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人権教育オンラインセミナー「包括的性教育はどうして必要?~すべてのひとの性=生を大切にするために~」を開催しました(6/22)

 ヒューライツ大阪は622日に、NPO法人ピルコン代表の染矢明日香さんを講師に招き、人権教育オンラインセミナー「包括的性教育はどうして必要?~すべてのひとの性=生を大切にするために~」を開催しました。染矢さんは、大学在学中より性の健康の啓発活動をはじめ、2013年にNPO法人ピルコンを設立しました。今日までにご講演や、著書、教材の開発など多岐にわたって活動されています。

 講演の前半では日本の性教育の現状や課題について、そして包括的性教育と従来の性教育の違いはどういったところにあるのかについて話しました。

 染矢さんは、国際スタンダードと比較しても日本の性教育は割かれる時間も短く、内容においても性交・妊娠の学習内容を制限する「はどめ規定」[1]があるなど全体的に不十分といいます。

 一方で「はどめ規定」について、性交や避妊を「教えてはならない」ということではないと注意を促します。政府の見解としては、性交や避妊を教えることが「すべての子どもに共通するべき事項ではない」として指導の際の4つの留意事項[2]を示しているに留まると染矢さんは指摘します。そして実例として秋田県の先進的な性教育の実践などを紹介されました。しかし、学校現場によって認識に差があることや、また2000年代以降の性教育に対するバッシングが萎縮効果を生んでいる現状についても述べました。

 そして染矢さんは、インターネットやSNSの発達で性情報が氾濫する一方で、性教育が不足していることによって性に関わる様々な問題が起こっていると指摘します。たとえば日本の年間人工妊娠中絶件数は約13万件にのぼりますが、その内、約9,000件が10代で、15歳以下は約400件だといいます。また若い世代で性感染症が広がり、特に梅毒の感染者が急増していること、そしてSNSに起因する性被害児童数は年間約1,800名にものぼります。

 このように日本の性教育の現状に多くの課題があるなかで、世界的には包括的性教育が広がっています。染矢さんは、包括的性教育について、生殖・性交のことだけでなく、人権教育を基盤に暴力やジェンダー平等、コミュニケーションなど人間関係を含む幅広い内容を、受け身で知識を得るだけではなく「学習者が中心となるアプローチ」を通して学びを深めることが重視されているといいます。さらにそれは「一度すれば終わり」ではなく、5歳から18歳以上までの子ども・若者を対象に発達段階に応じて繰り返し、より深く学習することを通じて健康・幸福(ウェルビーイング)、尊厳を実現していくカリキュラムベースのプロセスであることを強調しました。

 日本の性教育では、性的な行為についてリスクを強調する抑制的なメッセージに偏りがちですが、これに対して包括的性教育は、リスクを正しく教えつつも自分がどうありたいか、どう生きたいか、自分らしく尊厳が大切にされるためにどんな選択肢があるのかという視点、つまり自分の権利を守り使えるように、知識だけでなく、スキルや態度、価値観を身につけることを目的としています。

 お話しの中で染矢さんが紹介した「AMAZE[3]という動画でも、思春期、多様な性、性暴力、人間関係、性感染症、妊娠・避妊...など、性に関わる幅広いテーマについて、ユーモアを交えながら信頼できる情報を発信しており、性をタブー視するのではなく自己効力感や自己肯定を育むメッセージにあふれる内容でした。


 後半は、2000年代以降の性教育に対するバッシングにどのように立ち向かい性教育を実践していけるかについて話しました。

 染矢さんは「寝た子を起こす」や「自慰行為を奨励する」、あるいは「性自認を混乱させる」といったバッシングについて、それらが偏った現状認識や包括的性教育に対する歪曲を含む誤った理解に基づくものであることをユネスコや世界保健機構(WHO)による包括的性教育についての説明を参照しながら解説しました。そして、多くの若者たちが実際には性について関心を強く持っていたり、性行動を始めていることもあるという現実を無視して、「性教育では性行為を控えるために自制を教えるべき」というような禁欲的なアプローチは、子どもや若者が本当に困ったときに相談できる関係を築くことができずにむしろ有害になりうると指摘しました。

 また、性教育に関する特定の本やメディアにおける特定部分のみをセンセーショナルに取り上げて包括的性教育が不適切であるかのようにバッシングがわきおこることについても、家庭内で行われる教育やこうした本やメディアを通じた個人学習は包括的性教育の定義に含まれないと述べ、カリキュラムベースであることが包括的性教育が提供される条件であることが再度確認されました。

 そして最後に、学校をはじめ様々な現場で性教育を実践していく上で役立つ書籍や教材、ウェブサイトなどを紹介し、子どもや若者を守るためには信頼される大人・相談したいと思われる信頼関係を築くことがとても大事であるという自身の思いを語りました。


 参加者からは「とてもわかりやすく包括的性教育について教えていただき、かつ具体的に動画などをご紹介いただけたのがたいへん良かった」という感想の他、性教育に関わる立場から「ヒントになることが多かった。バッシングに対する回答も含めて、なぜ性教育が子どもにとって必要なのかをより理解できた」という声や「こどもたちが安心して意見をいえるような環境をおとなが作ることについて」役立てたいという声が寄せられました。


当日35名のオンライン参加者、後日配信の視聴者数は32名でした。


[1] 学習指導要領における次の規定

「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」(小学5年 理科)

「妊娠の経過は取り扱わないものとする」(中学1年 保健体育科)

[2] ①児童生徒の発達段階を考慮、②学校全体での共通理解を図ること、③保護者や地域の理解を得ること、④集団指導と個別指導の内容の区別を明確にすること

[3] pilcon.org/activities/amaze