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ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

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2025年度事業計画

もくじ
I. 基本方針
II. 個別事業概要

I.基本方針

 人権をめぐる世界の状況に明るい兆しは見えない。2025 年1 月20 日に発足したアメリカの第二次トランプ政権は、DEI(多様性・公平性・包摂性)政策の撤廃、国内外における妊娠中絶への支援停止、性の多様性の否定など、人権に関する理解の進展を真っ向から否定する政策を打ち出している。大統領令からは、トランスジェンダー差別、そしてジェンダー概念さらにジェンダー平等への敵意が露わである。グリーンランドに関する野望、そしてウクライナ、パレスチナ・ガザ地区での紛争へのアメリカの対応からは、完全な形ではなかったにせよ、第二次大戦後、国際社会が尊重してきた国家主権や民主主義を一顧だにしない帝国主義的、植民地主義的姿勢が顕著にみてとれる。これらの政策には、既に多くの国で拡がりを見せている移民・難民への排外的姿勢を背景とする自国中心主義との親和性も存在し、多国間主義、そしてその下で発展してきた国際人権基準の将来が深く懸念される。
 日本に目を移すと、2024 年10 月に8 年ぶりにおこなわれた国連女性差別撤廃条約の日本政府報告書審査の総括所見で皇室典範における女性差別を指摘されたことをもって、日本政府は女性差別撤廃委員会の活動への拠出金使用除外を表明した。自国が歓迎しない指摘に対し、建設的な対話の回路を一方的かつ威圧的に閉ざす対応に対し、市民社会はどのように対応することが効果的なのか、深刻な課題として考える必要がある。
 2025 年は、第二次世界大戦終戦そして国連創設80 年、「日韓国交正常化」60 周年、女性差別撤廃条約締結40 周年、人種差別撤廃条約締結30 周年、北京宣言・行動綱領30 周年等、現在の世界と日本の人権状況を考えるうえで重要な節目の年にあたる。そして、ヒューライツ大阪は、昨年の設立30 周年を経て、新たな組織体制への移行を検討すべき時期を迎えている。昨年の理事会、評議員会で提起したように、現在の組織を資金面で支えている公的支出目的計画が2028 年度末に終了することを踏まえ、それ以降の組織体制を検討する必要がある。
 2022 年6月の評議員会での提起を踏まえ、2024 年度は、所内の将来検討委員会で、組織の今後を見据えた「将来ビジョン」の検討を重ねてきた。検討にあたっては、2024 年度の事業計画の基本方針で今後の方針として承認された以下の3 点、すなわち、①組織の今後を見通した重点事業分野の再検討と絞り込み②重点事業分野を担う人材の確保③勤務体制を含めた人的資源の適正な配置に則って、「将来ビジョン」の策定に取り組んだ。
 「将来ビジョン」では、設立以降、30 年の歴史と経験・知見を踏まえ、ヒューライツ大阪の今後のあるべき姿を提示している。この30 年間のアジアおよび太平洋の各国と日本の人権状況を比較した際に顕著なのは、国際人権基準の理解と受容に関する日本の「変化のなさ」と「変化の遅さ」である。韓国をはじめとする多くの国々で設立が実現した国内人権機関、多くの国が受け入れている個人通報制度、台湾、ネパール、タイで実現した同性婚の法制化をはじめとして、人権に関する理解と概念の深まりを受け、各国で実現してきた国際的な人権基準であり規範の受容に関し、日本ではほとんど変化が起きておらず、変化に対し後ろ向きとしか言えない状況が続いている。「将来ビジョン」で示しているように、今後は、日本における国際人権基準の実現に必要不可欠な3 つのインフラとヒューライツ大阪が考えてきた「国内人権機関」「個人通報制度」「包括的差別禁止法」に関する理解の浸透と実現に焦点を当てて取り組むこととする。
 「将来ビジョン」に則った事業実施にあたっては、引き続き、ヒューライツ大阪が掲げてきた以下の指針であり原則を尊重する。また、定款第3 条に示されている「人権を通じた大阪府民の国際的な人権感覚の醸成への寄与」を、より一層、具体的かつ効果的に展開することに留意する。

(1)ヒューライツ大阪が伝える人権は「国際人権基準」である。

(2)一人ひとりにとって大切な概念として「国際人権基準」を伝える。

(3)2009 年に取得した国連の特殊協議資格を活用し、国連を通じた国際人権保障を目的とする活動に積極的に関わる。

(4)様々な要因を理由とするマイノリティを始めとして権利を侵害されやすい立場に置かれている人々、なかでも交差的・複合的な差別や不平等を被っている人たちの人権状況に特に留意する。

(5)専門的な知識、経験を持つ個人や団体と協力し、活動の幅を広げ、事業の質を高め、人権課題の解決に貢献できるよう努める。

 2025 年度の重点課題は以下のとおりである。これまでの重点課題を踏襲してはいるが、「将来ビジョン」に示しているとおり、30 年間にわたりヒューライツ大阪が蓄積してきた比較優位を有する分野と課題により重点的に取り組むこととする。

2025年度の重点分野

【国際人権基準の国内における浸透と実現】
条約の日本政府報告書審査に向けた市民社会レポートの作成、審査時の条約体委員へのロビイング、勧告実施を始めとする国際人権条約の国内実施。国内人権機関の設立、個人通報制度の導入を規定する選択議定書等の締結、包括的な差別禁止法の制定推進に向けた取り組み。

【外国籍市民の権利をめぐる諸課題】
在日コリアンや在日クルド人などに対するヘイトスピーチおよびヘイトクライム。技能実習生をはじめとする移民・移住労働者。外国ルーツの子どもへの教育。移民女性の権利。入管体制をめぐる課題。外国籍市民の社会・経済参加。

【ジェンダー平等に関わる諸課題/不平等と差別の交差性・複合性】
ジェンダーに関連する差別・不平等・暴力。国籍、民族、障害、世系などのアイデンティティとジェンダーが交差する交差性・複合差別。SOGIESC(性的指向・性自認・ジェンダー表現・性的特徴)に関連する人権課題。

【ビジネスと人権】
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする国際基準の浸透と実現。企業を対象とする研修教材の普及。

【人権教育】
国内における人権理解の浸透に資する効果的な人権教育。マイクロアグレッション。包括的性教育。地域社会で人権教育を実践してきた人たちとの連携を通じた対話型ワークショップの開催や教材開発。

【特に日本との関連でのアジア・太平洋と世界における重大な人権状況】
独裁的・権威主義的国家における人権侵害。先住民族やマイノリティの人権課題。ODA と人権。

【情報ハブとしての機能強化】
ウェブサイトの構造的改善。過去の情報・記事のアーカイブ化。インターネットやSNS を活用した効果的な情報発信。

II.個別事概要

1、情報収集・発信事業

① 日本語と英語のウェブサイトのコンテンツ充実と発信力の強化

 日本語サイトは、各ページの上部にコンテンツのメニューバーを設置し、どのページからでもサイト内移動が可能である。日本語サイトのトップページに掲載している主催・共催セミナーの案内や開催報告、タイムリーな人権情報「ニュース・イン・ブリーフ」、ヒューライツ大阪の活動を紹介する「お知らせ」の迅速な更新を行う。また、国際人権基準に関わるコンテンツの一層の充実を図る。
 パソコンでもスマホでも容易に閲覧できるように設計しているが、2024 年度に引き続き、データ量が増え複雑化しているコンテンツの構成を見やすく、探しやすく、使いやすくすることに努める。また、ウェブサイトによる情報発信と並行し、引き続きSNS による発信に努め、受信者の拡大など発信効果の向上を図る。
 英語サイトでは、日本の人権問題について発信するとともに、在日外国人のための情報提供にも努める。
アジア・太平洋地域の人権問題とそれに対する取り組みの紹介を引き続き行う。 

② 国内外のオンライン会議・セミナーへの積極的な参加

 最新情報の収集、ネットワーク強化のため、対面およびオンラインによる会議・セミナーへの参加に努める。
海外出張については、将来ビジョンに基づいた重点分野に沿って、必要性に応じてその都度実施を判断する。
会議・セミナー参加から得られた情報をウェブサイト、ニュースレター「国際人権ひろば」、E メール会報・インフォなどを通して発信する。

③ 資料の収集・整理

 国際人権基準や人権教育、そして重点分野に関する日本や他国の人権情報の資料を重点的に収集し、情報発信や資料閲覧に訪れた府民・市民の利用に供する。2025 年1 月末時点の所蔵図書(逐次刊行物除く)は10,729 点であるが、公共図書館にはない貴重な図書が含まれている。予算に留意しつつ、重点事業に関する図書・資料は積極的に収集する。また収集資料をE メール会報・インフォなどを通して紹介する。 

2、調査・研究事業

① 「ビジネスと人権」

 重点事業の一つとして取り組んできた経験と実積に基づき、SDGs やESG 投資の拡がり、政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」やガイドラインの策定等に伴う関心の高まりを踏まえながら、人権の共通理解と社内浸透になお課題を残している企業セクターに対し、国際人権基準の普及というヒューライツ大阪の本来のミッションをベースに基本的な視角を提供することを念頭におく。
(1)「ビジネスと人権」サイト、e ラーニング特設サイト、ニュース・イン・ブリーフ、ビジネスと人権E メールインフォ、『人を大切に―「ビジネスと人権」ガイドブック』、同e ラーニング教材、セミナーなどの機会を活用することによって、「ビジネスと人権」の考え方を企業に普及させることに引き続き努める。
(2)企業の人権及びサステナビリティ担当者をターゲットに、ビジネスと人権の基本的な内容を分かりやすく伝えるセミナーを実施する。 その際、企業団体や個社との交流や情報交換を通じ、企業が抱える課題やニーズの把握に努める。
(3)「ビジネスと人権」「SDGs と人権」など、幅広く普及させるべきテーマのセミナーなどを企画、実施する。
(4)「ビジネスと人権市民社会プラットフォーム」「社会的責任向上のためのNPO/NGO ネットワーク」「SDGs 市民社会ネットワーク」など、市民社会組織や個人とのネットワークを発展させ、協力・連携関係の強化に努める。

② 人権教育推進のためのプログラム実施

 2024 年度に引き続き、人権教育の専門家の助言を受けながら、人権教育推進に資するセミナーの企画およびウェブサイトのコンテンツの更新と充実を図る。また、教育関係者のマイクロアグレッションに関する関心の高まりを受け、人権教育の専門家・研究者・実践者などの参加を得て、日本社会におけるマイクロアグレッションの現状を調査するプロジェクトを立ち上げる。

③ スタッフ研修

 スタッフの業務実施に必要なスキルや知識を向上させるための研修を実施する。

3、研修・啓発事業

① 国際人権条約の国内実施の推進とモニタリング

 2025 年は、日本が女性差別撤廃条約を締結して40 年、人種差別撤廃条約を締結して30 年にあたる。
2024 年10 月に行われた女性差別撤廃委員会による第9 回日本報告書審査をはじめ、これまで同委員会および人種差別撤廃委員会によって幾度も審査が行われ、日本に向けて数多くの勧告が出されてきた。それらの勧告の国内における法整備や施策への反映状況について検証する。
 とりわけ、日本が締結した人権条約の委員会や、国連特別報告者・作業部会などから、繰り返し勧告を受けている①国内人権機関の設立、②個人通報制度の受け入れ、③包括的差別禁止法の制定という3 つの人権インフラに関する理解の拡がりと実現の推進に向けて、2024 年度に引き続き情報発信に努める。
 また、各自治体の人権条例や子どもの権利条例などが国際人権基準に沿った内容になっているかどうかについて注視していく。
 さらに、2025 年から始まる国連の「人権教育世界プログラム」の第5 段階(2025-2029)に関する国際的な取り組みを紹介する。第5 段階の重点領域は、第4 段階に引き続き、若者および子どもであり、特にデジタル技術、環境や気候変動、ジェンダー平等に焦点を当てている。

② 移民・ 移住労働者の人権に関する情報収集・啓発

 移民・移住労働者など外国籍市民や外国につながる子どもたちの直面する課題に関する情報を広く当事者や支援者、市民に伝える。
 少子高齢社会における労働者不足への対応策として外国人労働者の受け入れ拡大が進むなか、2024年の国会で技能実習制度に替わる育成就労制度が新設されたが、新制度への移行に向けた動向の情報収集に努める。移住労働者の人権が国際基準に基づき保障されるよう情報発信に取り組む。
 また、女性差別撤廃委員会が2024 年10 月に公表した総括所見に盛り込まれた、ジェンダーに基づく暴力や、技能実習生の妊娠・出産をめぐる課題など、移民女性に関する勧告の実施状況についてモニターする。
 
③ 人権映画の上映会

 2024 年度に引き続き、大阪市立男女共同参画センターと共催で人権をテーマにした映画の上映会を開催する。人権を身近に感じる機会がなかった人たちが、人権の意義や概念の理解を深める契機となるような映画を上映するとともに、ヒューライツ大阪の認知度を高める場とする。

④ 交差性・複合差別の情報収集と学習会

 日本に暮らす女性をめぐる人権課題の中でも特にマイノリティ女性の人権について、情報の受発信に努める。引き続き、当事者団体との協力・連携を通じて、当事者の語りやエッセイの記事を積極的に発信するなどウェブサイトの改善と内容の充実を図る。
 また、2024年の女性差別撤廃委員会日本審査でのマイノリティ女性に関わる勧告の実現に向けた学習会の開催やサイトの充実を図る。

⑤ 受託事業

 ヒューライツ大阪のスタッフの講師派遣について引き続き広報し、自治体、学校、NPO/NGO、企業などが企画する人権研修を受託し、人権概念の理解の浸透に貢献すると同時にヒューライツ大阪の収入にもつなげる。また、研究機関、公益法人などが実施する研究調査への業務協力についても、ヒューライツ大阪の活動趣旨に適う場合には積極的に受託する。

⑥ 人権に関するイベント等への参加

 2024 年度は「おおさか人権フェスタ」や「ワン・ワールド・フェスティバル for Youth」などにブース出展やプログラム企画を通じて参加したが、2025 年度も各イベントの目的や効果を勘案しながらイベントに参加し、人権教育やヒューライツ大阪の活動の広報の機会とする。

⑦ NPO/NGO、学校関係などの団体との協力・共催事業の推進

 ヒューライツ大阪の活動の趣旨と合致するセミナーなどの事業を、他団体と協力し共催することによって、ヒューライツ大阪の企画の充実を図り、ネットワーク強化、およびヒューライツ大阪の認知度を高める。

⑧ タイムリーな機会を得た学習会

 人権に関する様々な身近なトピックを切り口にして、わかりやすく親しみやすい学習会「トークde じんけん」を開催する。また、タイムリーなテーマに関して、必要に応じて学習会を主催・共催し、府民・市民に人権課題に関する情報を提供する。

4、広報・出版事業

① ニュースレター「国際人権ひろば」、「FOCUS」の発行

 国内外における人権に関する最新の動きや重要なトピックを伝えると同時に、ヒューライツ大阪の会員や関係者とのネットワークの媒体として、ニュースレターを引き続き発行し配布する。日本語の「国際人権ひろば」は年6 回(各1,700 部)、英語の「FOCUS」は年4 回発行する。「FOCUS」は、基本的にPDF 配信とし、印刷媒体での郵送が必要な団体には郵送する。
 日英のニュースレターは継続してウェブサイトに掲載し、アーカイブ化する。人権に関心のあるユーザーの情報ニーズに応えるコンテンツとして内容の充実、および読みやすさを追求する。

② "Human Rights Education in the Asia-Pacific"(アジア・太平洋における人権教育)vol.15の発行(英語)

 アジア・太平洋地域の学校教育および生涯教育を含む幅広い人権教育の実践報告を収集し、編集発行する。2021 年度からはPDF で発行し、ウェブサイトに掲載している。この事業を通じて、地域における人権教育に関する情報を蓄積してきた。2025 年度は、年度末まに"Human Rights Education in the Asia-Pacific" vol.15 の企画編集と発行をおこなう。

5、情報サービス事業

① 会員の拡大と会員サービスの充実

 ヒューライツ大阪の支援者を増やし、安定した収入を確保するために、イベント時のQR コード配信などによって会員の維持と拡大を図る。事業参加費の割引・無料などの会員サービスを積極的に伝えることを含め、機会をとらえて会員募集の広報に努める。

② Eメールインフォ・会報の発信

 ヒューライツ大阪が開催するセミナーや、ニュース・イン・ブリーフをはじめウェブサイトの更新情報および収集資料に関する情報などを個人・団体にタイムリーに伝えるために、「E メールインフォ」および「企業と人権E メールインフォ」を発信する。また、会員に対しては、より詳しい情報を伝える「E メール会報」を引き続き発信する。

③ 人権情報・研修などについての国内外からの相談への対応

 ヒューライツ大阪が蓄積してきた資料・情報や研究・研修に関する相談に応じるとともに、適切な関連機関の紹介などに努める。また会員からの人権啓発・研修の企画に関する相談があれば、積極的にサポートする。
個別の人権相談については、ヒューライツ大阪には人権相談機能がないため、内容に応じて適切な団体・機関を紹介する。