12月7日、ヒューライツ大阪は、設立30周年を記念してシンポジウム「人権―いま、ここで生きるために」をマイドームおおさかでハイブリッド形式で開催しました。
まず、主催挨拶として白石理会長が、世界人権宣言(1948年)の第一条(すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利において平等である)を引用し、これを人権の礎としながら、いまだに世界でそして日本で存在する厳しい現実を認識し、すべての人が人として大切にされる社会を目指して、ヒューライツ大阪は設立の初心に立ち返り前進していくと決意を述べました。
ヒューライツ大阪会長 白石理
シンポジウムは、「人権課題に取り組む当事者からの発題」として認定NPO法人虹色ダイバーシティ理事長の村木真紀さん、部落解放同盟大阪府連合会書記長の髙橋定さん、そして弁護士の藤原精吾さんからの報告(第1部)、国際人権法の専門家である申惠丰(しん へぼん)さんと評論家の荻上チキさんによるトークセッション(第2部)、そして会場およびオンライン参加者からの質問に答える全体会(第3部)の3部構成でした。
「性的マイノリティに関する社会課題の現状と癒しの取り組み」というテーマで報告を行った村木真紀さんは、性的マイノリティの人びとは高い割合でメンタルヘルスの状態が良くないことをデータで示しながら、法制度の不備や社会の受容度によって若年層、勤労世代、高齢期といった各ライフステージで複合的な困難に直面していると指摘しました。そして、性的マイノリティの人びとの心身の健康をまもるためには同性婚などの法整備とならんで当事者たちが安心して一息つける居場所が必要であると語り、虹色ダイバーシティが「Remedy(癒し、救済)for All」をミッションに掲げて運営している「プライドセンター大阪」という、常設のLGBTQセンターの取り組みについて紹介しました。
村木真紀さんによる報告
「ネット上の部落差別撤廃にむけた裁判闘争と被害者救済制度の課題」というテーマで報告を行った髙橋定さんは、部落差別解消推進法(2016年)について、部落差別の存在を認識した点を評価しつつ、被害者救済や差別禁止規定がなく、施行から8年を経てもネット上で部落差別が蔓延し、現状では裁判で訴えるほかに救済へのアクセスがないと指摘します。その中で、2016年に提訴した鳥取ループ・示現舎による「全国部落調査」復刻版の出版差止請求裁判闘争について、2023年6月に東京高裁による「差別されない権利」を認めた判決が、2024年12月4日の最高裁の上告棄却で確定したことの意義に触れ、これからも差別を禁止する法律や人権救済機関を作る法律を求めていくと語りました。
オンラインで報告する髙橋定さん
「公権力による人権侵害―これとどう闘うか」というテーマで報告を行った藤原精吾さんは、刑務所などの収容施設における虐待のケースや、東京オリンピックのときに起きた野宿者に対する強制立ち退き、2025年に万博開催を控える大阪での同様の事例などを挙げ、公権力による人権侵害がもたらす被害の深刻さとその解決の難しさについて述べました。そして、兵庫訴訟弁護団長として取り組んだ優生保護法被害者国家賠償請求事件について、旧優生保護法という法律の名の下に75年間にわたって続いた重大な人権侵害の被害者がようやく補償を受けられるようになったことは闘いなくしては達成できなかったと振り返り、法律を盾にした人権侵害を防ぐためにも政府から忖度なく意見することができる独立した人権機関が必要だと述べました。
藤原精吾さんによる報告
第1部の報告を受け国際人権法の専門家である申惠丰さんは、「結婚の自由をすべての人に訴訟」について異性婚しか認めないことを違憲とする判決が高裁(札幌、東京)でも出ていることに触れ、性的指向による差別の禁止に加え、多様な家族が法的保護を受ける権利という観点からも同性カップルの保護が導かれると述べました。また、差別についてマジョリティの理解を求めるという考え方ではなく、一人ひとりの権利の問題として様々な事由に基づく差別を法的に禁止する包括的差別禁止法が必要だと述べました。さらに、すでに様々な判例において国連の人権条約機関による勧告が判決の際の根拠として扱われるようになっていることを挙げ、政府がたびたび主張する勧告に法的拘束力がないことは問題とされておらず、憲法解釈に人権条約を活かす流れが形成されてきていることを指摘しました。
評論家の荻上チキさんは、報告を通じて憲法14条に基づく「差別されない権利」をどのように確保していくかという視点、そして今日のヘイトスピーチや部落差別、また公権力による監視などの人権侵害がデジタル技術によって行われていることに着目し、「デジタル市民権」をキーワードにデジタル領域における人権課題について論じました。そして、デジタル領域を含む人権保障をめぐって〈社会通念〉が果たしている役割について述べ、独立した人権救済機関や差別禁止法によって誰が差別されているのかを再発見しつつ、何が差別に当たるのかという社会通念の見直しが進むことの重要性について述べました。
申惠丰さん(中央)、荻上チキさん(右)によるトークセッション
第3部の全体会では、会場参加者ならびにオンライン参加者からは多くの質問が寄せられ、国際基準の人権保障に向けた法整備に向けた課題や市民社会やそれぞれの地域でできること、またネットユーザーとして反差別の規範形成にどう寄与できるのかなど、多彩な質問に対して登壇者から応答がなされました。
4名の登壇者による全体会、ファシリテーターはヒューライツ大阪所長 三輪敦子(左端)
会場とオンライン含めて約160名の参加がありました。
シンポジウムに続いて17:30より、大阪商工会議所のビル内にある「ニューコクサイ」で「ヒューライツ大阪設立30周年記念交流会」を開催しました。ヒューライツ大阪設立時よりご支援をいただいている団体・個人のみなさまをはじめ、会員として、あるいは協働して事業を進めてきたみなさまとともに30年をふりかえり、交流を深める一時を持ちました。交流会参加者のみなさまから温かいお祝いのメッセージをいただきました。所蔵写真を通じて、30年間の組織と事業の歴史をふりかえったり、スタッフや会員によるダンスや歌とピアノ伴奏を披露するなど楽しいプログラムも企画しました。 ヒューライツ大阪関係者を含め57名が参加しました。
フラダンスの披露
会員による歌の披露
2009年度以降、公的支援がなくなり、厳しい運営状況が続いておりますが、2012年に一般財団法人として新たな定款のもとで歩み初め、大阪そして日本に国際人権基準の人権を実現することに注力しております。
役職員一同、30年間の歴史と経験で得た学びとネットワークに立脚し、国際社会の動向を踏まえ、一層事業の発展に努力を続けていきたいという思いを新たにしました。