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原則31

その実効性を確保するために、非司法的苦情処理メカニズムは、国家基盤型及び非国家基盤型を問わず、次の要件を充たすべきである。

(a) 正当性がある:利用者であるステークホルダー・グループから信頼され、苦情プロセスの公正な遂行に対して責任を負う。

(b) アクセスすることができる:利用者であるステークホルダー・グループすべてに認知されており、アクセスする際に特別の障壁に直面する人々に対し適切な支援を提供する。

(c) 予測可能である:各段階に目安となる所要期間を示した、明確で周知の手続が設けられ、利用可能なプロセス及び結果のタイプについて明確に説明され、履行を監視する手段がある。

(d) 公平である:被害を受けた当事者が、公平で、情報に通じ、互いに相手に対する敬意を保持できる条件のもとで苦情処理プロセスに参加するために必要な情報源、助言及び専門知識への正当なアクセスができるようにする。

(e) 透明性がある:苦情当事者にその進捗情報を継続的に知らせ、またその実効性について信頼を築き、危機にさらされている公共の利益をまもるために、メカニズムのパフォーマンスについて十分な情報を提供する。

(f) 権利に矛盾しない:結果及び救済が、国際的に認められた人権に適合していることを確保する。

(g)継続的学習の源となる:メカニズムを改善し、今後の苦情や被害を防止するための教訓を明確にするために使える手段を活用する。

事業レベルのメカニズムも次の要件を充たすべきである。

(h)エンゲージメント及び対話に基づく:利用者となるステークホルダー・グループとメカニズムの設計やパフォーマンスについて協議し、苦情に対処し解決する手段として対話に焦点をあてる。

解説

苦情処理メカニズムは、対象となる人々がそれを認知し、信頼し、使用することができる場合にのみ、その目的を果たすことができる。これらの要件は、非司法的苦情処理メカニズムを実際使うなかでその実効性を確保する助けとなるために、設計、修正、または評価するための基準を提供するものである。貧弱に設計または遂行された苦情処理メカニズムは、影響を受けるステークホルダーの間に、プロセスにより自分は力を奪われた、また軽視されたという思いが強まることで、苦情感情をこじれさせるリスクを生じかねない。

最初の7要件は、国家基盤型または非国家基盤型、裁定または対話形式、いずれのメカニズムにも適用される。第8要件は、企業が運営を支援する、事業レベルのメカニズムに特化したものである。

「苦情処理メカニズム」という用語は、ここではイメージ的な用語として使用されている。用語それ自体は、具体的なメカニズムに充てられる場合は必ずしも適切ではなく、また有用でもないかもしれないが、実効性のための要件は、いずれにしても変わらない。それぞれの要件についての解説は次の通りである。

(a) メカニズム利用者であるステークホルダーがその利用を選択するには、メカニズムを信頼しているはずである。苦情処理プロセスの当事者がメカニズムの公正な遂行に干渉できないように責任の所在を明らかにすることは、一般的に言って、ステークホルダーの信頼を築きあげるための一つの重要な要素である。

(b) アクセスへの障壁は、メカニズムに対する認知不足、使用言語、識字能力、費用、所在地の問題及び報復に対する恐れを含むであろう。

(c) メカニズムが信頼され活用されるために、メカニズムが設ける手続についての情報を広く提供すべきである。段階毎の所要期間枠は、時に柔軟性が必要とされることを認めながらも、可能なかぎり尊重されるべきである。

(d) 企業と影響を受けるステークホルダーの間の苦情申し立てまたは紛争において、後者は情報や専門知識や助言へのアクセスで非常に不利であり、費用を支払う財源を欠くこともしばしばである。この不均衡を是正できない場合、公正な手続を達成すること、また手続は公正なものであるとの認識が共に弱まり、永続的な解決に到るのが困難になりうる。

(e) それぞれの苦情処理の進捗について当事者と定期的に情報を共有することは、プロセスの信頼性を維持するために必要不可欠であろう。メカニズムのパフォーマンスについて、統計、事例研究、または具体的事案の処理に関する詳細な情報を通じて、広範なステークホルダーに対して透明性を確保することは、その正当性を示し広く信頼を得るために重要である。同時に、必要な場合には、当事者対話や個人情報に関する秘密性は保持されるべきである。

(f) 苦情は人権という視点から構成されていないことがしばしばで、当初は人権への懸念を提起しないことも多い。しかしながら、結果が人権への関わりを持つ場合は、国際的に認められた人権に合致したものになるように注意すべきである。

(g) 苦情の頻度、パターン及び要因を定期的に分析することは、メカニズムの運営組織が今後の被害を防止するために変更すべき政策、手続または慣行を特定し、これらに影響を与えることを可能とする。

(h)事業レベルの苦情処理メカニズムに関して影響を受けるステークホルダー・グループとその設計や実績について対話・協議することは、彼らのニーズを満たし、メカニズムが実際に活用され、それが首尾よく機能するという共通の利益を確保するのに役立つ。企業が、訴えの対象でありながら、同時にまた一方的に苦情処理の結果を決定するというのは正当ではなく、受け入れられないことである。これらメカニズムは、対話を通じて合意による解決に到ることに焦点をあてるべきである。裁定が必要とされる場合は、正当で、独立した第三者メカニズムにより行われるべきである。