府民・市民に人権情報を提供する。
⑨ インターン受入れ・人材養成事業
インターン生がヒューライツ大阪の事業に関わる機会を設け、実務経験の場を提供することで、国際人権基準を理解する人材の育成に資するとともに情報発信の充実にもつなげようと推進してきた。感染拡大中は、基本的に受け入れを見合わせるなど、新型コロナ感染拡大状況を見ながら判断していく。
① ニュースレター「国際人権ひろば」、「FOCUS」の発行
国内外における人権に関する最新の動きや重要なトピックを伝えると同時に、ヒューライツ大阪の会員や関係者とのネットワークの媒体として、ニュースレターを引き続き発行する。日本語の「国際人権ひろば」は年 6回(各2,000部)、英語の「FOCUS」は年4回発行する。
「FOCUS」は、これまで国内外に紙媒体で郵送してきたが(各200部)、電子ファイル(PDF、HTML)での送信に切り替え、紙媒体での郵送を希望するなど必要な団体に限って郵送する。
日英のニュースレターの記事は、ウェブサイトに継続して掲載する。国内外のニーズに応えるコンテンツとして内容の充実、および読みやすさを追求する。
② "Human Rights Education in the Asia-Pacific"vol.12の発行(アジア・太平洋における人権教育)(英語)
アジア・太平洋地域の学校教育および生涯教育を含む幅広い人権教育の実践報告を収集し、編集発行してきたが、2021年度からサイトへの掲載のみとし、希望するアジア各国の人権機関、NGO、政府機関などにPDF配信する。この事業を通じて、地域における人権教育に関する情報を蓄積している。2022年度は "Human Rights Education in the Asia-Pacific"vol.12の企画編集を行う。
① 会員の拡大と会員サービスの充実
ヒューライツ大阪の支援者を増やし、安定した収入を確保するために、リーフレットの活用などによって継続して会員の維持と拡大を図る。事業参加費の割引・無料などの会員サービスを積極的に伝えることを含め、機会をとらえて会員募集の広報を行う。
② Eメールインフォ・会報の発信
ヒューライツ大阪が開催するセミナーや、ニュース・イン・ブリーフをはじめウェブサイトの更新情報などを個人・団体にタイムリーに伝えるために、「Eメールインフォ」および「企業と人権Eメールインフォ」を発信する。また、会員・役員に対しては、より詳しい情報を提供する「Eメール会報」を引き続き発信する。
③ 情報・研修などについての国内外からの相談への対応
ヒューライツ大阪が蓄積する資料・情報や研究・研修に関する相談に応じるとともに、適切な人権関連機関を紹介するなどの情報サービスに努める。また会員からの人権啓発・研修の企画に関する相談があれば、積極的にサポートする。