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ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

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  4. 2024年度事業計画

2024年度事業計画

もくじ
I. 基本方針
II. 個別事業概要

I.基本方針

 人権を根底から脅かす脅威に社会と世界が翻弄される状況が続いている。日本で、世界で、課題が山積している。
 2023年は、産業革命前に比べて1.48度の気温上昇という史上最高の平均気温を記録したが、深刻さを増すばかりの気候危機は、毎年のように激甚災害を引き起こし、私たちの街、社会インフラ、産業、生計と暮らしに深刻な影響を及ぼしている。世界に目をむけると、気候危機は水や燃料という生活にとって最も基本的な資源を枯渇させ、「途上国」の女性たちの労働負担がますます重くなっている。こうした危機は、「気候難民」と呼ばれる人たちを生み出しており、新たな緊張の発生も懸念されている。
 また、2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵略、2023年10月以降のパレスチナ・ガザにおける武力紛争の激化が、世界の不安定化を一気に加速させている。そのどちらもが多くの市民の命を奪い、また脅かしていることは言うまでもない。核戦争の脅威も深刻化している。言うまでもなく戦争・武力紛争は最悪の人権侵害であり、平和がなければSDGs(持続可能な開発目標)の達成も不可能である。少しずつ積み重ねられていたSDGsの進捗は一気に後退し、エネルギー危機、食料危機と飢餓の発生が懸念されている。経済の停滞が国際協力への支出に影響を及ぼせば、教育や保健関連の不平等がさらに悪化することが懸念される。そのどれもが重要な人権課題である。
 パンデミック下では、日本でも社会経済制度に埋め込まれた構造的な不平等や不公正が顕在化したが、その多くは、これまでも存在していたにもかかわらず、十分に対応できていなかった課題であった。新型コロナウイルス感染症が行動制限の対象でなくなり、街に賑わいが戻るのとあわせて、これらの不平等や不公正、女性、なかでもシングルマザーや移住女性が経験した不安定雇用を原因とする生活困窮、目に見えないウイルスへの不安が生んだ偏見や差別などの人権侵害も忘れられつつあるように思われる。コロナ禍が露呈させた人権意識の乏しさを検証し、国際基準の人権を日本で実現するための努力を強化する必要がある。そのためには、民主主義や人権確立の前提となる市民としての意識の涵養も不可欠である。
 2024年は、ヒューライツ大阪にとって設立30周年という記念の年にあたる。ヒューライツ大阪の使命である国際人権基準の日本における浸透と実現を念頭に置き、日本の課題を考えるなら、30周年を記念するための事業のテーマとしては、①包括的差別禁止法(あるいは包括的平等法)の制定、②国内人権機関の設置、③個人通報制度の受入れの3点を軸として事業を展開するのが適切ではないかと考える。また、どれほど2030年のSDGs達成が危機的な状況にあるとしても、私たちにはSDGsの各目標をあきらめるという選択肢はない。各目標を「誰一人取り残さずに」達成するために、2024年度も「SDGsの本質は人権」という立場に立った事業の展開を継続する。

 事業実施にあたっては、引き続き、ヒューライツ大阪が掲げてきた以下の指針であり原則を尊重する。また、定款第3条に示されている「人権を通じた大阪府民の国際的な人権感覚の醸成への寄与」を具体的かつ効果的に展開することに留意する。

(1)ヒューライツ大阪が伝える人権は「国際人権基準」である。それは、人が人間らしく生きるために、また公平で公正な社会をつくるためになくてはならないものである。

(2)一人ひとりにとって大切な概念として「国際人権基準」を伝える。そのためにウェブサイトやSNSを通じた効果的な情報発信に努め、セミナー、研修などさまざまな機会を活用する。

(3)2009年に取得した国連の特殊協議資格を活用し、国連を通じた国際人権保障を目的とする活動に積極的に関わる。

(4)様々な要因を理由とするマイノリティを始めとして、権利を侵害されやすい立場に置かれている人々、なかでも交差的・複合的な差別や不平等を被っている人たちの人権状況に特に留意し、さまざまなニーズに応える事業を実施する。

(5)専門的な知識、経験を持つ個人や団体との協力により活動の幅を広げ、事業の質を高め、大阪府民・市民・企業を始めとする、より多くの人々に人権のメッセージを届け、人権課題の解決に貢献できるよう努める。

また、ヒューライツ大阪の今後を展望し、2024年度も引き続き以下の諸点に留意する。

①組織の今後を見通した重点事業分野の再検討と絞り込み
②重点事業分野を担う人材の確保
③勤務体制を含めた人的資源の適正な配置

 2024年度は、以下の重点課題を中心に事業を実施する。

2024年度の重点分野

【30周年記念事業】
 前述したとおり、国際人権基準を実現するための基本的なインフラであり、他の多くの国で既に実現している①包括的差別禁止法(あるいは包括的平等法)の制定、②国内人権機関の設置、③個人通報制度の受け入れを軸として、30周年記念事業を実施する。

【国際人権基準の国内における浸透と実現】
 日本政府報告書審査に向けた市民社会レポートの作成協力、審査時の傍聴や委員への情報提供、勧告実施を始めとする国際人権条約の国内実施のモニタリング。国内人権機関の設置、個人通報制度の導入を規定する選択議定書の批准、包括的な差別禁止法の制定の推進に向けた取り組み。

【外国籍市民の権利をめぐる諸課題】
 在日コリアンなどに対するヘイトスピーチおよびヘイトクライム。技能実習制度から育成就労制度への移行をはじめとする移民・移住労働者をめぐる課題。外国ルーツの子どもへの教育。移民女性の権利。入管体制をめぐる課題。外国籍市民の社会・経済参加。

【ジェンダー平等に関わる諸課題/不平等と差別の交差性・複合性】
 ジェンダーに関連する差別・不平等・暴力。国籍、民族、障害、世系などのアイデンティティとジェンダーが交差する交差性・複合差別。SOGIESC(性的指向・性自認・ジェンダー表現・性的特徴)に関連する人権課題。

【ビジネスと人権】
 国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を始めとする国際基準の浸透と実現。企業を対象とする研修教材の普及。

【人権教育】
 国内における効果的な人権教育の実施に結びつく活動の実施。マイクロ・アグレッションについての理解。包括的性教育。地域社会において人権教育を実践してきた人たちとの連携を通じた対話型ワークショップの開催。

【特に日本との関連でのアジア・太平洋と世界における重大な人権状況】
 独裁的・権威主義的国家における人権侵害。先住民族やマイノリティの人権課題。ODAと人権。

【情報ハブとしての機能強化】
 ウェブサイト構造の改善。過去の情報・記事のアーカイブ化。インターネットやSNSを活用した効果的な情報発信。

II.個別事概要

特別事業(ヒューライツ大阪設立30周年記念事業)

 基本方針でふれたように、2024年度は、1994年に財団法人アジア・太平洋人権情報センターとして出発し、2012年から一般財団法人アジア・太平洋人権情報センターとして活動を継続したヒューライツ大阪が設立30周年を迎える。重点分野に述べたとおり、その記念事業として、いまだ日本で実現していない人権保障システムにあたって不可欠な3つのインフラの実現、つまり、① 包括的差別禁止法の制定、② 国内人権機関の設立、③ 個人通報制度の受け入れをめざし、市民社会がより関心と理解を深め、実現に向かう気運を高める事業を実施する。具体的には、3課題についての連続講演会等を実施する。さらに設立より30年間、ヒューライツ大阪を支援いただいた諸団体や人権実現に向けたネットワークを構築してきた市民社会組織との交流を企画する。


1、情報収集・発信事業

① 日本語と英語のウェブサイトのコンテンツ充実と発信力の強化

 日本語サイトは、各ページの上部にコンテンツのメニューバーを設置し、どのページからでもサイト内移動を可能にしている。日本語サイトのトップページに掲載している主催・共催セミナーの案内や開催報告、タイムリーな人権情報「ニュース・イン・ブリーフ」、ヒューライツ大阪の活動を紹介する「お知らせ」の迅速な更新を行う。また、国際人権基準に関わるコンテンツの一層の充実を図るなど、データの蓄積を継続する。
 パソコンでもスマホでも容易に閲覧できるように設計しているが、データ量が増え複雑化しているコンテンツの構成を2023年度に引き続き、見やすく、探しやすく、使いやすくすることに努める。
 英語サイトでは、日本の人権問題について発信するとともに、在日外国人のための情報提供にも努める。アジア・太平洋地域の人権問題とそれに対する取り組みの紹介を引き続き行う。
 また、ウェブサイトによる情報発信と並行し、引き続きフェイスブック、XなどSNSによる発信に努め、受信者の拡大など発信効果の向上を図る。 

② 国内外のオンライン会議・セミナーに積極的な参加

 最新情報の収集、ネットワーク強化のため、対面およびオンラインによる会議・セミナーへの参加に努める。海外出張については、2024年10月に国連女性差別撤廃委員会による第9回日本政府報告書審査が8年ぶりに行われることから、ジュネーブに職員を派遣し、審査をモニターするとともに、委員への情報提供に努める。その他の海外出張については今年度の重点目標などに鑑み、必要性に応じてその都度実施を判断する。会議・セミナー参加から得られた情報をウェブサイト、ニュースレター「国際人権ひろば」、Eメール会報・インフォなどを通して発信する。 

③ 資料の収集・整理

 国際人権基準や人権教育に関する資料、重点テーマに関する日本を中心にアジア・太平洋地域の人権情報の資料を重点的に収集し、情報提供や資料閲覧に訪れた府民・市民の利用に供する。2024年1月末時点の所蔵図書(逐次刊行物除く)は10,587点であるが、公共図書館では所蔵していない貴重なものを含んでおり、書誌情報の管理を維持する。重点事業に関する資料は積極的に収集する。また資料の有効活用については今後の資料全体の規模や収集・整理の方針を検討する。 

2、調査・研究事業

① 「ビジネスと人権」

 重点事業の一つとして取り組んできた経験と実積に基づき、2024年度も以下の事業を実施する。その際、SDGsやESG投資の広がり、国の「ビジネスと人権に関する行動計画」やガイドラインの策定等に伴う関心の高まりを踏まえながら、人権の共通理解と社内浸透にはなお課題を残している企業セクターに対して、人権の普及というヒューライツ大阪の本来のミッションをベースに基本的な視角を提供することを念頭におく。
(1)「ビジネスと人権」サイト、eラーニング特設サイト、ニュース・イン・ブリー  フ、企業と人権Eメールインフォ、『人を大切に―「ビジネスと人権」ガイドブック』、同eラーニング教材、セミナーなどの機会を活用することによって、「ビジネスと人権」の考え方を企業に普及させることに引き続き努める。

(2)企業の人権及びサステナビリティ担当者をターゲットに、ビジネスと人権の基本的な内容を分かりやすく伝えるセミナーを実施する。 その際、企業団体や個社との交流や情報交換を通じるなどして企業が抱える課題やニーズの把握に努める。

(3)「ビジネスと人権」「SDGsと人権」など、幅広く普及させるべきテーマのセミナーなどを企画、実施する。

(4)「ビジネスと人権市民社会プラットフォーム」「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」「SDGs市民社会ネットワーク」など、市民社会組織や個人とのネットワークを発展させ、協力・連携関係の強化に努める。

② 人権教育推進のためのプログラム実施

 2023年度に引き続き、人権教育の専門家の助言を受けながら、人権教育推進に資するセミナーの企画およびウェブサイトのコンテンツの見直しと充実を図る。参加型のワークショップやオンラインセミナー、あるいはハイブリッド形式などを検討しながら、社会的マイノリティの人権課題やマイクロ・アグレッションなどに対処するための教育実践などを積極的に紹介する。

③ スタッフ研修

 スタッフの業務に必要なスキルや知識を向上させるための研修を実施する。

3、研修・啓発事業

① 国際人権条約の国内実施のモニタリング

 2024年10月に実施される国連女性差別撤廃委員会による第9回日本政府報告書審査に職員を派遣する。審査に先立ちJNNC(日本女性差別撤廃NGOネットワーク)など市民社会組織によるNGOレポート作成に協力し、審査後は報告会を開催したり、ニュースレターを通じた情報発信を行い、総括所見(懸念と勧告)の普及・啓発に努める。
 日本への訪問調査を実施した「国内避難民の人権に関する国連特別報告者」(2022年)および「ビジネスと人権に関する作業部会」(2023年)による報告書(後者は2024年6月の人権理事会に提出予定)に盛り込まれた日本への勧告の市民社会への普及を図る。
 ヒューライツ大阪設立30周年記念事業と連動させながら、①包括的差別禁止法の制定、②国内人権機関の設立、③個人通報制度の受け入れという3つの人権インフラの実現の推進に向けて情報発信を行う。
 ヘイトスピーチ・ヘイトクライムをめぐる課題に関して、国の「ヘイトスピーチ解消法」、および大阪府・市など各地の条例の実施状況や新たな整備状況について情報発信する。 

② 移民・ 移住労働者の人権に関する情報収集・啓発

 移民・移住労働者など外国籍市民や外国につながる子どもたちの直面する課題に関する情報を広く当事者や支援者、市民に伝える。
少子高齢社会における労働者不足への対応策として外国人労働者の受け入れ拡大が進むなか、
 30年以上にわたり、人権侵害が国内外で指摘されてきた技能実習制度が見直され、2024年度に育成就労制度へと移行する見込みである。新制度における労働者の人権状況に関する情報収集に努めるとともに、市民社会組織と協力して、移住労働者の人権が国際基準に基づき保障されるよう啓発に取り組む。
 また、2018年に国連が採択した「移住グローバル・コンパクト」(安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト)と「難民グローバル・コンパクト」の日本の実施状況についてフォローする。
 
③ 人権映画の上映会

 2023年度に引き続き、大阪市立男女共同参画センターと共催で人権をテーマにした映画の上映会を開催する。人権を身近に感じる機会がなかった人たちが、人権の意義や内容の理解を深める契機となるような映画を上映するとともに、ヒューライツ大阪の認知度を高める場とする。

④ 交差性・複合差別の情報収集と学習会

 日本の女性をめぐる人権課題の中でも特にマイノリティ女性の人権について、情報の受発信に努める。引き続き、当事者団体との協力・連携を通じて、ウェブサイトの改善と内容の充実を図る。

⑤ 受託事業

 ヒューライツ大阪のスタッフの講師派遣について引き続き広報し、自治体、学校、NPO/NGO、企業などが企画する人権研修を受託する。また、研究機関、公益法人などが実施する研究調査への業務協力についても、ヒューライツ大阪の活動趣旨に適う場合には積極的に受託する。

⑥ 「ワン・ワールド・フェスティバル for Youth」などイベントへの参加

 ヒューライツ大阪の活動を広く伝えることを目的に、国際協力のイベントに参加し、ワークショップなどを企画する。

⑦ 共催事業:NPO/NGO、学校関係などの団体との協力・共催事業の推進

 ヒューライツ大阪の活動の趣旨と合致するセミナーなどの事業を、他団体と協力し共催することによって、ヒューライツ大阪の企画の充実を図り、ネットワーク強化、およびヒューライツ大阪の認知度を高める。

⑧ タイムリーな機会を得た学習会

 人権に関する様々な身近なトピックを切り口にして、わかりやすく親しみやすい学習会「トークdeじんけん」を開催する。また新たな人権課題などに関して、タイムリーな学習会を主催・共催し、府民・市民に情報提供する。
その他、タイムリーなテーマに関して、必要に応じて学習会を主催・共催し、府民・市民に情報提供する。 

4、広報・出版事業

① ニュースレター「国際人権ひろば」、「FOCUS」の発行

 国内外における人権に関する最新の動きや重要なトピックを伝えると同時に、ヒューライツ大阪の会員や関係者とのネットワークの媒体として、ニュースレターを引き続き発行する。日本語の「国際人権ひろば」は年6回(各1,500部)、英語の「FOCUS」は年4回発行する。
「FOCUS」は、基本的にPDF配信とし、印刷媒体での郵送が必要な団体には郵送する。
日英のニュースレターの原稿は、継続してウェブサイトに掲載し、アーカイブ化する。国内外の情報ニーズに応えるコンテンツとして内容の充実、および読みやすさを追求する。

② "Human Rights Education in the Asia-Pacific"(アジア・太平洋における人権教育)vol.14の発行(英語)

 アジア・太平洋地域の学校教育および生涯教育を含む幅広い人権教育の実践報告を収集し、編集発行する。2021年度からはPDFでの発行とし、ウェブサイトに掲載している。この事業を通じて、地域における人権教育に関する情報を蓄積している。2024年度は "Human Rights Education in the Asia-Pacific" vol.14の企画編集を行う。

5、情報サービス事業

① 会員の拡大と会員サービスの充実

 ヒューライツ大阪の支援者を増やし、安定した収入を確保するために、リーフレットの活用やイベント時のQRコード配信などによって会員の維持と拡大を図る。事業参加費の割引・無料などの会員サービスを積極的に伝えることを含め、機会をとらえて会員募集の広報を行う。

② Eメールインフォ・会報の発信

 ヒューライツ大阪が開催するセミナーや、ニュース・イン・ブリーフをはじめウェブサイトの更新情報および収集資料に関する情報などを個人・団体にタイムリーに伝えるために、「Eメールインフォ」および「企業と人権Eメールインフォ」を発信する。また、会員・役員に対しては、より詳しい情報を提供する「Eメール会報」を引き続き発信する。 

③ 情報・研修などについての国内外からの相談への対応

 ヒューライツ大阪が蓄積する資料・情報や研究・研修に関する相談に応じるとともに、適切な関連機関を紹介するなどの情報サービスに努める。また会員からの人権啓発・研修の企画に関する相談があれば、積極的にサポートする。個別の人権相談については、ヒューライツ大阪は人権相談機能を有していないことから、内容に応じて適切な団体・機関の紹介に努める。