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ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

緊急企画「人権を実現できる日本に―マイノリティ女性の人権侵犯申立から考える」を共催しました。(2/3)

 2月3日、ヒューライツ大阪は反差別国際運動(IMADR)と共に、関西NGO協議会の後援を得て、緊急企画「人権を実現できる日本に―マイノリティ女性の人権侵犯申立から考える」を大阪市内で、対面とオンラインで開催しました。
 2016年に、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)で日本政府報告書が審査された際、現地で参加していたマイノリティ女性たちについて杉田水脈氏が「...チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります...」などとSNS上で発信しました。これに対し、2022年末に、長い間黙るしかなかったアイヌ女性と在日コリアン女性たちは、マイノリティ女性フォーラムとして「「ヘイトスピーチ、許さない」杉田水脈議員に謝罪を求めます!」というタイトルの署名活動を行い、2023年2月に5万3千筆の署名を法務省に持参しました。そして、2023年にアイヌ女性と在日コリアン女性がそれぞれ札幌と大阪の法務局に人権侵犯の申立をし、その一部が「人権侵犯」と認定されました。
 今回の申立手続きはどのように評価できるのか、成果や残った課題、今後の方策などを共に考えることを目的に、(一社)メノコモシモシ代表で札幌法務局への申立人の多原良子さん、弁護士で大阪法務局の申立に立ち会った金英哲(きむ よんちょる)さん、弁護士で外国人人権法連絡会の師岡康子さんをゲストに招き報告いただきました。
2-3写真.jpg <アイヌ女性に対する複合差別をなくすための活動にこだわってー差別の放置を許さない!>
 多原良子さんは、2022年11月に杉田発言が国会で追及されたことについて新聞記者から連絡があり、黙っていてはいけないと思いコメントしたことが記事になって掲載されると、1週間で658件ものヘイトスピーチがSNS上に発信されたそうです。札幌法務局に削除要請を行いましたが、それがどんな内容なのかを申立人が法務局に示す必要があり、1日5時間5日間にわたって内容を確認する作業は苦痛を伴うものだったと言います。
 その頃、大阪の在日コリアン女性から杉田発言について人権侵犯の申立をしたという連絡があり、多原さんも札幌法務局への申立を決意。2023年9月に法務局から「人権侵犯と認定した」という通知がありました。
 認定を公表すれば更にヘイトスピーチがくるのではと逡巡しつつも、記録のためにマスコミに伝えたところ、驚くほどマスコミが取り上げてくれたと振り返りながら、杉田氏がその後もアイヌ否定と差別言動を繰り広げていることに憤りをみせました。
 「アイヌ女性に対する複合差別の活動をする理由は、アイヌ民族に対する侵略と差別、アイヌ女性が歩まねばならなかった性搾取などの苦難の歴史があるからだ。過去の歴史を知ると、先祖のアイヌ女性の名誉を回復して誇り高く生きたいと思う。アイヌ女性は教育・雇用などさまざまな面で複合差別を受けており、こうした状況を変えたい」と語り、社会を変えるために声をあげることの大切さを呼びかけました。
 「声をあげなきゃだめだということをたくさんの人に知ってもらいたい。今回も実際にたくさんのマスコミがアイヌの人権について取り上げてくれた。2024年は、2019年のアイヌ施策推進法の見直しの時期だが、法律には先住民族の権利は何も盛り込まれていないのでそれを求めている。そして札幌市でヘイトスピーチ禁止条例などが作られるよう頑張っている。」

<ヘイトスピーチに対する対応~大阪弁護士会の取組みと大阪法務局の人権侵犯事件について>
 金英哲(きむ よんちょる)さんは、まず2017年に設置した大阪弁護士会のヘイトスピーチ対策推進プロジェクトチーム(PT)の活動について紹介。PTの「ヘイト被害救済弁護団」は、ヘイトスピーチ・人種差別の被害を受けた人から相談を受け、必要な法的手続きをとってきました。そのなかで、女性教師が顔写真を他人のブログ上に貼り付けられ、「国へ帰りなさい」のような投稿をされた事例では、被害者が法務局に相談しても、ほぼ何も動いてもらえなかったために、弁護士からプロバイダーに削除要請を行って投稿を削除させ、さらに法的手続きで加害者を特定したといいます。
 このような経験から「法務局には期待していなかった」と当時を振り返りました。法務局での面談に立ち会った際には、法務省本局からネット上の誹謗中傷などに対応する専門チームも来ていましたが、法務局は、人権侵犯の調査はするけども、ヘイトスピーチであるかどうかの判断はしないということでした。ヘイトスピーチ解消法に「不当な差別的言動」という文言はあっても、あくまで解消すべきもの・啓発すべきものにとどまり、違法で禁止すべきものだとは規定していないためです。また、申立人の名前を杉田氏に伝えると言われたことについては、後日、申立人が伝えないでほしいと要望し、何度かのやりとりの末に伝えないことになったといいます。
 調査結果は、ネット上の書き込み5件を人権侵犯と認定、そして投稿が残っているプロバイダーに削除要請をし、加害者(杉田氏)には、「措置猶予」(人権侵犯事実があると認定しても、人権侵犯の内容、人権侵犯後の事情等により、措置を講じないことを相当と認めるときの決定)としたものの、「啓発」をしたということでした。調査内容や判断の経過の説明はなかったといいます。今回の申立て手続きの評価について、人権侵犯の認定が出て、報道により多くの人たちが賛同したこと、法務省という公的機関から議員に啓発をしたという点で意義を感じている、被害者が一応救済されたと感じた部分があれば成功であったと思うと述べました。

<人種差別の被害者のための人権侵犯被害申告制度の活用と限界>
 師岡康子さんは、政府機関である法務省人権擁護局が公人の発言に対し人権侵害(違法)と認めたのは初めてで、意義があると評価した上で、この手続きが、違法と認めても何らの法的責任は問われない「中途半端な制度」であると指摘します。
 師岡さんは、国際人権基準に照らしながら、本来であれば差別禁止法があるべきで、そこでヘイトスピーチかどうか判断されなければならないといいます。ヘイトスピーチやヘイトクライムは人種差別撤廃条約4条で規定されているように刑事規制の対象になります。しかし、現行法上、差別禁止法はなく、人権侵犯被害申告制度は、違法かどうか認定するだけで、差別かどうかは原則として判断しません。
 差別禁止法とセットで国から独立した国内人権機関、そして国連への個人通報制度、これが国際的なスタンダードでありながら、日本ではまだこうした制度がないなかで、今回は現在存在する「ヘイトスピーチ解消法」と人権侵犯被害申立て制度を最大限生かした手続きであったと述べます。
 師岡さんは、人権侵犯被害申立制度利用のメリットについて、無料で利用でき、概ね半年くらいで結果が出るという迅速さ、裁判と違って、原則非公開という匿名性(民事裁判では、ヘイトスピーチをした相手と対面しなければならず、被害者に大きな負担となる)などを挙げます。
 一方で、法務省の一機関であることから、公権力による人権侵害を扱うのは非常に難しいこと、また、手続き規定は無いに等しく、担当官との交渉によっても進行は異なることや、審理の内容や調査結果の理由を被害者に説明する義務はなく、不服申立制度もない、手続きおよび結果は強制力がなく、今回のように、違法と認定されながら杉田氏は何ら責任をとわれないというのは大きな問題であると述べ、その人権救済機能の限界を示しました。
 国際人権基準から乖離している日本の現状のなかで、当面においては現行の人権侵犯被害者申立制度に対する運用の改善を要求しつつ、包括的な差別禁止法、そして、国内人権機関の設立を求めていかなければならないことを改めて強調しました。

対面とオンラインをあわせて約100名の参加がありました。