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【テキスト版】国連ビジネスと人権に関する作業部会2023年訪日調査報告書の概要

【テキスト版】国連ビジネスと人権に関する作業部会2023年訪日調査報告書の概要

  • ※ この資料は国連の報告書をベースに、アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)が作成したものです。
  • ※ 原文の要約に伴い一部意訳した部分があります。また一部を除き作業部会によるポジティブな評価の部分は省略しています。詳細は、国連報告書原文及び日本語仮訳文を参照してください。

現況(骨子)※ 詳細は末尾に

国家の人権保護義務

  • 東京と地方の間の認識の落差
  • NAPの実施状況の透明性欠如
  • NAPのアクセシビリティ向上
  • 政府ガイドラインの不十分性

企業の人権尊重責任

  • なお残存するギャップ
  • 大企業と中小企業のギャップ
  • 人権デュー・ディリジェンス義務化の必要性
  • 能力構築の必要性

救済へのアクセス

  • 指導原則等に関する裁判官の認識の低さ
  • 国内人権機関の決定的な重要性
  • NCPの認知度、影響力、独立性の向上
  • グリーバンスメカニズムでの報復の懸念

結語

  • 構造的な人権課題に、国と企業のビジネスと人権の取り組みで十分に対処されていない。
  • リスクにさらされているグループに対する不平等と差別の構造の完全な解体が急務
  • 包摂的で率直なマルチステークホルダー対話を通じた指導原則実現の加速が急務。

リスクにさらされているグループ

課題の核心は、①労働市場での多様性と包摂性の欠如と、②職場や社会全体での差別、ハラスメント、暴力の蔓延であり、これらは密接に関連。

1 女性

  • 引き続く男女の賃金格差を憂慮。
  • 補助的業務やパートタイムが多い女性の労働はキャリアップ機会と福利厚生を限定。
  • マイノリティグループの労働市場への参画機会、年収格差も差別を示す指標。
  • 企業幹部への女性登用の遅れを懸念。
  • 手厚い育児休業制度も取得率は低迷。

2 LGBTQI+

  • トランスジェンダーの求職者への不当な慣行、LGBTQI+の人々への、とくにネット上のヘイトスピーチなど差別の事例あり。
  • 「LGBT理解増進法」は、差別禁止条項がなく、差別の定義が不明確。
  • 自治体や民間団体と企業との連携など前向きな動きも。

3 障害者

  • 職場での差別や低賃金などを懸念。労働における障害者の包摂(インクルージョン)は喫緊の課題。
  • 「雇用代行ビジネス」は、障害者を隔離し不平等を助長。
  • 障害者の雇用機会促進のために、法定雇用率の狭く排他的な算定基準を見直して拡大する必要。
  • パーソナルアシスタンス制度は通勤・勤務時間での支援が不十分。
  • 虐待の経験は数多く、障害とジェンダーの交差性の考慮はとくに重要。

4 マイノリティグループと先住民族

  • 人口調査がないため差別が可視化されず、アイヌ民族は教育や職場での差別に直面。ヘイトスピーチやハラスメントも懸念。
  • 水産資源保護法がアイヌ民族のサケ漁の権利を制限し企業に利益をもたらしていることを懸念。
  • FPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)が確保されていない開発プロジェクトがアイヌ民族に及ぼす悪影響を懸念。森林管理と狩猟への集団的権利を政府が認めていないことは残念。
  • 雇用主によるヘイトスピーチなど在日コリアンや中国人労働者に対する差別の事案を懸念。
  • 被差別部落出身者への差別がなお存在し、雇用機会の平等にも深刻な影響。
  • オンラインや出版業界で被差別部落出身者へのヘイトスピーチや就職差別が存在し、裁判の長期化が実効的な救済を困難にしている報告も。
  • 被差別部落出身であることが個人情報保護法上の「社会的身分」に該当することを示すガイドラインに期待。
  • 差別禁止法がないと被害者は救済を受けることが極めて困難。先住民族、在日コリアン・中国人、被差別部落出身者への差別は日本が加入している人種差別撤廃条約の適用範囲。
  • ソーシャルメディアとテクノロジー企業は人権尊重の促進と危害防止の役割を果たすべき。

5 子ども

  • 児童労働の法的な定義と根絶のための政府の行動計画がない中、バリューチェーンと国内での児童労働の懸念の指摘あり。
  • 子どもの権利の一般的な理解度、とくに企業がこれらの権利に与える影響の理解度が低いとの指摘あり。こども基本法制定やこども家庭庁創設の動きは、ビジネスと人権において子どもの権利の認識を高めて主流化するタイムリーな機会。

6 高齢者

  • 急速な高齢化と労働力不足の中、不安定雇用、低賃金、健康上の高リスクなど高齢者への差別的な雇用慣行を懸念する指摘あり。
  • 年齢差別への法規制がない中、高齢者の労働の権利に政策上とくに注意が必要。

懸念されるテーマ

1 健康、気候変動、自然環境

  • 人権と、企業の事業活動が環境に及ぼす影響とが相互に関係していることへの認識が日本では低い。
  • 企業の人権尊重責任には、クリーンで健康的かつ持続可能な環境への権利も含まれることを強調する。
  • 環境NGOによる気候変動に関する株主提案の取り組みや政府と企業による環境デュー・ディリジェンスの取り組みがみられる中、公正な移行のための政府の政策の一貫性が重要。
  • 神宮外苑地区開発の人権への悪影響の可能性など、大規模開発での環境影響評価プロセスでの住民との協議の不十分性の指摘を懸念。
  • 気候変動からとくにリスクにさらされているマイノリティグループとの有意義な協議は指導原則の観点からも必要。
  • 福島第一原子力発電所の事故後の清掃、汚染除去、廃炉に関し、債務返済のための強制労働、低賃金など搾取的な5層に及ぶ下請け慣行、危険な労働条件などの事例を深く憂慮。被災した全ての人の救済が継続的に必要。
  • 作業後のがん罹患にもかかわらず無記録を理由に支援のないケースや因果関係の立証を労働者に強いるケースを深く憂慮。因果関係の立証責任を負うのは企業であるべき。
  • 東京、大阪、沖縄、神奈川、愛知でのPFAS(有機フッ素化合物)による健康への悪影響の事例では、健康調査が限定的であるなど政府の対処は不十分。「汚染者負担の原則」に基づき関係企業は対処する責任あり。

2 労働者の権利

  • 労働組合:企業のコンプライアンスを求める労働組合員の逮捕や訴追、組合結成を理由とする出勤拒否をされる事例あり。労働組合は公正で合法的な職場慣行の促進に不可欠で、企業の人権尊重の確保にも役立つ。労働組合が合法的に活動できることは重要。
  • 長時間労働:過労死に関わる積年の課題の報告があり、メンタルヘルスに関する損害賠償請求の増加やとくに医師の時間外労働の上限規制の例外措置にも懸念。
  • 移住労働者と技能実習生:解雇による労災の治療の打ち切り、職場での暴力、過密な居住環境、送出機関への法外な手数料支払い、低賃金、パスポート没収による強制労働などの実態を懸念。労働組合による支援、企業による取り組み、法務省による多言語相談サービス、技能実習制度の見直しの動きなどもあるが、顕著な人権問題の評価を行うことが引き続き極めて重要。

メディアとエンターテインメント業界

  • 低給与や長時間労働、不公正な請負関係が蔓延するアニメ業界、厳しい契約を強要されるアイドル業界の企業は、問題への対処が急務。
  • この業界の憂慮すべき環境は、不処罰の文化を助長し、性暴力とハラスメントを悪化させており、放送局、出版社、大手広告会社は影響力を行使する人権尊重責任を果たしていない。
  • 旧ジャニーズ事務所と契約した数百人のタレントが性的搾取や性的虐待を受けた疑惑になお深く憂慮。日本のメディア企業は何十年も隠蔽に関与。関連する企業が関係解消に伴う人権への影響を慎重に考慮しながら影響力を行使することはなお重要。
  • メンタルヘルスのケアを求める被害者が直面する困難に懸念。

3 バリューチェーンと金融規制

  • 紛争影響地域など高リスク状況下で活動する企業は、人権の考慮を盛り込んだ責任ある撤退に関するガイダンスを必要としている。
  • 透明性と情報開示に関する法律の改定と実施の改善、国外の人権に関する紛争でのグリーバンスメカニズムの必要性の指摘も。
  • 紛争影響地域での活動状況が開示されないことは、市民の知る権利を妨げ、透明性と情報開示の法制の必要性を強く示すもの。
  • 紛争影響地域で活動する企業は強化された人権デュー・ディリジェンスを行うべき。ビジネス関係の停止は最終手段として考慮しながら影響力を行使すべき。
  • ウイグルやマラウイの事例などサプライチェーン上の強制労働リスクの懸念の指摘も。
  • JBICなど開発金融機関からの資金援助を受けたプロジェクトでの人権への影響に関する指摘もあり。リスクにさらされているグループとのエンゲージメントは非常に重要。
  • 政府と地方自治体での公共調達の進展を評価。

勧告→日本政府へ

  1. 「ビジネスと人権」に関する行動計画(NAP)の見直し
    ①リスクに直面する人々への人権侵害に特別な注意を。
    ②救済へのアクセスと企業の責任履行の強化を。
    ③ビジネスと人権政策のギャップ分析の実施を。
    ④責任の所在、タイムスケジュール、人権指標を明確に。
    ⑤進捗状況の評価には被害者などの有意義な参加を。
  2. 指導原則とNAPに関するトレーニングと認識向上の取り組みの継続を。
  3. 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン
    ①エンドユースでの影響を明確に対象に。
    ②人権の定義を深め、環境への影響も包含を。
    ③環境・気候変動の影響を人権デュー・ディリジェンスで明確に。
  4. 人権デュー・ディリジェンス義務化の立法を。
  5. 国のグリーバンスメカニズムへの企業の協力、立証責任の転換など救済へのアクセスの確保を。
  6. 行政・司法・立法関係者の指導原則の認識向上と義務履行の能力構築を。
  7. 司法的・非司法的救済へのアクセス
    ①日本司法支援センター(法テラス)の認知度向上を。
    ②パリ原則に沿い、明確な権限とリソースをもつ国内人権機関の早急な設立を。
    ③人権オンブズパーソンの創設を。
    ④OECD連絡窓口(NCP)の認知度、能力、専門性の向上を。
    ⑤「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」の認知度向上を。
    ⑥法の適用範囲拡大、報復への制裁確立など内部通報者保護の強化を。
  8. 未批准のILO中核条約と人権諸条約の選択議定書の批准を。
  9. 同一価値労働同一賃金の原則の実施措置を強化して、男女間賃金格差の是正と義務的クオータ制を含めた女性の指導的地位登用の促進を。
  10. 既存の差別禁止法を改正して包括性と実効性を向上させ、明確で包括的な差別の定義を盛り込み、差別の公的な禁止と制裁を。企業の採用選考時の差別につながる質問の禁止、職場やオンラインでのセクシュアル・ハラスメントや暴力への対処の強化など、マイノリティに対する標的型差別への対処を。
  11. 障害者への個別の支援と合理的配慮に関する包括的な研修の実施を。
  12. NAPなど公式文書への障害者のアクセシビリティの確保を。
  13. 技能実習制度の改正では、斡旋手数料の廃止、雇用事業所での人権研修の義務化、応募システムの簡素化、転職の柔軟化、安全な労働と適切な生活環境の確保、日本語学習と職業訓練の機会の提供、同一価値労働同一賃金の実施など国際人権基準に基づいた明確な人権保護を。
  14. 労働の実地検査を強化して強制労働と人身売買の被害者の特定を。
  15. ヘイトスピーチ解消法での出身や在留資格の適用範囲を拡大し、職場でのヘイトスピーチに対処を。
  16. 政府と企業は先住民族の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」の権利の遵守を。
  17. 部落差別に関する調査の実施を。アイヌ民族の現状に関する包括的な定期的調査の実施を。
  18. 在留資格に関わらず全ての労働者に労働法が適用されることの認識を。
  19. 公正な移行のための人権の考慮を念頭に気候変動への取り組みの強化を。
  20. 福島第一原子力発電所事故後において、多重下請け構造の解消、労働者への適切で遡及的な補償の確保、健康上の懸念の業務上の疾病としての認識、安全な労働環境の確保、正確な被ばく記録の確保、被ばく労働者の継続的な健康診断とケアの保障を。
  21. 福島第一原子力発電所からの放出水の処理に関する全ての情報の引き続きの公開を。
  22. 最新の科学的証拠に基づいた環境基準への適合の確保など、水道水の中のPFASの存在と人々への影響に対処を。
  23. 開発協力大綱等ODA政策で、指導原則、NAP、政府ガイドラインの明確な言及を。
  24. 人権デュー・ディリジェンスでの「子どもの権利とビジネス原則」の活用の促進を。
  25. 指導原則に沿い、責任ある撤退に関するガイダンスの企業への提供を。

勧告→企業と業界団体へ

  1. 事業レベルのグリーバンスメカニズムの指導原則に沿った構築を。非司法的グリーバンスメカニズムの実効性の基準をジェンダーをよく考慮したものに。
  2. 個人と地域社会に及ぼした害に効果のある救済の提供を。
  3. 企業の意思決定機関への女性の参画の増加を。
  4. 公正な移行での人権の考慮を念頭において気候変動への対処の強化を。
  5. 指導原則と汚染者負担原則のもと、事業活動による水道水中のPFASに責任と対処を。
  6. 採用選考時の差別につながる質問の排除と、職場での差別、搾取、ハラスメント、権限乱用などへの対処を。
  7. 人権デュー・ディリジェンス実施時に子どもの権利とビジネス原則の組み込みを。
  8. 紛争影響地域や高リスクセクターでの事業では強化された人権デュー・ディリジェンスの実行を。
  9. 結社の自由、団結権、団体交渉権の促進と、とりわけ脆弱な状況の人々との意義あるステークホルダーエンゲージメントの促進を。
  10. 報復の恐れなしにセクハラを報告できるよう、従業員とタレントに透明でアクセスしやすいコミュニケーション手段と安全な環境を。

勧告→市民社会を構成する人々へ

  1. 引き続き、指導原則上の義務と責任についての国と企業の認識と能力を高める取り組みを。
  2. 引き続き、人権侵害事例の記録と国・企業のグリーバンスメカニズムへのアクセス支援を。
  3. 引き続き、ビジネスと人権の法的・政策的枠組み強化への寄与と全てのステークホルダーの参加促進を。

現況(詳細)

国家の人権保護義務

  • 指導原則とNAPの認識が東京以外の地方で欠如。全国のすべての関係者はNAPの策定と実施に十分に参画していないようで、指導原則とNAPに基づく権利・義務・責任を十分に理解するためになすべきことは多大。
  • NAPの実施状況の透明性の欠如が、指導原則の実施や日本の人権保護の障壁になっているとの指摘も。
  • NAPの見直しのプロセスはすべての関係者の参画を得る機会。視覚障害者がNAPを利用できるようにしてNAPのアクセシビリティを向上させる機会。
  • 政府のガイドラインについて、人権の定義の限定性、国有企業への適用の不確かさ、等の指摘も。
  • 自発的な取り組みを求めるガイドラインと強制的な措置とのスマートミックスは重要。

企業の人権尊重責任

  • 移住労働者や技能実習生の問題、働き過ぎの文化やバリューチェーンの川上・川下の人権リスク軽減などで、なおかなりのギャップが残っているという企業関係者の認識あり。
  • 指導原則の理解と実施で企業間、とくに大企業と中小企業のギャップが顕著。政府による中小企業へのガイダンス提供と能力構築の必要性の指摘も。
  • さまざまな産業部門に影響力がある商社と小売業者には、指導原則を浸透させる尽力を求める指摘も。
  • 企業関係者は政府が国家の人権保護義務をより積極的に果たす必要性を指摘し、喫緊の課題に関する政府による実践的なガイダンスを要望。
  • ほとんどの企業が人権デュー・ディリジェンスの義務化が望ましいと指摘。タイムリーでニーズに沿った能力構築の必要性も繰り返し指摘。

救済へのアクセス

  • 指導原則と、企業活動に関連する幅広い人権問題についての裁判官の認識の低さは重大な問題。長期の裁判手続きが救済へのアクセスの障壁になりうることや、十分な金銭的補償を受けられなかった例の指摘も。
  • 国内人権機関が存在しないことを深く懸念。企業の人権尊重を促進し責任履行(アカウンタビリティ)を強化するための政府の取り組みに大きなギャップを生み出していると多くの関係者が指摘。
  • 法務省による人権侵害の調査は国内人権機関の役割を担えない。国内人権機関は決定的に重要で、不存在はリスクにさらされている人々の司法と実効的な救済へのアクセスを阻害。
  • OECD多国籍企業行動指針に基づくNCP(国の連絡窓口)の活用が低調。認知度、影響力、独立性の向上が必要でNAP改定はその機会。
  • 企業による事業レベルのグリーバンス(苦情処理)メカニズムは不十分で、一部でなお報復の懸念も。公益通報者保護法は内部告発者の定義や報復の禁止措置等の点でなお不十分。

(以上)