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原則29

苦情への対処が早期になされ、直接救済を可能とするように、企業は、負の影響を受けた個人及び地域社会のために、実効的な事業レベルの苦情処理メカニズムを確立し、またはこれに参加すべきである。

解説

事業レベルの苦情処理メカニズムは、企業により負の影響を受けることになるかもしれない個人及び地域社会が直接アクセスできるものである。メカニズムは、一般的に、一企業単独でまたは関連ステークホルダーを含む他者との協力のもとで運営される。また、当事者双方に受け入れられる外部専門家や機関を介して提供される。このメカニズムでは、申し立てを行う者に対し、まず他の訴求手段にアクセスするよう義務づけるものではない。メカニズムは、企業を、問題点を整理、評価し、損害に対する救済に努めることに直接従事させることができる。

事業レベルの苦情処理メカニズムは、企業の人権を尊重する責任に関して、二つの重要な機能を果たす。

  • 第一に、企業が継続的に実行している人権デュー・ディリジェンスの一部として、人権への負の影響を特定するのを助ける。それは、企業の事業により直接影響を受ける人々に、自分たちが負の影響を受けている、または受けるであろうと考えて懸念を表明する途を提供することによって可能となるのである。申し立ての傾向やパターンを分析することで、企業は、組織体制の問題を特定し、その後の慣行をそれに合わせて修正することもできる。

  • 第二に、これらメカニズムによって、苦情が一旦特定されると対処が可能となり、負の影響を当該企業により早期にかつ直接的に是正することが可能になる。そうすることで損害がより深刻になり、苦情がエスカレートしていくのを防ぐことができる。

そのようなメカニズムは、申し立てまたは苦情が、持ち出される前の段階ですでに人権侵害の訴えの形をとっていることを求めるものではないが、なによりも負の影響を受ける人々がもつ正当な懸念を特定することを目指すものであることが必要である。もし、これら懸念が特定もされず対処もされないならば、時とともにより大きな紛争や人権侵害へと拡大しうる。

事業レベルの苦情処理メカニズムでは、その実効性を実際に確保するための一定の要件が反映されているべきである(原則31)。苦情処理メカニズムが、規模、資産、業種、文化及びその他の要因から決まってくる必要に応じて様々な異なる形態をとることによって、これらの要件は充たされることができる。

事業レベルの苦情処理メカニズムは、より広範なステークホルダー・エンゲージメントや団体交渉のプロセスを補完する重要なものではあるが、これらに代わるものとはなり得ない。これらは、労働関連紛争に取り組む正当な労働組合の役割を害するために使われてはならず、司法的または非司法的苦情処理メカニズムへのアクセスを排除するよう用いられてもならない。