国際標準化機構(ISO)から2010年11月に発行された社会的責任の国際規格(Guidance on Social Responsibility)です。①CSR(企業の社会的責任)ではなくSR(組織の社会的責任)であること、②認証を目的とした規格ではなくガイダンス規格であること、③産業界、労働、消費者、NGO、政府、有識者の各社会セクターの議論によるマルチステークホルダープロセスにより、先進国と途上国のバランスやジェンダーバランスも考慮しながら策定されたこと、が大きな特徴となっています。日本では、2012年3月にJISZ26000(社会的責任に関する手引)としてJIS規格化されています。
7つの「社会的責任の原則」(説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)と、7つの「中核主題」(組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展)が内容の骨格をなしていますが、「持続可能な発展」「ステークホルダーエンゲージメント」「デューディリジェンス」などの重要な概念への言及も含まれています。
中核主題の「人権」は8つの「課題」(デューディリジェンス、人権が脅かされる状況、加担の回避、苦情解決、差別及び社会的弱者、市民的及び政治的権利、経済的・社会的及び文化的権利、労働における基本的原則及び権利)から構成されています。
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■「社会的責任」
「組織の決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して、次のような透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任。
- 健康及び社会の福祉を含む持続可能な発展に貢献する。
- ステークホルダーの期待に配慮する。
- 関連法令を順守し、国際行動規範と整合している。
- その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される。
注記1 活動は、製品、サービス及びプロセスを含む。
注記2 関係とは、組織の影響力の範囲内の活動を指す。」(2.18 用語及び定義:社会的責任)
■「社会的責任の原則:人権の尊重」
「原則:組織は、人権を尊重し、その重要性及び普遍性の両方を認識すべきである。組織は、次の事項を行うべきである。
- 国際人権章典に規定されている権利を尊重し、可能な場合は、促進する。
- あらゆる国、文化及び状況において不可分に適用されるこれらの権利の普遍性を尊重する。
- 人権が保護されていない状況では、人権を尊重するための措置をとり、このような状況を悪用しない。
- 法又はその施行によって人権が適切に保護されていない状況では、国際行動規範の尊重の原則を守る。」(4.8 原則:人権の尊重)
■「デューディリジェンス」
「人権を尊重するため、組織は、デューディリジェンスを用いて、自らの行動又は自らと関係のある他者の活動から発生する人権への、現実の又は潜在的な影響を特定し、これらを防止し、これらに対処する責任を負っている。その組織が関与する人権侵害の原因が他者にあるかもしれないような場合には,デューディリジェンスが,その他者の行動に影響力を及ぼす責任を組織に自覚させることもあるかもしれない。
デューディリジェンスは,人権などあらゆる中核主題に適用されるため,デューディリジェンスについての詳細な手引を7.3.1 に記述している。人権に特定すれば、デューディリジェンス手順は、その組織の規模及び状況に適した形で、次のような要素を含むべきである。
- その組織内の当事者及びその組織に密に関連している当事者に有意義な手引を示せるような、その組織の人権方針
- 既存の及び提案されている活動が人権にどう影響するかを評価するための手段
- その組織全体に人権方針を統合するための手段
- 優先順位及び取組みに必要な調整を加えられるよう、長期にわたってパフォーマンスを追跡するための手段
- 自らの決定及び活動のマイナスの影響に対処するための行動」(6.3.3 人権に関する課題1:デューディリジェンス)
■「デューディリジェンス」
「社会的責任という背景の中でのデューディリジェンスは、組織の決定及び活動によって社会面、環境面及び経済面に引き起こされる現実の及び潜在的なマイナスの影響を回避し軽減する目的で、これらの影響を特定する包括的で先行的かつ積極的なプロセスである。
他者が人権その他の侵害の原因であることが判明し、その組織がそれに関わっているかもしれない場合には、他者の行動に影響力を及ぼすことも、デューディリジェンスに含まれるかもしれない。
あらゆるデューディリジェンスのプロセスにおいて、組織は、その組織が活動を行う国の背景、自らの活動が及ぼす潜在的及び現実の影響、並びにその活動がその組織の活動と深く関わっている他の事業体又は個人の行動によってマイナスの結果が生じる可能性を考慮すべきである。
その組織の規模及び状況に適した方法で、次の要素をデューディリジェンスのプロセスに含めるべきである。
- 関連性のある中核主題に関する組織の方針。これらの方針は、組織内部の者及びその組織と密接な関係をもつ者に有意義な手引を与える。
- 現在の活動及び提案されている活動が、それらの方針の目標にどのような影響を及ぼすかを評価する手段
- 社会的責任に関する中核主題をその組織全体に統合する手段
- パフォーマンスを長期にわたって追跡する手段。これによって、優先順位及び取組みに必要な調整を加えることができる。
- 自らの決定及び活動が及ぼすマイナスの影響に対処するための適切な行動」(7.3.1 デューディリジェンス)
■「差別」
「差別とは、平等な取扱い又は機会均等を無にする結果をもたらす区別、排除又は優先傾向をいい、その動機は合法的な根拠ではなく偏見に基づいている。違法な差別の根拠には、人種、皮膚の色、性別、年齢、言語、財産、国籍若しくは出身国、宗教、民族的若しくは社会的出身、カースト、経済的背景、障害、妊娠、先住民族の出自、労働組合への加入、政治的所属、又は政治的見解若しくはその他の見解が含まれる(ただし、これに限定されない。)。最近の違法な差別の根拠には、配偶者の有無、家族状況、個人的関係、HIV/エイズへの感染の有無などの健康状態も含まれる。差別の禁止は、国際的な人権法の最も基本的な原則の一つである。」(6.3.7 人権に関する課題5:差別及び社会的弱者)
■ステークホルダーエンゲージメント
「ステークホルダーエンゲージメントには、その組織と一人又は一組以上のステークホルダーとの間の対話が必要である。ステークホルダーエンゲージメントは、自らの決定に関し、情報に基づいた根拠を提供することによって、その組織の社会的責任の取組みを助ける。
ステークホルダーエンゲージメントは様々な形態を取り得る。組織の側から開始することもあれば、一人又は一組以上のステークホルダーへの組織からの応答として開始されることもある。非公式な会合又は公式な会合の形で行うこともできる。活動の形式としては、個人的な会合、会議、ワークショップ、公聴会、円卓会議、諮問委員会、定期的かつ組織的な情報提供・諮問手続、団体交渉、インターネット上の討論会など、様々なものが考えられる。ステークホルダーエンゲージメントは、相互作用的であるべきであり、ステークホルダーの意見を聞く機会を設けることを目的としている。その本質的な特徴は、双方向のコミュニケーションを必要とすることである。」(5.3.3 ステークホルダーエンゲージメント)