OECD多国籍企業行動指針は、1976年の「国際投資と多国籍企業に関するOECD宣言」の付属文書として採択されたものですが、2000年の改訂に続き、2011年5月に大幅な改訂がなされました。この「指針」は「多国籍企業に対して政府が共同して行う勧告」という位置づけで、企業に対して自主的に遵守するよう促すものです。法的な拘束力はありませんが、ガイドラインとして一定の影響力を持っています。
2011年の改訂では、「人権」に関する内容が大幅に拡充され、新たに「人権」の章が新設されました。人権デュー・ディリジェンスをはじめ、国連において定式化が進められつつあった「ビジネスと人権」の枠組みが大幅にとり入れられ、同時期に発行されたISO26000の「人権」枠組みとも共通性が多く見られます。
この「指針」の普及や実施に際する個別問題の解決に寄与することで「指針」の実効性を促進するため、参加国には、政府機関、産業界、労働団体等から構成される「各国連絡窓口」(NCP)が設けられています。
2018年には、この指針を実施するための実務的な支援を提供するものとして「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」が策定されました。そこでは、「指針」の内容に沿って「人権(雇用および労使関係を含む)」のほか「環境」「贈賄および汚職」「情報開示」「消費者利益」が「RBC(責任ある企業行動)課題」とされ、それぞれの領域での負の影響に対処するためのデュー・ディリジェンスの実務ガイダンスが示されています。
2023年6月には「責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」として改訂され、環境分野や科学技術分野の充実強化、上記のNCPの実効性の確保等が図られています。
2023年版では次のような章立てになっています。「概念と原則」「一般方針」「情報開示」「人権」「雇用及び労使関係」「環境」「贈賄及びその他の形態の腐敗の防止」「消費者利益」「科学、技術及びイノベーション」「競争」「納税」。
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■「第4章 人権」の冒頭の記述から(日本語仮訳版P18)
国家は、人権を保護する義務を負う。企業は、国際的に認められた人権、事業活動を行う国の国際的な人権に対する義務、並びに関連する国内法規制の枠組の範囲内で、以下の行動をとるべきである。