人権を尊重する企業の責任は、国際的に認められた人権に拠っているが、それは、最低限、国際人権章典(11)で表明されたもの及び労働における基本的原則及び権利に関する国際労働機関宣言(12)で挙げられた基本的権利に関する原則と理解される。
企業は、国際的に認められた人権全般に実際上影響を与える可能性があるので、その尊重責任はそのような権利すべてに適用される。特に、人権の中には、他のものに比べ、特定の産業や状況のなかでより大きいリスクにさらされる可能性のあるものがあり、そのために特に注意が向けられる対象となる。しかしながら、状況は変化することがあり、あらゆる人権が定期的なレビューの対象とされるべきである。
国際的に認められた主要な人権の権威あるリストは、国際人権章典(世界人権宣言、及びこれを条約化した主要文書である市民的及び政治的権利に関する国際規約ならびに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)とともに、労働における基本的原則及び権利に関する宣言に挙げられたILO中核8条約上の基本権に関する原則にある。これらは、企業の人権に対する影響を他の社会的アクターが評価する際の基準(13)である。企業が人権を尊重する責任は、関連する法域において国内法の規定により主に定義されている法的責任や執行の問題とは区別される。
状況に応じて、企業は追加的な基準を考える必要があるかもしれない。例えば、企業は、特別な配慮を必要とする特定の集団や民族に属する個人の人権に負の影響を与える可能性がある場合、彼らの人権を尊重すべきである。この関係で、国際連合文書は先住民族、女性、民族的または種族的、宗教的、言語的少数者、子ども、障がい者、及び移住労働者とその家族の権利を一層明確にしている。さらに、武力紛争状況では、企業は国際人道法の基準を尊重すべきである。
(11) 訳者注)世界人権宣言(1948年国際連合総会で採択)と二つの人権条約、すなわち経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約と市民的及び政治的権利に関する国際規約(1966年国際連合総会で採択、1977年発効)をまとめて国際人権章典という。
(12) 訳者注)1998年の第86回国際労働総会で採択。
(13) 訳者註)「ベンチマーク」(benchmarks)